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第五章 上 一人目

「ふぅ、」


回想から戻ってきた俺は特にもうここでやることも無いので、セリアと合流することにした。

幸いここら一帯は木が密集しているため、モンスターに見つかるリスクは少ないらしく夜が明けるまで休憩してから、次の街へ行くのが妥当と俺達は判断した。


「それにしても、セリアはちゃんと食料を確保してるかな。」


俺は薪を落とさないように慎重に戻る。

森を歩いてる間に焚き火と寝る程度なら出来そうなスペースを見付けておいたのだ。

数分歩くと、灯りが見えてきた。あそこが野宿する場所で間違いないだろう。


「・・・・ん?何で灯りなんてあるんだ。」


それは火の様な赤々とした色ではなく、強いて例えるなら電球の様な灯りだ。そしてよく目を凝らすとその灯りはすばしっこく地を駆けるように動いていた。

モンスターでも出たのか!

そう思い急いで向かうとそこには、


「こらー、まてまてー、」


動く発光体と走り回る少女の姿があった。

それは庭で飼い犬とじゃれるお嬢様と形容すべきなのだろうが、いかんせん背景は森なのだ。

セリアは見たことが無いほどの幸せそうな顔で、体長30センチ程の丸い発光体を追い掛けている。

そして唐突に、


「もう、こうしてやるわー」


と発光体に飛び掛かった。

ボフッ! と発光体は見事にセンチに掴まえられ、モフモフ(だろうか)されている。


「このフワフワな奴めー」


セリアは発光体をバグしたまま地面を転がり回っている。

そして俺はその光景を真顔で見つめている。

俺に気付かないのか、セリアは転がり回り続け遂に、


「あっ・・・・」


俺と目が合った。


「・・・・・・・」


俺は真顔のまま佇み


「・・・・・・・」


セリアは表情が抜け落ちた様な蒼白な顔でこっちを見る。

沈黙が俺達を包んだが直に、


「はわわわわわわわわ!」


セリアは蒸気が上がるほど顔を真っ赤にして、


「み、見るなっー!」


と発光体を投げつけてきた。

反射的にキャッチしてしまったが、意外にフワフワとしていたので俺が貰うことにした。




「お見苦しいところをお見せしました・・・」


セリアが正座して俺に謝ってくる。大分落ち着いた様だが、まだ頬は赤いままだ。


「お陰でこっちまで見てはいけないものを見た気分だよ。」


オ○ニーしているところを目撃した母親ってこういう気分なんだな、

そして俺はいまだに発光体を抱いている。

この発光体は焚き火をしたとたん、光が弱くなったので今は直視できるが、体は毛むくじゃらだ。見たところ光っているのは、体毛ではなく皮膚のようだ。多分体毛は透明色だろう。シロクマみたいに。


「まぁ俺も見なかったことにするから。そう落ち込むなよ?」


「えぇ、それは助かります。」


セリアは今の言葉で安堵したらしい。

セリアは意を決したような顔で話し始めた、


「実は私ね、今までの16年間外に出たことが無かったの」


「え?16年間も?」


中、高の俺より酷いじゃないか、温室育ちにも程があるだろ。


「だから商店街もモンスターも本でしか見ることが出来なかったのよ。両親がそういう方針だったからね。」


「・・・お前は嫌じゃなかったのか?」


ふと思い起こされるのは、9才の頃の俺。親にただ従順だった頃の無機物のような俺。


「勿論嫌だったわよ。でも受け入れるしか当時の私に選択肢はなかったのよ。いづれ外に出たいって思いながら。」


・・・・・・


「だからね、今の状況で言うのは不謹慎かも知れないけど、」


私ね、と続けて


「この旅に出れて良かったわ。」


とセリアは笑い掛けた。


「 っ!」


俺はセリアがかなりの美人だったと改めて認識させられた。

しかし、いつまでも照れっぱなしは恥ずかしいな、

俺は恥ずかしさを紛らわすように俺の右側にある茂みに発光体を投げつけ・・・


ガシッ!


