4章 第32話
――しばらく町を駆けていると……ドルチェは建物角を曲がるなり、途端に立ち止まった。
俺は、不意に脚の動きを止めたドルチェに、軽く衝突してしまう。
その後、すぐに俺も立ち止まり……ドルチェへ問い掛ける。
「おい……急に立ち止まって、どうしたんだ?」
すると、ドルチェは静かに進行先を指差して言う。
「きっと、彼処……。彼処から、声が聴こえて来たんだよぉ!!」
……え、彼処??
そんな事を思いながら俺は、ドルチェが指差した場所へと視線を向けてみる。
と、
クズ鉄と化した大量の機械兵が、一つの町広場が埋まるほど、山の様に積み捨てられているのが……視界に入った。
……な、なんだよ。アレは??
俺が目前の風景に戸惑いながら、周囲を見渡していると……地面から生える様に立っている、一つの木製看板が視界に止まる。
『――スクラップ場』
看板には……こんな文字が、記されていた。
それを目にした俺は、すぐに思う。
……そうか。此処は……故障などして、使いモノにならなくなった機械兵とかを投げ捨てる場所なのか。
そんな事を確信していると、
「タ……助ケ……テ……」
再び耳元で……助けを求めてくる声が、微かに響いた。
「彼処だぁ!!」
途端にドルチェが、興奮した様子で走りだす。
急いで俺も駆けて、ドルチェの背後を追う。
と、
再びドルチェが、不意に立ち止まった。
「おい、また急に立ち止まってどうしたんだ?? 声を発している正体を……発見でもしたのか??」
俺が質問すると……ドルチェは無言で、自身の足元付近を指差しはじめる。
俺はユックリと……ドルチェの足元に、視線を移す。
刹那、
「タ……助ケ……テ……」
そう微かに助けを求めている、色白で黒髪ロングな女性の生首が……コロリと地面に転がっているのに気付いた。
……え? 生首が喋ってる。首だけで喋れているということは、機械兵の類いなのだろうか??
俺は一瞬驚いたものの、すぐに冷静な分析を開始した。
そんな中……ドルチェは腰を曲げて、地面に転がっている生首を拾い上げて呟く。
「ウチが助けに来たよ! だから、もう大丈夫だよっ!!」
「カ……カラダが……欲シイ……」
生首は……ドルチェの優しさに溢れた言葉を無視して、そんな事を言ってきた。
……カラダが欲しいって何!? なんか、スンゲェ怖いんだけどっ!?
俺が生首の発言に恐怖心を抱いていると、ドルチェが真剣な口調で呟く。
「ねぇ、カナヤ……。ここら辺に捨てられている部品で、なんとか……身体を造って上げられないかなぁ??」
……え? 生首に身体をつくる?!
「いや、俺には無理だ!! 出来っこないっ!!」
急いで俺は、キッパリと断言した。
すると……ドルチェは、露骨に残念そうな態度を取りながら言ってくる。
「そうかぁ……無理なのぉ……」
……くっ!! なんか申し訳ないな。
ドルチェの落ち込む姿を見て、申し訳ない気持ちが溢れ出した俺は……ついつい無責任に発言をしてしまう。
「よ、よしっ!! なんとか、身体をつくってみるか!!」
刹那……ドルチェは途端に、元気な笑い声を漏らしながら俺に礼を言ってくる。
「ありがとうっ!!」
「おう!」
俺は礼に一言答えると、続けて口を開く。
「それじゃあ、そこら辺から使えそうなパーツを探すとするか!!」
「うん!!」
ドルチェは元気良く答えてくるなり、生首を片手に一人先走って……解体された機械兵の山を登るように、駆け上がって行った。
……凄いやる気だな。
目前の行動に感心しながら、俺もドルチェを見習って……周囲に使えそうな部品がないかと探してみる。
と、
すごく良い物を発見してしまった。
……コレは、使えそうだな。
そう思った俺は、すぐさまドルチェを呼んでみる。
「なぁ、ドルチェ!! 良いモノを見つけたぞっ!!」
呼び終えるなり……ドルチェは生首を抱えながら、急いで此方へと駆け向かってきた。
そして……ドルチェは、俺の目前に到着した瞬間に言ってくる。
「ねぇ! どんなモノを見つけたのぉ??」
「コレだっ!!」
問われた俺は……足下に転がっている、頭部が無い機械兵の少し錆びた身体を、指差して返答した。
「おぉー!!」
ドルチェは元気に反応してくるなり……手に持つ機械少女の生首を、ゴツゴツしている機械兵の身体に取り付けようと、頑張りはじめる。
否や、
生首な機械少女が、突然に口を小さく動かす。
「……私ハ、女ダ。コンナ身体ハ、イヤダ。……考エロ、アホ共」
生首から突然に発せられた言葉を耳にした俺は、思わず驚愕してしまう。
「なんだコイツ、口悪っ!?」
と、そんな時……、
『――ガサリッ!!』という物音が、視界端から聴こえてきた。
……え? 誰か居るのか??
なんとなく、そう思った俺は……物音がした方へと振り向き、声を張り上げて問う。
「そこに居るのは、誰だっ!?」
「ひっ!?」
……え!? 本当に誰か居たのかっ!?
自身の問い掛けに反応してきた声に驚いていたら……モゾモゾと動いている人影が、視界に薄っすら映った。




