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幕間 服

俺達は今次の街(コーテルと言うらしい)を目前に足止めを喰らっている。正確にはレイリアと俺がが街に入れないだけであるが・・・


「なぁおっさん、俺とこいつは身分証明書を持ったないだけであって別に怪しくなんてないって!ほらあの人、あんたも知ってるだろ?かの有名な魔術本家スカーレット家のご令嬢さんだから。その人と一緒にいただろ?だから入れてくれって。ほんと、もう野宿は嫌なんだって。」


俺は壁門の門番であろう鎧を纏ったおっさんに訴え続けている。


「悪いがいくら高貴な貴族のご令嬢のお連れ様であろうと、身元を保証できる物がない者を街に入れるわけにはいかない。・・・それに彼女がスカーレット家の者であるとも証明出来ていないではないか。」


「はぁ!?証明が出来ないも何も、俺がそんなくだらねぇ嘘つくわけねぇだろ?俺とあんたの仲だろ、バイオレンス君?」


「誰がバイオレンス君だ。俺はそんな威圧的な名前をしてはいない。・・・・ならば、彼女がスカーレット家のご令嬢であることを証明して見せろ。そうすれば貴様ら三人、ここを通してやる。」


「え?三人?私も?」


門番の提案にセリアは文句がありそうだが俺はそんな事考えてる余裕はなかった。


「セリアがスカーレットである証明だと?セ、セリア。何かあるか?そういうの。」


家紋とか入った物だと1発だと思うんだよなぁ。


「それなら私、ティアラを持ってるわよ。本当の万が一の為にね。」


そう言いながらセリアは懐をまさぐる。

しかし


「っ!・・・・・・・・ねぇ。私達が今朝何をしたか覚えてる?」


「えっ、俺達が・・・今朝・・・・・・・あ。」


たった今俺の脳に今朝の記憶が呼び起こされた。


「証明無理じゃね?」


それが記憶を呼び起こした結論だった。

顔を蒼白にさせて絶望する俺の肩を門番がポンポンと手を置いてくるが慰めにもならない。


「おっさん、今から身分証明書って作れる?」


「あぁ、だが手数料は取るぞ。」


俺は身分証明書を作るべく門番に奥まで案内してもらうのだった。




◇ ◇




俺は今門番と机を挟んで向かい合っている。そして机の上には地震計の様な物が置いてある。そこに手を置くと本人の情報を得られるそうだ。


「はい、じゃあ本人確認するから。本名言って。」


「タチバナ・ハジキだ。」


「うん、拘束。」


門番は机に置かれた紙(見た感じはパピルスに見えなくもないが)を一瞥したかと思うと俺の後ろに控えてた人に拘束を命じた。


「あっ!おい放せよ!本名言えって言ったから本名言っただけじゃねぇか!羽交い締めにすんな!」


「本名だと?この魔導具に偽名が通じると思ってるのか?これはお前の魂に刻まれた名を書き出す。どんな魔術師だろうとこれを突破することは不可能だ。」


「何が魂に刻まれた名だ!あぁもうっ!住民票でも携帯しとけばよかった。本名で駄目ならなんだ、通り名でも言えば良いのか?そうだな・・・

一時期『ゴリ押しのハジキ』って呼ばれてたな。」


「情状酌量の余地なしっと。」


門番がいつの間に取り出したのか被告証言書と書かれた紙にそう綴っていた。


「オィィィ!そんな物騒な名前した紙取り出しやがって!何がそんなに気に食わなかった?『ゴリ押しのハジキ』か?そんな腹立つ名前だった?」


「俺は公務員だぞ。その程度の事で一般市民を起訴する訳ないだろ。残念ながらこの魔導具はお前の本名を『フジミヤ・レンゴ』だといっている。心当たりは?」


・・・・・あー。


「心当たりはねぇな。それが壊れてるんじゃねぇの?さっきのレイリアの時だってやけに長い名前だったじゃねぇか。」


そう推測する俺の後ろでレイリアはコクコクと頷いている。ちなみにレイリアは門番が紙を見たあと「いや、流石にこれはない。」と言って本名はレイリアの4文字に替えて貰っていた。よほどエグい名前が出てきたのだろうか。


「ふむ、俺は人々が納めてくれてる税金で食っているんだ。リスクを潰すのが役目だが・・・先程の件もあったしな、今回だけは特例で『タチバナ・ハジキ』にしておいてやる。」


