第六章 東の支配家
俺達は今次の街に向かって歩いている。しかし、
「ぐすんっ!ぐすっ!ありがとぉ。初めてが知性の無い獣に持っていかれなくて良かったわぁ!」
「別にそんな感謝しなくていいって。ただ犯罪を見過ごせないとい倫理観が働いただけだって。
それより服だけで済んだことを喜ぼうぜ?」
俺はオークをシバいた後、セリアにこれでもかと感謝されている。さっきから俺の言動から(まるで)イケメンがあふれでているが勿論半分は本心だ。半分は!
ちなみにオークは俺が一分で鏖殺したらしい。何でこんなに曖昧な表現かといえば、全く記憶が無いのだ。まぁ俗に言う気を失って、気付いたら辺り血塗れというやつだ。彼女はいないが。
「私ね、てっきりオークの側に付いたら良い思い出来るんじゃね?とか思って助けてくれなかったと思ってたの。こんな浅はかで愚かな主を許して頂戴。」
「そぉ↑んなこと無いって!誤解に誤解を重ねて信頼ってものは出来上がるんだから。」
ず、図星過ぎて物凄いビブラートがかかっちまった。でも私有地から出たこと無いって言う貴族令嬢がそんな風に考えるんだ。きっと俺以外の人間もそういう風に思考するだろう。人間の行動はその人の置かれた立場や雰囲気で決まるって聞いたことがある!だから俺の性格が屑な訳ではないよね!
しかしセリアは俺の頭の中など知るはずもなく、
「私を窮地から救ってくれた上にそんなに紳士的だなんて!私、あなたのこと見直したわ。」
どんどん俺の株が上がっていく。
もうオークのナニの小ささにキレて暴れたとは言えねーな。
そんな俺の肩が何かにつつかれた。
「あ、あの。助けていただきありがとう。・・・ございます。はい。」
俺が振り返ると感謝された。
・・・あぁ、セリアと一緒に助けた人か。
ロングのハーフアップで紫髪。膝下までのブーツに白地のスプラッシュ柄のTシャツ。そして半ズボンをはいている。かなりの美人だが、さっきから息がハァハァしているから事後にしか見えない。だが服に損傷が無いところを見るとオークには何もされずにすんだようだ。いやそうであってくれ。
しかし、
「あれぇ?ねぇ俺、あなたとどっかで会ったことあります?」
理由は皆目見当もつかないが、既視感がある。
「あらハジキ。もしかしてお知り合いかしら。こんな美人さんと。」
「何だ?焼きもちか?オークの件がそんなに効いたか。つり橋効果っていうのも馬鹿に出来ないねぇ。」
「は?あんたに惚れる位ならヒキガエルに色仕掛けする方がましよ。」
「こぉんの女ー!俺がヒキガエル以下みたいに言いやがって。カエルならせめてゴライアスガエルにしろよ!」
「あ・・・あの。」
俺達はカエルについて争うという不毛極まりない事になりかけたが、何とかお互いに矛を収められそうだ。
「助けていただいた上に差し出がましいのですが、お名前を教えてもらっても良いですか?はい。」
ずっと俯いているから多少聞き取りにくいけど恐らく人見知りするのだろう。セリアも察したらしい。
「俺の名前はタチバナ・ハジキ。でこいつが、」
「セリア・リ・スカーレットよ。」
俺がセリアに名乗るよう促すとセリアは誇らしげに名乗った。
「でででですよね!スカーレット家のご令嬢様ですよね!申し訳ありません!平民風情の身でありながら、名を名乗らせてしまって!な、何卒ご容赦を!」
突然セリアに向かって頭を下げ、謝り出した。
ってこれってまさか。
「おいおい。セリアよ。この国はまだ民間人に平伏させる文化なのかよ。」
俺は頭を下げ続ける女性に向いて、
「いいか?貴族ってものはなそんな尊敬される人間じゃ無いんだぞ?人から金巻き上げた上に肝心なところは部下に押し付けてるんだぞ?」
無駄に権力を持ってるやつは大抵ロクなやつでない。俺の経験からだ。
まぁ上に立つ人間がどの組織にも必要なのも事実だが。
「あんたが私に対してどういう印象を抱いていたかよく分かったわ。」
セリアが声を凄めて言う。
「そ、そんなこと無いですよ!ですよ。」
「え?」
思わぬ所からの反撃だった。
「スカーレット家は凄い家なんですよ!130年前魔術を大成させて文明を六歩も七歩も先に進めた名家なんです!それにこの国の12%の土地が東側にスカーレット家の領地とした持ってるんです。これは王家の次に大きいんですよ。それに領主の支持率が80%きったこと無いのですよ。それにそれに・・・・」
「あーもう分かったって。セリアの家が凄いのは分かった。はいすいません。」
さっきまでおどおどしてたとは思えない程にぐいぐいくるので俺は両手を挙げて降参のポーズをとった。
