花筏~今までしてたのは、恋じゃなかったの?~
秋の桜子さまから頂いた扉絵です。
この作品は、香月よう子さまの活動報告、
【お題】「桜」が出てくるシーンを書いてみましょう。
から生まれました。
武 頼庵(藤谷 K介)さま主催の「第二回初恋・春」企画、参加作品です。
――今までしてたのは、恋じゃなかったの?
ひらり、はらり。
わたしの問いは、春の陽光の中、薄紅の花びらと共にくるくると舞い落ちた。
表になったり、裏になったり。
ひらひらと何度もひっくり返りながら、花びらが落ちていく。
そのうち光を反射しながら流れる川に着水して、先に流れていた他の花びらとくっついて連なった。
筏みたいって。そう思う。
――花びらが作る筏だから、花筏っていうんだよ。
そう、教えてくれた人の声が、私の耳の奥でこだました。
わたしの目の前では、花筏がゆっくりと川面を流れている。
――君のそれは、恋に恋してるだけなんだ。
そんな返事、聞きたくなかった。
彼の返事はこの川の流れみたいに、わたしの想いがくっついた、花筏を押しやってゆく。
――ありがとう、君の気持ちは嬉しかったよ。
そう言って困ったように笑い、彼はわたしの頭を撫でて去っていった。
違う。決めつけないで、先生。
本気だったの。ちゃんと恋だったの。本気で、本気で好きだったんだよ。
先生とわたしは、大人と子供。子供のわたしの恋なんて、本気に見えなかったかもしれない。
でもね、わたしは本気だったの。
先生の落ち着いた目が好きだった。分からないところを、分かるまで教えてくれるところが、他の先生とは違ってた。
なのに。先生が。
先生だけは、わたしを子供扱いしないでよ。
つうっと頬に液体が流れた。頬からあごに伝わって、ぽとりと地面に落ちる。
地面いっぱいに広がった桜の花びらが、涙の分だけそのピンクを濃い色に変えた。
さよなら、先生。
さよなら、私の初恋。
しばらく立ち尽くし、足元の花びらを濡らした私は。
ぐいっと袖で涙をふいて、ランドセルを背負い直した。
ざあっと風が吹き、頭の上の桜を散らす。
散った花の下からは、黄緑色の新しい葉っぱが顔を覗かせていた。