「うおっ、あざす!」


俺は机に頭がめり込みそうなほどに頭を下げた。

やっぱ異世界はこういうところチョロいぜ。




◇ ◇



「ど、どうぞ。なんの変哲もない家ですが。

セリア様には拙宅は狭すぎるかもしれません。」


俺はなんとかコーテルに入ったあとレイリアの家で一拍させて貰えることになった。レイリアは俺達の冒険に合わせてここを解約するそうだ。

・・・ほんと人が良いのか押しに弱いのか。


「居間はまっすぐ行ったところになりますので。わ、私は粗茶を淹れてまいります。」


「そんなかしこまらなくてもいいって。なぁセリア・・・ってお前は少しかしこまった方が良いな。」


初めての女性の家に緊張している俺とは対照的にセリアはもう横になって寝る構えをしている。


「しょうがないでしょ。私は徹夜なのて・つ・や。ハジキが門番と言い争ってたときもほんと立ちながら寝てたのよ?貴族の私が。」


「お前は本当にたくましいな。」


セリアに少しばかり感心している俺に


「あれ?セリア様は寝てしまわれたのですか。あ、どうぞ粗茶です。」


レイリアがお茶を淹れて来てくれた。セリアは少し目を離したら夢の中に向かわれてしまっていた。


「それにしても、この家少しばかり物が少なくないか?」


「えぇ、ハジキ君も知ってると思いますが、身分証明書を所持していないと買い物でも事欠く事があるのですよ。服もこれしかありませんしね。」


そう言ってレイリアは自分が着ている服をつまんだ。


「毎日外に出る訳ではありませんので寝間着と外服が1つずつあれば充分でした。」


「だが、近々旅をするとなると1着では心許ないんじゃないか?・・・よかったら今度一緒に服買いに行かね?俺もこのスーツ1つしか持ってなくてな。」


言ったぁぁぁぁぁ!

俺は残念ながら女性経験は0だ。勿論休日に異性を買い物に誘ったことなどない。

・・・何だこれ。すごく緊張したぞおい。ラブコメでもあるまいしに。


「では明日にでも。なんだか新鮮な気分です。男の人と買い物に行くなんて。で、それでですね買い物に行くにあたって相談があるのですが私、」


「俺も少し相談があるんだ。実は俺、」


「「お金持ってない(んだけど)(んですが)」」


全く同じ内容だった。いや、嬉しいなんて微塵も思えねぇが。


「「・・・・・」」


俺とレイリアはおもむろに横になっているセリアの方を向く。


ゴロン。


あっ、セリアが寝返りをうった。完全に俺達から目を背ける形になる。


「おーいセリア、起きてんだろ?金の話になって矛先が自分に向くと思ったんだろ?」


セリアはしばらくノーリアクションを敢行したが


「えぇそうよ。まぁそう・・・・スカーレット家はお金あるからね。いいわよ。1着だけよ?」


観念したように了承してくれた。

どうやらセリアは寝起きだと財布の紐が緩いらしい。




◇ ◇



「おぉ!デッケェ。」


今俺の目の前には巨大な建物が聳えていた。高さ60メートルはくだらない辺りの建物から完全に浮いている煉瓦のデパートだ。


「当たり前よ。この街は魔石を加工する街。魔石と商人が集まれば自然と他の物も集まってくるのよ。私も来たことが無いのだけれど、噂ではいくつもの店が密集しているそうよ。勿論服屋も例外ではなくね。」


「すごいです。私が見てきた建物の中で一番大きいかもしれませんよ。」


俺と同様セリアとレイリアも感銘をうけているようだ。


「さぁ!時間は有限よ。買い物を楽しみなさい。」


俺達は多大な歓喜を胸に、店内に足を踏み入れるのだった。




◇ ◇




「こちら最近の王都で話題となっております6,8分丈のシャツでございます。」


バッチリとスーツを着こなしている店員が恭しくシャツを俺に薦めてくる。

俺はバッと後ろを向いてレイリアに話し掛ける、


「ねぇレイリア、6,8分丈って何だよ。なんで七分丈じゃ駄目なんだよ。どんな理由があって-0,2したのか皆目検討もつかないんだけど。」


「そんな事私に言われても解りませんよ。私は今のと同じ柄を探しているんですから。」


「分かる。変に別ジャンルに手を出して失敗するってなんか怖いもんな。」


「えぇそれにわざわざ薦めてくれると思うと買わざるを得なくなると言いますか・・・」


「という事でお姉さん。俺色々回ってから服決め・・・あれ?」


一旦保留にしとこうと振り向いた俺だが俺の視界に・・・・もう店員はいなかった。

最後まで接客してくれよ、


「この建物の向かいにオーダーメイドの服屋が在るけどそれにする?」


「「はい、お願いします。」」


店員に逃げられた俺を憂いたセリアの言葉に俺達は甘えることにした。それは年下の少女に哀れみを向けられているなんとも恥ずかしい大人達の姿だった。



そして数日後大きさ、柄が全く同じの服がハジキとレイリアに届くのはまた別の話である。


今回は幕間ですので読まなくても今後の本編の内容が解るように作りました。

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