4章 幕間
「ちょっ、俺……帰りの道順なんて、全く知らないんだけれどっ!? どうやったら、外に出れるの!?」
俺が焦りを感じて、大声で悩んでしまっていると……メロが小さく口を動かして冷静に伝えてくる。
「私、帰ル方法……分カル」
……え? 帰る方法を知っているだって??
俺は聞き間違いではないかと、メロへと訊くことにする。
「なぁ、それって本当か?」
俺が質問を終えるなり、メロはコクリと首を縦に動かした。
……お、おぉ!!
多少感動しながら、俺はもう一度メロに問い掛けてみる。
「そ、それじゃあ……その帰る方法は、どんな感じなんだ?」
「ソレハ……」
メロは一言呟くと、部屋の隅っこを指差して口を動かし始める。
「アレニ、乗ッテ……下ニ降リル」
……アレってなんだ??
頭を傾げながら俺は、メロが指差す方へと急いで視線を向ける。
瞬間、
「アレは、昇降機じゃないか!?」
俺と同じ様にメロの指差す方へ、顔を向けていたアスモリが……興奮しながら言った。
そんな興奮を目前にして、メロは口を動かす。
「ソウ……アレハ、昇降機。王ハ……アレデ、移動シテイル」
……そうなのか。なんだかメロは、王宮の事について、色々と知ってるんだな。
俺が何気無くそんな事を感じていたら、
「それじゃあ、早く外に出ようっ!!」
ドルチェが元気良く、昇降機へと駆け向かって行く。
……それじゃあ俺も、早く此処から出るとするか。
そう思いながら、俺も昇降機へと向かい始めた。
アスモリとメロも……俺を追いかけてくる様に、昇降機へと向かって来ている。
と、
「わ……ワタシは、まだ負けていないぞ……」
後方で、イディオスの弱々しい声が響いた。
……えっ、気絶させてやったのに、もう意識を取り戻したのか??
そんなことを感じながら、俺が背後を振り向こうと身体を捻ったら、
「今回ハ、貴方ノ……負ケヨ」
メロが、無表情で呟き……そんな審判をイディオスに下した。
……今回は負け??
何気ない一言に、俺が疑問を抱いていると……途端にイディオスが、目を見開きながら声を荒げだす。
「なっ……!? お、お前は!? 何故、此処にいるんだっ!?!? スクラップ場に、捨てた筈だぞっ!?!?」
「ヨウヤク、私ノ存在ニ……気付イテクレタノネ」
メロは無表情だった顔に、微笑を浮かべ言った。
その後もスグに、メロは唇を動かしてイディオスに言う。
「私ハ……博士ト、約束シタ」
「な、何が言いたいんだ……??」
イディオスは、倒れながらの状態で、首を傾げた。
すると、メロは……機械とは思えない程に、自然で輝かしい笑みを浮かべて……口を再び動かす。
「私ハ……国カラ出テ行ッタ、博士ヲ探ス。ソノ後……再ビ、此処へ戻ッテクル」
メロは言い終えるなり、俺たちの方へユックリと向かって来て……昇降機の上に乗っかった。
瞬間に……アスモリが、昇降機の真ん中に生えるように付けられている細長い金属棒を、手前に引いて言う。
「確か……この棒を手前に引くと、昇降機は、下の階へと進んでいくんだよな」
刹那、昇降機は下へと段々と下がっていく。
そんな中……メロが、段々遠ざかるイディオスに呟く。
「私ハ、約束ヲ果タス……」
……メロはイディオスと、どんな関係なんだろう??
そんな事を考えている内に、昇降機は一気に加速して……気付けば、出口であろう扉が目前に現れた。
「おぉ、やっと外に出られるっ!!」
俺が多少に興奮していると、ドルチェが又も真っ先に扉へと駆け向かって行く。
「外に出れるー!!」
……元気だな。
ドルチェを追って、俺やアスモリも扉を潜る。
瞬間、目前に銀色の町風景が広がった。
と、
「おい、なんか空に飛んでる奴いるぞ??」
アスモリが空を見上げて呟いた。
……え? 空を飛んでいる奴??
俺も、太陽が輝く上空へと視線を向けてみる。
すると……大きな黒鱗翼を羽ばたかせて、上空高くを飛行している者が、瞳に映った。
……なんだ? シュティレドか??
疑問を抱いていると……飛行している者が、段々と此方へと向かって来ている事に気付いた。
……え? なんか、近付いて来てるんだけど??
距離が縮まるに連れ、翼持つ者の姿はハッキリとしてくる。
しかし……太陽の光の所為で、どんな奴が飛んで来ているかは、シッカリと確認出来ない。
と、
「オーブ、貰いますね」
……え??
不意に上空で発せられて、微かに聴こえてきた言葉に……俺が疑問を抱いていたら、
「きぁああああ!?!? 取られたぁっ!!」
突然にドルチェが、叫び声をあげた。
「どうしたっ!?」
俺は急いで、ドルチェの方へと顔を向ける。
そして、気付く。
……アレ? さっきまで、ドルチェが持っていた黄色い球が無い??
