其の一 第7話
皆が、洞窟奥の輝きを目指して走り続けていると……左右の岩壁が視界から消える。
代わりに、皆の瞳には……ライトストーンで満たされる、とても美しい景色が飛び込んできた。
「うわぁ……すごい綺麗」
セリカは、目指していた輝く場所……。幻想的で、途方もなく広く、眩しい空間を前に、目を光らせて呟いた。
洞窟内なのかと、少し疑ってしまうくらいに、明るく巨大な空間は……セリカが出身した小さな村ぐらいの、大きさは有りそうだ。
皆を囲むよう、円形に湾曲する周囲の壁は……先程まで確認できていた灰色の岩壁とは違い、氷のような蒼く光る膜に分厚く覆われている。
床や天井からは……鋭利で氷柱のような水晶が、生えるように多く伸びている。
と、
目を輝かせているセリカの隣で、フェンが声を震わせて口を開く。
「ゔぅ……な、なんか、さっきよりも、寒くないかぁ!?」
瞬間にセリカが、フェンの言葉へ生き生きとした口調で言う。
「そんなことないわよ!? それよりも、早く周辺を探索しましょう!!」
こう答えた口元から吐かれる息は、体外へ放出されるなり……辺りの空気温度で、白く凍結していた。
過度に興奮している所為で……肌に刺す寒さを忘れているのだ。
そんなセリカは……寒さを物ともせずに、どんどん奥のほうへ進んでいく。
追いかけて……ライトストーンを踏み割り歩く、皆の足音が空間に響き渡る。
やがて、先頭を進んでいるセリカの足音が消えた。
同時に、セリカの驚き興奮している一言が響く。
「な、なにこれ!?」
この声を耳にした皆は、セリカの元へと駆け向う。
到着した刹那、皆は……背丈などをゆうに上回る高さで、地から突き出している……氷柱のような水晶を確認できた。
「な、なんだこれ……?!」
ペリシアは、水晶を見上げながら唖然と呟いた。
水晶の尖った先端は、虹色に輝いており……辺りの壁や天井、地面を埋め尽くすライトストーンを照らして、更に美しく際立たせている。
皆が見惚れている中、ネルスが少し興奮して呟く。
「こ、コレは……イルミネート・ストーン!?」
「なによソレ!?」
ネルスが言い終えるなりスグに、セリカは問い掛けた。
すると……ネルスは、再び口を開いて語る。
「イルミネート・ストーンとは……沢山のライトストーンの素や、多くの貴重な物質が、一纏まりになって、凝固したモノ。一定の温度、湿度……などの条件。そして、長い時間を掛けなければ出来上がらない、とても凄いモノだ」
ネルスが、多少興奮気味に唇を閉じるなり、フェンがボソリと呟く。
「しかし、凄いモノっと言っても……ドラゴンの糞だったら、なんかなぁ……」
この呟きを聴き逃さなかったネルスは、瞬時に言い返す。
「だとしてもコレは、マニアの間では……とてつもない高値で、取引されているんだぞ? この大きさだと、一千万の額は超えるだろうな」
「「「「なっ!?」」」」
ネルスを除いて、その場にいる皆の声が轟いた。
その後スグに……セリカは水晶を指差して、ブツブツと呟きはじめる。
「ど、ドラゴンの糞が……一千万。私のブツでも、そんな額はいかないと思うのに」
「いや、逆にお前の汚物が一千万とか達したら、色々とヤバイだろ」
セリカの独り言を聴いていたフェンは、冷めた目で、冷静にツッコミを入れた。
刹那……セリカは頰を膨らませながら、フェンに文句を言いはじめる。
「な、なによっ!? 失礼ね!! 私のブツだって、もしかしたら……マニアな人たちが、高値で買うかもしれないじゃないのよ!?」
「いや……もし、そんなマニア達がいたとしたら、相当ヤバイ奴らだぞ?」
フェンとセリカが、ギャーギャー文句を言い合っていたら、
『――ヴォォオオオォォオオッ!!』
またも咆哮が鼓膜に響いてきた。
「ゔぅ、耳が痛い!?」
セリカは口喧嘩を中断して、両手で左右の耳を力強く抑える。
今回のは……頭が勝ち割れてしまいそうなぐらいに、とても大きく響いている。