・・・られなかった。


「おい、なぜ俺の腕を掴む?」


「当然でしょ?そんな可愛い生き物を見捨てるなんて貴族令嬢として黙ってられないわ!」


「なんだお前めんどくさい奴だな。それにこいつのどこが可愛いんだ?ただ発光するだけじゃんか。」


「嫌よ!発光しているところが可愛いじゃない。

あなたは小動物に恨みでもあるの?」


「こんな気味悪い生物は動物と言えねーよ!モンスターって言うんだよ!」


「ハジキ!あなたは目の病院に行くべきだわ。だって可愛いんだもん!可愛いから動物よ!よって見捨てることは我が家の名に懸けて絶対にさせないわ!」


「お前、アイドルは鼻ほじらないみたいな変な幻想抱きやがって!俺も橘家の名に懸けてこのモンスターは処分してやる。」


「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

やめて!あなたには人間の心が無いの?腕を大きく振りかぶるのは駄目よ!ちょっ、ちょっと待ちなさいよねえ!」




俺達はそれから紆余曲折あり、発光するモンスターは野に返した方が良いということでなんとか合意しセリアの強い要望でお別れ会をするはめになった。


「グスッ!グスッ!強く生きるのよ。変な色したきのこは食べちゃ駄目よ。いつかどこかで合えるわ。

・・・さよなら、ジャーフィ。」


いつの間にこいつに名前付けてたんだよ。

ツッコむべきか否か葛藤する俺を他所に、セリアのお別れ会はどんどん進行する。

セリアは懐からなにやら紋章のようなものがデザインされた豪華なティアラを取り出すとジャーフィに装着させて、


「もし困った事があれば近くの街に行きなさい。

この私の家に伝わるティアラがある限り、あなたを悪いようにする人はいないわ。」


と言いつけた。

そんな大事そうな物を簡単に渡して良いのか・・

そうツッコんでやろうと思ったが。

でもこのタイミングで言うのは少々無粋だな。

そんな空気ではなかった、

セリアから貰ったティアラを着けたジャーフィは自らが出す光がティアラの装飾に反射して目が痛くなりそうな程眩かった。

するとジャーフィはセリアのお別れ会が終わったと感じたのか、おもむろに奥の茂みに向かっていった。


「私が一人前になったら迎えにいくからね。

待ってるのよ。」


そう涙しながら訴えるセリアに対し応えたのは


「きゃあっ!ほ、本物?」


弱々しいが俺にもはっきりと認識出来る声だった。


「「・・・・・・」」


嫌な沈黙が俺達を包み込む。

おい、何で黙るんだセリア。頼むからお前が出した声だと言ってくれ。俺に恐ろしい想像をさせないでくれ!

そう目でセリアに訴えかけるが、セリアも瞳孔が開ききった目で俺を見てくる。マ、マジかよ。

俺は意を決して、


「なぁセリア。」


「ん?どうしたの?」


お互いガチガチに声が震えている。


「さっきの声ってお前?」


「わ、私はあんな弱々しい声してないわよ。」


「だよな、じゃじゃあモンスターか?」


「そんなはずないわ。私たち文明人と共通の言語を発せられるモンスターはこんな所にいないわよ。もしいたらジャーフィは餌にされてるわ、今頃。そんな不吉なこと考えさせないでよね。」


「わりぃ。じゃあ残る選択肢てきに・・・」


「一択しかないわね・・・」


「「・・・・・」」


「おい、なんで何も言わないんだよ。お前が言えよ。一択しかないんだろ?」


「あ、あなたが言いなさいよ。振ってあげたの私でしょ?」


「俺は若手芸人じゃねーんだよ。そんな振り求めてねー。おいそんな泣きそうな目で見るな。じゃ、じゃあ一緒に言うぞ!いいな。」


セリアがコクコクと首を振るので、俺は「せーの」と合図して、俺とセリアは


「「お化け!」」


と残る選択肢を言い放った。

み、見事に被っちまった・・・

ちなみに俺はお化けだの幽霊だのオカルトの類いが大の苦手だ。

お互いに被っちまったと認識した刹那、首筋を嫌な汗が伝ってくる。

こうなったら多少強引でも話題を反らすしかない!

そう俺は判断し、


「セ、セリア。もうこんな遅い時間だしそろそろ就寝するべきだ。夜更かしは美容に良くないしね?」


焦って疑問形になってしまった。

しかし、セリアも俺の発言の意図を察してくれたのか、


「え、えぇ!そうよね。夜更かしは美容に悪いもの。これ以上成長を遅らす訳にはいかないものね!」


「そうと決まれば早速寝る準備をするとしよう!焚き火消すぞ?」


「えぇ」とセリアの承諾を貰ったので、俺は焚き火を消して横になる。

勿論地面に横になるので体を痛めそうだが背に腹は代えられない。一晩中座ってるよりは良いだろう。

セリアも俺から離れた所に横になるのだろうか。足音が遠いな。


「「 」」


こうお互いに何も話さないと、自分は闇に囚われたような気分になってくる。

今日は本当に災難だったな。

そう感慨にふけるとふと先程のお化けのことを思い出してしまった。

・・・・・

辺りは真っ暗。いつ出てもおかしくないロケーションである。

まっ、待つんだ俺。そんなネガティブなことを考えるな。無心だ無心。

しかし、心を無にしようと思えば思うほど、先程の音声が蘇ってくる。

だめだ、やることがないとそういう思考に至ってしまう!セリアとでも話して気を紛らわすしかないか。


「せ、すぇルぃあ。」


なんちゅう声だ今のは!気を紛らわしたいという気持ちと寝てたらなんか申し訳ないという気持ちですっごい気色悪いいびきみたいな音が出たぞ!気持ち悪っ!も、もう一度声掛けるか。でもさっきみたいな声でセリアが起きてたとしたら超恥ずかしいぞ!

結局俺は声を掛けるのを諦めて無理やり目を瞑る。

そうだ、羊を数えると眠れると聞いたことがあるぞ!羊が一匹、羊が二匹、羊が三匹・・・・・・羊が八十五匹、だめだ!全然眠くならん!そして俺の頭の中に現れた魑魅魍魎たちよ、早く失せろ!お化けはもうやめてくれよ。絶望寸前だ。

あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ寝れねぇぇぇぇぇぇぇぇ!

俺の夜の闘いが今始まった・・・







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