4章 第40話
部屋には、剣と盾を装備した何十台もの機械兵たちが……ピタリとも動かず、横一列に立ち並んでいた。
……アスモリが驚く理由が分かったわ。
普通に整列しているだけの機械兵からは、とても危険なオーラを感じ取れる。
と、
「それでは、この部屋の奥にある階段を使用して……ワタシが居る部屋へと来て欲しい。そこで、最後の試練を行なう」
そう指示をしてくる、イディオスの声が……部屋に大きく響き渡った。
……なんだ、此処で試練を行なう訳じゃなかったのか。良かった。
俺が安心していると……ドルチェは、固まって動かない機械兵たちを避けながら、部屋の奥に確認できる、とても長い階段へと駆け向かっていく。
「ねぇ、皆んなも早く行こうっ!!」
ドルチェが、脚を懸命に動かしながら言ってきた。
「お、おう!!」
俺は声を張って一言返すと、ドルチェを急いで追い掛けて階段を上る。
すると……俺の背後を追って来たアスモリとメロも、階段を上りはじめた。
刹那、階段を上り切るなり……視界に収まりきらない程、巨大で黄金な扉が立ちはだかる。
……な、なんだ。この巨大な扉は!?
俺が声も出せないぐらいに驚いていたら、突然に扉がユックリと開いていく。
……次の試練は、この先にあるのだろう。なんか、凄そうだな。
独りでに開いていく扉を目前にして、そんな事を思っていると……、
「では、中へと足を踏み入れてくるが良い……」
扉の奥から、イディオスの偉そうな声が聴こえてきた。
俺たちは指示に従い、扉奥へと足を踏み入れる。
すると、
床一面に毛感触の良さそうな真紅な絨毯が敷かれており……とても高い天井には、美しく煌めくシャンデリアや、自国の国旗を描いているであろう垂れ幕などが、掛け降ろされていたりする……部屋の内装が、瞳に飛び入ってきた。
……うぉおお、凄いな。此処は、王室とかいう場所なのだろう。
豪華で広い部屋に、半ば感動しながら……周囲を見渡してみる。
刹那……視界に、とんでもないモノが飛び込んできた。
「な、なんだよ。その姿は……??」
俺は正面に見えた光景に、唖然としながら呟いた。
「なんだ? ワタシの姿に、驚いているのかね??」
正面に飛び込んできた光景……それは、黄金に輝く分厚い鎧に身を包み、両手に鋭利な武器を備えたイディオス王の姿。
……な、なんというか、鎧が全体的に丸みを帯びていてダサい。
と、
「なに、その装備!? カ、カッコイィーッ!?!?」
ドルチェが、目を輝かせて叫んだ。
……おい、嘘だろ!? 感性どうなってるんだよ!?!?
ドルチェの発言に物凄く驚いていると、アスモリが俺の耳元で伝えてくる。
「おい、この部屋の奥を見てみろ。この国の宝の、オーブが大事に飾ってあるぞ」
……えっ、オーブ??
俺は事実かどうかを確かめる為に、無駄に広い部屋の奥へと視線を向ける。
瞬間……透明な箱の中で大切に管理されている、黄色に輝く美しい球体が確認できた。
……ほ、ほんとだ!! あの球を手に入れる為だけに、俺たちはこの国へ来たんだよな。
遠くのオーブを見つめながら、そんな事を考えていると、
「それでは、早速……試練を行おうと思う。試練内容は、『ワタシに勝て』。それだけ――」
「了解っ!!」
俺は一言返事をするなり……ポケットからヒノキ棒を取り出して、イディオスへと思いっきり炎の塊を放射して浴びせてみる。
刹那、
「ちょっ、うぇ!? なに!? 熱い、熱い、熱いっ!?!? ちょっ、攻撃してくるの早くないかっ!?!?」
イディオスは、慌てふためきながら……炎に包まれてその場で倒れ込んだ。
「お、おい……カナヤ。お前っ、人殺し――……!?!?」
不意にアスモリが、目を丸くしながら俺に言ってきた。
すぐさま俺は、声を大にして言い返す。
「おいっ、人聞きの悪い事を言うなよっ!? シッカリと、イディオスを見てみろ!? 気絶をしているだけだっ!!」
「……え?」
アスモリは、キョトンとしながら……真紅の絨毯の上で倒れるイディオスを見下ろす。
と、
「ほ、本当だ……呼吸をしている。気絶しているだけだっ!?」
アスモリは、目を見開きながら……俺に再び、驚き顔を見せてきた。
だから俺はもう一度、アスモリへ言い返す。
「そんな驚くな、当たり前だ!? 俺が人殺しをするわけないだろうっ!?!? 炎はシッカリ、鎧だけを狙って放ったんだっ!!」
……殺してしまって、監獄島にでも送られたら、何にも文句が言えなくなるのは嫌だからな。それに、命は大切だ。俺は、命を無駄にしない主義なんだ。
次はアスモリに何と言ってやろうかと、考えていたら……ドルチェがはしゃぎながら、オーブの方へと向かっていく。
「試練達成したから、お約束通りに……貰っていくねっ!!」
そう呟きながらドルチェは……透明な箱を叩き割って、護られていた中のオーブを手に持ちはじめる。
……なんか普通に透明な箱を叩き割っているけど、そんなに壊しやすいモノじゃないよな??
俺がドルチェの行動に、そんな事を薄々と感じていたら、アスモリが不意に声を荒げる。
「あっ、有った!?!?」
……えっ、なにか見つけたの??
俺は疑問を抱きながら……声がした方へと、顔を向ける。
すると……何かを持ちながら、泣くように喜んでいるアスモリの姿が、両眼に映った。
「おい、どうしたんだよ??」
俺が軽く問い掛けると、アスモリは益々と喜んで声を発する。
「見つけたんだよっ!! 無くし物を……とても大切な物を、見つけたんだっ!!」
……無くし物?? そういえば、王宮に向かう時、アスモリは『落し物を探す』とかいう理由で、俺たちと行動してきていたな。
少し前の事を思い出しながら、俺はアスモリへ訊く。
「見つけたって……どんなモノを見つけたんだ??」
「コレだよっ!!」
俺が言い終えるなり……アスモリは、すぐに手中の物を見せてきた。
「なんだコレ……??」
アスモリの掌には、小さく薄汚い小枝の様なモノが転がっている。
俺が首を傾げて頭を働かせていると、アスモリは興奮したように口を動かす。
「コレは、俺にとって……とてもとても大切な物なんだ。昔……俺が幼い頃、育ての親に貰った物なんだ」
……な、なんか重そうな話だな。これ以上に、追求するのは辞めておこう。
俺が引き気味に感じていると、
「それじゃあっ!! 早く、この建物から出よう!!」
黄色いオーブを片手に、ドルチェが元気良く言ってきた。
「おう、そうだなっ!! 早く此処を出よ――……」
……っと、待てよ? 此処は、王宮の何処なんだ?? どの路を通ったら、最初に居た入口へと、戻ることが出来るんだ??




