其の一 第5話
セリカとネルスが、お互いに悪口を言い合っている中……アネータは、不安そうに胸元で両手を握り合わせて呟く。
「ドラゴン……こわいですね」
そんな言葉を不意に聴いてしまったネルスは、スグにセリカとの口喧嘩を切り上げて述べる。
「そんなに怖がらなくても、大丈夫だと思うぞ? さっき響いてきた咆哮の感じから推測するに……ドラゴンがいる場所とは、かなり距離が離れているだろうし」
「そ、そうなんでしょうか……?」
アネータが多少に安心しながら、ネルスの発言に返答をすると……ペリシアの興奮して驚いている声が、突然に洞窟内で響く。
「なんか、洞窟の中が『妙に明るい』って思っていたけど……コレが、視界を照らしてくれていたんだ!!」
コレとは、なんだろう……??
場にいる皆が、同様な疑問を抱いて……ペリシアの方へ顔を向ける。
刹那、皆の眼には……謎の発光する石コロを、片手で地面から拾い上げている、ペリシアの姿が映った。
直後に、ネルスが言う。
「それは……ライトストーンじゃないか」
「えっ、ライトストーン? なにそれ!?」
ネルスの発言を耳にしたペリシアは、スグに質問を投げかけた。
すると、再びネルスの唇がユックリと動き始める。
「ライトストーンとは……この洞窟の最深部に封印されている『クリスタル・ドラゴン』から、生み出されたモノで――」
と、
「あのぉ……。最深部に居るはずのドラゴンが生み出したモノが、何故こんな洞窟の入口付近にあるんですかね?? もしかして……ドラゴンが、此処まで……!?」
アネータが、またも不安を抱いた様子で呟いた。
そんなアネータを視界に映したネルスは、瞬時に口を開いて自身の考えを語りだす。
「多分だが……ゴブリンなどの知性ある魔物たちが、視界先を照らす為にライトストーンを使用したが、用済みになり……投げ捨てたモノが、此処に落ちていたんだろう」
「そうなんですね……」
アネータが納得しつつある中……ネルスは閉じた口をもう一度開いて、付け足すように言う。
「そういえば、ライトストーンは……クリスタル・ドラゴンの糞が、石化したものだよ」
刹那、
「うわぁああぁぁあーっ!? 汚ったなっ!?」
ペリシアは、片手で握り締めて持っていたライトストーンを、思いっきり遠くへと投げ飛ばして……手の匂いをクンカクンカと嗅ぎ始める。
――しばらく、雑談などをしながら、洞窟奥へと進んで歩いていると……周囲の空気が、冷え込んできている事に、皆は気づく。
「な、なんか、物凄い寒いんですけれど……?!?!」
セリカは、身を震わせて……歯をガチガチと鳴らしながら、文句を一つ呟いた。




