1章 第8話
「ねぇ、チョッと! 早く起きなさいよぉおおっ!!」
まだ朝の五時だというのに、部屋の外が騒がしい……。
「ったく、なんだよ! 朝っぱらから」
俺はベッドから、まだ眠り足りない身体を頑張って起こすと、ドンドンとノック音がうるさい扉の前へ移動する。
と、
「早くクエストっ!」
扉の鍵を開け、右手でドアノブを握ると共に、セリカの忙しい声が聴こえた。
旅の目的がいつの間にか、『魔王討伐』から『出稼ぎ』に変わってしまっているぞ、セリカさんよぉ……??
そこで、俺は寝起きで呂律の回らない口を開いて訊ねる。
「おい、魔王討伐はどうなったぁ?」
「いいわよ、そんなことなんて! 魔王なんて誰かが倒してくれるわ……!! それより今は、クエストよ! 早くギルドに行くのよ!!」
セリカは扉境に、いい加減なことを言うと勢い良く、俺の部屋の扉を開く。
「何をボサッとしているのっ!? 早く行くわよっ!!」
俺に向かって叫ぶセリカの背後に、小さな人影が見えた。
よく目を凝らしてみると人影の正体は……昨晩、俺たちの仲間になった『ペリシア』だと分かった。
服装は、ターバン無しの盗賊の格好だ。
と、
俺がペリシアの、まだ眠たそうな顔をジッと見つめていると悲鳴のような声を上げられる。
「何アタシの顔をガン見してるの!? もしかして、昨晩セリカにしたみたく変態な事を企んでいるのっ!!??」
「いや、ペリシアの中で俺のイメージってそんなに変態な感じなのっ!!!?」
というか、昨晩セリカに変態な事をした覚えがないんだが……もしや、あの事か……??
俺は昨晩の出来事を思い返す……。
内容を簡潔に説明すると、セリカが俺に『夜這いされる』などと騒いで、俺を一人に……ペリシアの部屋で寝てしまったと言うことだ。
おかげで、うるさい奴がいなくなって熟睡できたけどな……。
心中そんな事を思っていると、再びセリカの騒がしい声が鼓膜に響いた。
「ねぇ、早くしてよぉ!! 良いクエストが無くなってしまうわっ!!」
そう叫び急かすセリカに、俺が冷静に言う。
「まぁ、そう騒ぐなよ……てか、ペリシアってそもそもギルド連盟に登録してるのか??」
すると、ペリシアが口輪や尖らせる。
「アタシをバカにしてるのっ!!?? ギルド連盟に登録ぐらいしてるわっ!!!!」
そして、腰のポケットから赤色のピンバッチを取り出し、俺へ自慢げに見せつけてきた。
「お、赤色か。じゃあ職業は剣士なのか……」
俺が呟くと、次に背中腰にブラ下げていたサーベルナイフを見せ付けられる。
「お……うん」
とりあえず、俺は反応しなければ面倒な事になると感じた為、頷いた。
しばらくして……。
三人全員の準備が整うと、宿屋からクエストを受注する為にギルドへと移った。
周囲の目線が、ペリシア頭部に生える獣耳へ集中している気がしないでもない……。
まぁ……そんなことは良しと、それぞれ掲示板に張り出されているクエスト内容が記された張り紙と睨めっこする中、セリカが唐突に大声を上げる。
「ねぇっ! 私これが良いと思うわ!!」
セリカの右手に持つ紙にはこう書かれていた。
『キングプラントというモンスターに畑を荒らされ、野菜収穫に支障がでています。ということで、キングプラント一体討伐に付き一万ゼニー』
俺の顔に段々と紙を押し付けてくるセリカに物申す。
「いや、一体に付き一万ゼニーは美味しい話だが、よく考えてみろ……。名前にキングって付いているんだぞ。 物凄く強いモンスターに決まってる」
俺がそう断言すると共にペリシアが言う。
「え、そんなことないよ? キングプラントってモンスターは小さく可愛いっていう理由で、変わった人ならペットにしているくらいよ??」
その言葉を耳にした途端、セリカが憎たらしい顔をして煽ってくる。
「え? なに!? もしかして、ビビっちゃってるの!!?? ペット如きにビビっちゃってるの!!??」
「そ、そんなことねぇーしっ!!」
俺は羞恥心を抱きながら、顔を真っ赤にして言い返す。
「じゃあ、これで決定ね!」
セリカは笑顔でそう言うと、右手に紙を握りしめてカウンターまで駆けて行った。