だが一応事実無根の作り話だといけないから、セリアに目で合図を送った。
コクリ。セリアは自信満々で頷いた。
マジだった。
「あーセリア」
「ん?」
セリアが早く続きを言えと急かしてくる。
腹が立つが言わなければならんだろう。
「悪かった。」
「むふぅ!解れば良いのよ。」
満足げなセリアを横目に俺は尋ねた。
「なあ、何でこんなところに一人でいるんだ?」
「確かに。見たところ街からかなり離れてると思うのだけれど。」
セリアもそこは同じだったのだろう。
「私がここにいる理由ですか、か。
・・・・・っそう!魔石を集めに来たんです、よ。」
「魔石?一人で?ハイリスクロウリターンとしか言いようがないな。」
先日街で魔石の相場を確認してみたが、一人で殺せる程度のモンスターの魔石だと大した金にならないはずだ。
「それが次に私達が行く街だと魔石は高額で取引されるのよ。」
「へぇ。もしかしてこの辺は魔石が枯渇している感じ的な?」
しかしセリアは直ぐにいやいやと手を振ると、
「まずこれは基礎知識として覚えて欲しいのだけれど、魔石は専用の魔法と機械を使うことでその魔石の属性に合った物に加工できるのよ。
・・・例えば火の魔石は灯りとかに、水だと製水とかね。」
「なるほどな、だから魔石が金に代わるのか。」
「そう、そして魔石を加工する工場が次の街にあるのよ。」
工場が成り立つには加工する材料が必要。それで工場と魔石を売る人の間に商人いるってところか・・・それなら工場のある街で魔石を売って貰うために買い取り額を高く設定する訳か。
なんとなくだが納得出来た。
「ん?何だセリア。その褒めて貰うのを待つ犬の様な顔は。」
セリアが鼻を膨らませている。
しかしそれでもそれなりに美人な顔なのが腹立たしい。
「アスペル地区にある私達が行く次の街に工場があるの。工場はこの国には二つしかないのよ。」
「・・・・あーはいはい。スカーレット家は凄いなー(棒)」
「そうでしょ!」
棒読みだが褒められてセリアはご満足のようだ。
「あっそうだ!ねぇあなた!」
突然にセリアが女性に話し掛けた。
「は、はい。何でしょうか。」
「私と一緒に冒険しない?」
物凄いこと言いやがったな!
俺はまずいですよ!セリア先輩!と目線を送るがセリアは無視して続ける。
「だってあなたは食べていく為にモンスターを倒す。私は魔術師として一人前になりたい。なら私達組んだ方がお互いに良いと思わない?自分で言うのはなんだけど、私は結構戦力になるはずよ。まあハジキは別にして。」
「おい、確かに事実だけど本人の前でそんなこと言うんじゃねーよ。」
いや事実だけども。事実だけれども!
「だから私達と組んだ方が効率的に魔石を採れるわよ。3等分するのを考慮しても。」
「ですが偉大なるスカーレット家のご令嬢様が私の様な一般人と組むなんておそれ多いです・・・はい。」
セリアは熱弁をふるうが、そう上手くはいかないようだ。
「そ、それに私ごときと組んでもセリア様に利益が無いと思うのですが。」
「そんなこと無いわよ。旅は楽しい方が良いし、それに私もっといろんな人と触れ合いたいの。
だから・・・ね?」
セリアは手を合わせて上目遣いで頼み出した。
かなりあざといが効果は抜群だろう。
「・・・・・・では。ふつつかものですが宜しくお願い致します。」
「うん。ヨロシコ。」
「えぇ!宜しくね。」
セリアの押しに折れてくれた。
「よかったです。まさか向こうから言ってくれると思わなくて断ってしまいましたが・・・・」
「どうした?何かボソボソ言ってて聞こえんかった。」
「い、いえ。大丈夫です。」
まあ独り言ならいいか。
「ねぇ?あなたの名前って何て言うの?」
「・・・そう言えば聞いてなかったな。」
仲間になったし名前位知っておいた方が絶対に良い。
「私の名前ですが。う~ん。」
「レイリア。そう。レイリアと呼んで下さい。」
?何か違和感を感じたのは気のせいだろうか、
「よろしくね。レイリア。」
「はい!こちらこそ宜しくお願いします。セリア様!」
「ほらっ。ハジキも。」
「っあ!あぁ、よろしく。」
セリアは違和感を感じなかったようだ。じゃあいいか。
「あ!見てくださいハジキ君!街の壁ですよ。近いです!」
「そうね。街に着いたら少し寝たいわ。」
「まぁな。俺はさっきまで忘れてたよ。」
そう言えば寝てなかった。
・・・・あれ?俺の今の状況。両手に花ってやつじゃね?
ちょっと足が軽くなった気がする・・・・
俺は少しだけ今後の旅が楽しみになってきた。
しかしそんな理想は直ぐに潰えることは俺は少したりとも想像出来ていないのだった。