序章
イントロなので、読み飛ばしてもらってもかまいません。実際のストーリーと大分印象が違います。
古今東西津々浦々、悪魔の囁きにそそのかされて身を滅ぼす人間の話は、数多く存在する。
大抵の場合、根性曲がりや欲張りなど人道的に問題のある人間が、甘い悪魔の誘いに乗り、日頃の行いを改めさせられるような酷い目にあう。
でも、それは、人の欲深さを非難するための道徳的な御伽噺だ。
悪魔が最も好むのは、心の弱い者。
壊れそうな心を持った弱い弱い人間ほど、悪魔にとって扱いやすいものはないのだから。
いいや、悪魔に限った話ではないかもしれない。
人間も同じことができる。
心の脆さに負けて。
とにかく楽になりたくて。
それは、とても美しく、魅惑的な存在。
優しく甘い言葉を前にして、頷くだけでいい。
後悔するのは、悪魔の虜になったことに気がついてから。
ずっとずっと後の話。
忘れてしまうくらい、後になり間違いに気がつくものだ。
それでも私が、あの悪魔に惹かれてしまったのは、あの子が、とても優しくて脆かったから。
利用されてもいいと呆れるほど素直に思ってしまった。
たとえば、過去に戻れても私達は、きっと同じ選択をするだろう。
愚かでも馬鹿げていても。
それが、私達なのだから。