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第一章:優しい悪魔 【3】

私の祖父は、その世界では、ちょっと名の知れた陶芸家だった。


芸術家らしく人間嫌いのちょっぴり偏屈な老人で、隣の市にある山の麓の工房に一人で住んでいた。


幼かった私は、山で遊ぶのが、大好きで、週末になると、祖父の家に泊まって一日中森を駆けずり回って遊んでいた。


あの日も、両親が、友人の結婚式に出かけることになり、いつものように祖父に家に預けられた。


いつもと違って、むすくれていたことをよく覚えている。


梅雨のせいか天気が愚図ついていたので、祖父に外遊びは、やめるように言われていたのだ。


それでも、昼過ぎに突然、空が真っ黒になり、恐ろしい雷音と共に稲妻が光った時は、祖父の言いつけを守って良かったと子供心に思った。


その時の雷は、ただ怖いだけではなく、何か得体の知れない不吉なものを運んできたような気がした。


そして、幼い私の予感は、あながち間違いでもなかった。


両親の事故死が分かったのは、その日の夜遅くだった。


正直言うと、私は、両親の事故前後の記憶があまりない。


穏やかで幸福な時間とそれが突然失われた後の戸惑いと悲しみの時間が食い違い、同じ人生の一部として繋がっていないのだと思う。


ただその空白みたいな時間の中で、祖父以外に誰かが、私の隣にいたことは、なんとなく覚えている。


それは、祖父のようにも重くどっしりした存在ではなくて、小さくてはかない存在で・・。





朝日が昇って落ちるまで、とても長い1日だった。


入れ代わり立ち代わり色んな人が、黒い服でやってきて、祖父と話していた。


私は、誰にも会いたくなくて、とにかく人の気配から逃れたくて、祖父の工房に閉じ篭っていた。


工房のドアが、開いた音は、とても小さく、その子の足音もとても小さかった。


音もなく現われたその子は、私の隣にしゃがみ込んだ。


ごちゃごちゃした工房の中を迷いなく歩く慣れた動作は、その子が、もう何度も工房を訪れたことがある証拠だった。


『じいちゃんが、呼んでるよ。』


『行きたくない。』


私は、ぶっきらぼうに答えた。


『でも、』


その子は、躊躇いがちに私の手を引こうとした。


『やだったら、やだ!なんで私が、こんな目に遭うの?』


口に出したら涙が、溢れた。


『お母さんもお父さんも酷い。なんで、私だけ置いていくの?私、独りぼっちになってしまったじゃない。』


『独りぼっちになったことが、怖いの?』


その子は、不思議そうに私を覗き込んだ。


『僕なんか、ずっと独りだよ。』


『でも、お父さんもお母さんも生きてるじゃない。』


その子が悪いわけじゃないのに私は、その子を責めるように睨んだ。


『でも、独りだ。』


そこまで言うと、その子は、何か思いついたように目を輝かせた。


『じゃあ、良いこと思いついた。』


その子は、私の耳に口を寄せると、耳打ちした。


なんと言ったのか、よく聞こえない。


ただ、その言葉は、壊れた私の心に隙間に魔法のように入り込んできた。


『僕と・・・・・よう。そうすれば、ずっと一緒にいられるよ。』


聞き返そうとした時、頭の上で目覚まし時計が、鳴り出した。


ああ、これは、夢だ。





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