ドルチェの手元から、黄色いオーブが消えていた。
瞬間……アスモリが、俺の背後に視線を送りながら声を荒げる。
「おい、なんだお前っ!?」
……ん? 俺の背後に誰かいるのか??
そんな事を感じながら、俺は後方を振り向く。
刹那……ほぼ裸だと言える服装な、発育の良い身体に黒鱗翼を生やす、紅紫髪ツインテールな若い女性が、視界に入った。
女性の手元には、黄色いオーブを確認できる。
「お、お前は誰だっ!? てか、いま手に持っている物を返せよっ!?!?」
俺が多少に声を荒げて言うと……言葉を受け取った女性は、不敵な笑みを浮かべて、口を微かに動かす。
「その前に、翼をしまっても良いですか?」
……翼をしまう??
俺が疑問を抱くなり……女性の翼は、氷が溶けて水に変わる様に消え去った。
……なっ!? 翼が消えた!?
俺がビックリしていると、
「おいっ、そいつに近付くなっ!! やっと見つけたと思えば、どうしてこんな事になっている!?」
突然に……視界端から、シュティレドの叫ぶ声が飛んで来た。
……え? シュティレド、この女の人を知ってるのか?? そういえば、翼も同じ様な形態をしていたよな。
そう感じていると……次は、急いで此方へと向かって来ているユンバラから、言葉が飛んで来る。
「其奴は、魔王に今でも付き従っている……アフェーラだっ!!」
……えっ!? という事は、この女の人……六魔柱なの!?!?
俺が驚きのあまり固まっていると……目前のアフェーラという女性は、不敵な笑みをつくり唇を動かす。
「あらあら……。【吸血鬼族】と【龍神族】の混血な、お方のシュティレドさんと……、【獣魔族】のユンバラさんから、こんなにも警戒されているとは……光栄なことですね」
……混血?? 獣魔族?? なんか急に色々な事が起きすぎて、理解が追いつかない!?!?
俺の頭が混乱しつつある中……アフェーラは何処からともなく、赤い球体を取り出して語りはじめる。
「この紅なオーブは、面白い四人組から貰ったんですよ。小さな町を燃やすと言った瞬間に、くれましたね」
……い、いきなり何を言ってるんだ??
俺が困惑しているのを御構い無しに、アフェーラはまだ口を動かし続ける。
「でも酷いんですよ。四人組は、私を睨みながら『必ず、取り返しに行く』とか言ってきたんですよ。まぁ、そんな事はどうでも良いとして……黄色いオーブを貰いますね??」
……え? 本当になんだよコイツ?? 突然に現れて、急に何を言ってきてるんだ!?
と、
「なぜ、貴方が此処に居るのかしら??」
イリビィートの声が後方から響き渡ってきた。
すると、アフェーラはニヤリと笑みを浮かべて微かに呟く。
「めんどくさい奴が、来ましたね。それでは、私は……帰りたいと思います。オーブを取り返しに来るかは、貴方たちに任せますね」
……えっ、帰るの!?
俺がそう感じていたら……アフェーラは背中に、再び大きな黒鱗翼を生やして、上空高くへと向かって飛んで行った。
瞬間、ドルチェが背中の小さな翼を羽ばたかして言う。
「黄色いオーブを返してっ!!」
と、
「今行ったら、ダメだ!!」
ユンバラが声を荒げて、ドルチェの飛行しようとする身体に掴み掛かった。
「いやだ!! 離して!! せっかく、ウチが手に入れたオーブが、盗られたの!!」
「ダメだ!! 何の考えも無しに向かって行っても、無駄なだけなんだ!!」
ドルチェは、ユンバラに返答されるなり……力無く呟く。
「せっかく……皆んなを驚かせようとしたのに……」
……ドルチェ。お前の頑張りは、俺がよく分かってるぞ。
俺は、悔しがるドルチェを……心中で褒め称えた。
と、
「おいっ!! そこに居るのは、監獄島からの脱走者のアスモリだなっ!? お前を捕まえるっ!!」
不意に、そんな言葉が町中に響いた。
刹那、
「うぉぉおおおおっ!? 追っ手に見つかったぁぁああああ!?!?」
アスモリは、声が飛んで来た方向とは真逆の道へ、逃げるように走りだす。
……おい、空気読めよ。
俺がそう思っていたら、メロが言ってくる。
「私ハ……アスモリ、ト……旅ニ出ル事ニ、決メタ。デハ、サラバ……」
メロは言い終えるなり、追っ手から駆け逃げるアスモリを追いかけて、消えて行く。
と、
「僕らは、少し休んでから……魔王城に向かおうか」
シュティレドが……俺たちに、提案の様な言葉を伝えてきた。
5章に行く前に、セリカが古龍とか倒しちゃったりする、ちょっとした番外編を挟みたいと思います。




