其の一 第3話
「あの、此処に不審者が居るんですっ!!」
セリカは、駆けつけて来た職員のお姉さんに、助けを求めて声を荒げる。
そんな行動を目前に、お姉さんはネルスの顔をジッと見つめながら呟く。
「あの……ネルスさん? なにか、如何わしい事でも……しちゃったんですか??」
「いや、してないっ! コイツら、頭おかしんだよ!! なぁ、助けてくれよぉ!?」
ネルスと女職員が会話を広げている中……フェンが『えっ?』っと、少し動揺しながら口を動かす。
「あ、あの……お姉さん。この男の人と、お知り合いだったんですか??」
フェンが言い終えるなり……お姉さんは無言でコクリと頷き、柔らかい笑みと共に、唇を開閉させて言う。
「あっ、この男の人は……ネルスさんといって、生物学者なんですよ。ギルドで働く私たち一同は、結構お世話になっているお方なんです」
「え……生物学者?? 不審者じゃなくて……??」
フェンは、お姉さんの言葉を鼓膜へと響かせるや否や、ポツリとそう呟いた。
すると、
「いや、だから……不審者じゃないって、言っていただろ!? 信じろよっ!?」
ネルスが、自信満々に堂々と言い切った。
瞬間……セリカが顔面を蒼白させて、声を震わせながら呟く。
「せ、生物学者? も、もしや……稼げるクエストって、私たちの身体の隅々まで研究――……」
「おい、其処の白銀髪な女っ!! 変な妄想をするなよっ!?」
セリカが変な事を口走り始めるやスグに……ネルスは声を荒げて、全力で妄想を否定した。
刹那、語るのを止められたセリカは機嫌悪そうに問う。
「じゃあ……私たちに、どんな変態な事をしようとしたのよ??」
「いや、お前っ! 生物学者に、変な偏見を持つのやめろよ!? クエスト内容は、いやらしい事じゃないからね!? この町周辺で、生態調査を行うから協力してくれって、依頼だよ!!」
ネルスが言いたいこと全てを語り終えて、多少に満足をしていると……セリカは頬を赤らめて、恥ずかしそうに唇を動かす。
「な、なんだ……。そうならそうと、早く言いなさいよ。私、変な妄想をしてしまったじゃない……!」
「いや……お前が、俺の話を聴こうとしなかっただけだよな??」
ネルスが冷静にツッコミを入れている最中でも、セリカは照れ臭そうに唇を開いて言う。
「しょ、しょうがないから……その依頼、手伝ってあげないことも無いわよ??」
「いやっ、大丈夫! 違う人たちに頼む事にするから!!」
ネルスが無慈悲な笑顔を浮かべ、そう言い切ると……セリカは途端に声を大にして叫び始める。
「ええええぇぇええぇぇーっ!?!? なんでよ、どうして!? さっきまで、私たちに物凄く頼み込んでいたのに!? ねぇ、稼げるクエストぉぉおおおおぉおおーっ!!!!」
「いや、ちょっ……ズボンを引っ張るな!? 分かった、お前たちにクエストを依頼するから、取り敢えずズボンから手を離してくれ!? このままだと、俺のガラスのハートに、傷が付いてしまう事態になる!!」
泣き付いてズボンを力強く引っ張ってくるセリカに困ったネルスは、渋々クエストを依頼してしまった。
――数分後。
自己紹介などを済ませたセリカ達は……レクシム周辺の森林内に、ヒッソリと存在している洞窟入口の目前で、佇んでいた。
「例の洞窟は此処だな……。それじゃあ早速、調査しよう」
ネルスが、薄暗い洞窟奥を眺めながら……少しばかりの緊張感を抱いて呟く。




