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勝手に応援企画! 放課後探偵は絶対ひっかからない?

作者: 犬上義彦

ハラハラ賞受賞作『放課後探偵は今日も鈍感』では、ウェブ掲載版では『一ノ瀬真琴』ですが、書籍化された作品では、『一ノ瀬弥生』となっております。ご了承ください。

「俺は山越雅之、探偵だ」

 中学生男子なら、誰だって、そう名乗ることに憧れているものだ。

 いざというときに声が裏返ったりしないように、今日も僕は教室のベランダで名乗る練習をしていた。

 すると、また一ノ瀬弥生がちょっかいを出してきたんだ。

「ねえねえ、大変よ」

「なんだよ」

「こんなものがあたしの机の中に入っていたのよ」

 あいつが手にしていたのは真新しい本だった。

『たちまちクライマックス! ボクは絶対ひっかからない!』という題名だ。なんだかどこかで聞いたことのあるシリーズだった。

「それがどうかしたのか」

「どうかしたのかなんて、あんた探偵のくせに、ずいぶんのんきね。ほら、見てみなさいよ」

 弥生はちょっとイライラしたように、僕に本を押しつけた。

 なんだよ。どれどれ、ええと……。

『ウソでしょ!? 真相は5分後に! すぐに読めて、何度もハラハラ! 7ストーリーズ』

「ふうん。1000円プラス消費税か。おもしろそうだね」

「なによ、反応薄いな」

「それ以外に何かあるのか」

 弥生がなぜかニヤニヤしはじめた。

「あんたも探偵なんだから、自分で考えたら」

 またいつものパターンだ。くだらない問題を持ち出して僕をからかうのが弥生のやり方なんだ。もちろん、そんなたくらみは僕の名推理で軽く跳ね返してやるんだけどね。

 でも、この本に隠された謎ってなんなんだろう。

 普通に本屋さんで売っていそうな児童書だけどな。

 ページの端がパリパリいう真新しさ。はさまれたスリップ。もちろん、帯もついている。見れば見るほど普通の本だ。

「まだ分からないの、探偵さん」

 弥生が得意げに僕の顔をのぞき込んでくる。いったい何が隠されているというのだろうか。

「ええと、これはアマ○ンで購入されたものだよね」

「その根拠は?」

「スリップがはさまってるだろ。一般書店では、購入時にこれを抜き取るじゃないか」

「ご名答。他には?」

 まだ何かあるのか。何も思いつかない。

「ヒントは二つ。題名を見てください」

 題名?

『たちまちクライマックス! ボクは絶対ひっかからない!』

 それがどうしたというのだろうか。

「二つ目。このシリーズには『犯人はキミだ!』という本もあります」

 それは知っている。たしかズレた推理ばっかりする中学生探偵が出てくるんだ。弥生のやつ、大笑いしながら読んでいたっけ。

「で、それがどうした?」

「名探偵なら、もう分かると思うんだけどな」

 またなんか生意気なことを言っている。本当に困った助手だよ。

 いったいなんだと言うんだろうか。もしかして、この中に秘密の暗号が隠されているとか。または犯行予告とか。でも、どう見てもただの普通の本だ。

「大事件なのにな」

 と、つぶやきながら弥生がもう一度題名を指さした。

「この本は、あたしに送りつけられてきたのよ」

 だから?

「なぜあんたのところじゃなかったんでしょうか」

「べつに、僕が注文したわけじゃないからだろ」

「ああもう、だからあんたはメイタンテイなのよ」

 おほめにあずかり光栄ですよ。

「まだ気づかないの?」

 何を?

「名探偵が集うこの本にあんたが登場しないのはなぜか」

「べつに、たまたまだろ」

「おかしいじゃない。だって、あんたは以前、このシリーズに登場してるのよ」

 え、そうなのか?

 僕はそんなに有名な探偵だったのか。

「おかしな推理ばっかりしてズレまくってるへっぽこ探偵さん」

「ああ、その話なら知ってるよ。『タンテイクンガスキ』って暗号が結局解けなかったんだよね。でも、僕とそれがなんの関係があるんだよ」

 弥生があきれかえったように肩をすくめた。欧米みたいなゼスチャーだ。

「本当にあんたって迷探偵よね」

 だから、そんなにほめてくれなくてもいいって。それより真相を聞かせろよ。

「この本の題名をもう一度よく見てみなさいよ」

 もう飽きるほど見たよ。

『たちまちクライマックス! ボクは絶対ひっかからない!』

 僕は声に出して読み上げた。

 弥生は満足そうにうなずきながら聞いている。

「で、結局、これがどうしたって言うんだよ」

「あたしにそれを言わせるの。あーあ」

 ため息をつきながら弥生が真相を告げた。

「あのね、あんた迷探偵だから、絶対に引っかかるでしょ。だから、この本には呼ばれなかったのよ」

 はあ?

 それが真相?

 僕が反論しようとしたら、弥生が人差し指を立てた。

「ほら、五分で謎が解けたでしょ」

 あ、本当だ。

「だから、犯人はあたしのところにこの本を送りつけたってわけよ。本物の名探偵はあたしってこと」

 なるほど。

 ん?

 いや、探偵は僕だろ。君は助手じゃないか。

「あんたもこの本を読んで少しは勉強したら?」

 僕に本を押しつけると、弥生はくるりと背を向けて行ってしまった。

 あれ、なんかはさまってるぞ。

 読者アンケートのハガキだ。

 何か書いてある。

『探偵君が好き』

 こ、これは!

 僕の数学のノートにも書いてあった暗号じゃないか。

 今回のは、手偏の書き方もちゃんとしている。

 ということは……。

 ……どういうことだ?

 謎が増えちゃったじゃないか。

 さっぱりわからないや。


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