第四章 中 初夜
俺がセリアと合流するために入った宿で最初に見た景色は受付と揉めているセリアだった。
結局俺はあれから例の女性を探したが、相手の足が早かったのか、俺に土地勘がなかったのか、見つけることは出来なかった。
でもこの街はかなり複雑な造りらしく、
「この辺で碧色の髪をした女に会わなかったか?」
と若い男に聞かれた。
俺と同じで話しかけようとしたら居なくなっていたのだろう・・・
「だ!か!ら! もう一人の奴の身分は私が証明するっていってるでしょ?早く鍵渡しなさいよ!」
「お客様の気持ちは痛いほど分かるのですが、それはこの宿の規則でして。御三家に贔屓にして頂いてる宿ですので、身分の分からない方を泊める訳にはいかないのです。ご理解とご協力のほどよろしくお願いいたします。」
「痛いほど分かるんでしょ?分かるんなら早くしなさいよ!大丈夫!御三家は一晩不審者が居たくらいじゃ御三家は何も言わないわよ!あいつら金持って無いし。」
「お客様、これ以上は不敬罪に問われますよ!落ち着いて下さい!」
おっと、気付いたらセリアが受付に押さえられてるじゃないか、
流石にこれ以上やらかすと、俺達追い出されるな。・・・・仲裁するか、
俺は極力平静を意識しながらセリアたちに近づく。
こんな悪目立ちすることはこれっきりにしてくれ・・・これが俺の本心だがな、
「おいセリア、それくらいにしとけよ。俺の身分を証明すればいいんだろ?ほら、多分免許証持ってっから。」
先程気付いたことなのだが、俺がスーツを着てたことといい、異世界転移される直前に持っていた物は今手元にあるようだ。価値のない紙幣や免許証も、
「はぁ?確かにあなたがここに記載されている、タチバナ ハジキ様で間違いないようですね。・・・少々お待ち下さい。すぐに鍵を用意いたします。」
受付が慌てて様子で奥に向かってゆく。
俺はどうやら不審者と思われていたようだ・・・
「あら、あんた随分と精工な肖像画持ってるのね。」
セリアが俺の免許証を見て驚愕の表情を示している。
そうか、この世界に写真はまだなかったのか。
それに、とセリアは続ける。
「あなた、ちゃんと名前持ってたのね。」
・・・・・・
「おい、それは俺もカチンと来たぞ。俺はどこからどう見ても人間だろ?
これを期にきちんと覚えろよ?俺はタチバナ ハジキ、22歳立派な成人男性だ!」
「わ、悪かったわよ、そんな目ぇ見開かないでよね。南方出身だし名乗らなかったじゃない、誤解するのも道理じゃない?」
セリアが両手を挙げて謝罪する。
なんかスカッとしたしもういいや・・・
「お待たせ致しました。こちらお客様の今日のお部屋の鍵でございます。」
お、受付が鍵を持ってきてくれたな。
「ありがとさん。おし、セリア、部屋行こ・・・ん?」
この鍵、『201ゴウシツ』と書いてあるじゃないか。
・・・・・俺の免許証の名前を読めたことといい、この鍵といいどうやらこの世界は片仮名が通じるようだな。
すると突然、
「ちょっとあんた!なんで鍵一つしか渡さないのよ!あなた視力あるの?
ここには二人客がいるのよ!」
またセリアが受付に絡んでる。
「お客様、お気をお沈め下さい!」
「沈めて欲しかったらとっとと鍵持ってきなさいよ!」
この女は誰かと喧嘩してないと生きていけないのかよ。
「セリア、お前そんな変に目立つ様なことしないでくれよなー。他の客に滅茶苦茶見られてるじゃねーか!ほら、あの紫髪の人とかこっちガン見してるぞ!」
この宿で俺達は浮きすぎてる気がする。・・・いや、気がするじゃなくて事実だな。
「ほらもう部屋行くぞ!」
俺の呼び掛けで流石に今の状況に気づいたのか、セリアが大人しくなって階段に向かう。
その後、セリアが成人した男と寝たくないと騒ぎだし俺は結局、トイレで寝る羽目になってしまったとさ・・・・・・悲しいなぁ、
この世界は攻略どころか、まだ冒険の振りだしにも立てて居ないことに気付き、夜中一人で泣いていたのはここだけの話である、