1章 第7話
「おいっ! 俺たちの大金は何処に隠してあるんだっ!?」
俺は暫くムッとした表情で視覚を使い六畳半の薄暗い室内を隈無く見通しながら、少女に声を荒げた。
と、
少女が苛立って口を開く。
「夜中に大きな声を出すなよっ! てか、大金なら……もう全て使い切ったよっ!!」
「「へ?」」
少女のまさかの言葉に、俺とセリカは思わず目を丸くして黙り込んでしまった。
その後、セリカは少し焦った様子で『い、いや……う、嘘でしょ……??』と顔を引きつらせ、自信なさげに呟く。
しかし、少女は何故か自信満々に言う。
「嘘じゃないぞっ! 全て使った!!」
……まあ、本人が言うのだから大金を全て使い切ったのは間違いないのだろう……。
だが、俺は此処で諦める様な性格ではない……しっかり、あの大金を返してもらう。
そこで、俺は少女へと唇を開いた。
「全て使っちまった大金は、取り戻しようがないから、もう諦める……」
瞬間、少女の顔に明るい笑みが浮かぶ。
そんな中、俺は続けて笑みを壊す発言をした。
「だが、その大金分……キッチリと返してもらうぜ! お前の身体でなっ!」
ビシッと少女へ指を指し、心中『決まった』と感じていると……セリカが少し引いた様子で俺に言う。
「えっ……。こ、こんな幼女に、何でそんな大胆な変態発言をして、平然とした様子で平常心を保てているの……?」
セリカは俺と全く目を合わせようとしない……少女に関しては、顔面蒼白だ。
とりあえず俺は急いで、二人の誤解を解くべく焦りながら言う。
「いや、誤解しないでっ!? 変態的意味を堂々と発言したわけじゃないからねっ!?」
「「…………」」
……何故か二人とも耳を塞いで、聞く耳を持ってくれないんだが……。
それに何だろ……。二人から送られてくる、未確認生物を観察する様な冷静な眼差しは……。
沈黙の中、俺は哀しみの混じった溜息と共に言葉を吐く。
「本当に違うんだ……。『身体で』って、意味は変態的意味じゃなくて、クエストとか旅の途中に力を貸してくれって意味なんだよ……。つまり、『仲間』なれって意味で……」
「イヤだ」
俺が俯きボソボソと呟いていると、少女の声が部屋に小さく木霊した。
途端にセリカが目を大きくして言う。
「なっ!? もしかして……幼女を連れ回して、挙げ句の果てには勝手の良い奴隷にしようとしているのっ!?」
いや、お前はもう黙っといてくれ……話がややこしくなる……。
というか、幼女じゃなくて少女って言えよ……余計に変態性が増してしまうから。
と、
セリカの所為だろう……再び少女が顔面蒼白している。
数秒後……そんな少女が、冷や汗を掻きながら質問しきてた。
「な、なんで……アタシがお前たちの仲間にならないといけないんだ?」
「普通に大金を使ったからだろう……」
俺は変な誤解を生まない為に冷静に応える。
それより……一つ気になる事が有るんだが。
「なぁ、お前……生活とか今後どうするんだ……?」
すると、少女は焦った様子で言ってきた。
「そ、そうだった!? 明日からどうするか悩んでいたんだった……てか、お前っていうなっ、お前っ!!」
やはり……。
大金を一日で使い切るぐらいだ……明日の計画も立てずに、その日暮らしの生活をしていた。
というか、少女……『お前』と呼ばれるのを嫌う癖して、俺に向かって『お前』とスラッと言ってたぞ……。
俺がそんな事を考えていると、唐突にセリカが言葉を発した。
「それなら、私が面倒をみてあげるわっ! 幼女ちゃん!!」
それを聞いた少女が、口を尖らせる。
「いや、アタシは幼女って名前じゃないっ! ちゃんと『ペリシア』って名前が有るし、年は十七歳だっ!! ……で、でもアタシの面倒を本当にみてくれるのなら名前と歳の件を許してあげても良いぞ……?」
え? なんか、俺の時と反応違くない!!?
何勝手に面倒みるとか言っちゃってるの!!?
と、本来なら言いたいところだが、そんな事はどうでも良い。
セリカのお陰で、モフモフの獣耳少女が……じゃなくて、大金を使った罰にペリシアとかいう少女が仲間になるかもしれないんだ。
よし、この先はセリカに全て任せよう。
「面倒をみてあげるわ!」
セリカが鼻を高くして言った。
「本当に良いの!?」
ペリシアは目を光らせて喜ぶ。
「本当よ!」
再び、セリカが鼻を高くする。
『仲間になった』と、俺が確信した時だった。
「そんな手に乗るかぁっ!!」
ペリシアが素直で穏やかな態度から、顔を真っ赤にさせて口車に乗せられまいと、全力で反抗する。
「え?」
イキナリの出来事に、セリカの目が点になっている。
ペリシアのふざけた態度に、ムカッと怒りが湧いた俺は言ってやった。
「おい、お前っ! 調子乗るなよっ! 仲間にならないって其処まで言い張るのなら良いぜ……無理矢理にも仲間にしてやる」
ペリシアは、眉間にシワが寄る俺を小馬鹿にしながら口を開く。
「アタシが嫌と断っているのに、そんなこと出来る訳ないじゃない……」
クソ……なんかすんごいムカつく。
そこで、俺はニヤリと笑みを浮かべ言った。
「お前を仲間にするのなんて簡単だ! ギルドに頼むんだ……お前を世界手配にしてくれとっ!! 盗賊をやっているお前なら、ギルドも世界指名手配の準備を直ちに行うだろう」
世界手配をされると、多額の懸賞金が掛けられ……金に目が眩む『賞金稼ぎ』という、指名手配犯を捕獲するのならどんな手段も厭わない奴らに襲われる。
「くっ……脅しか……なんて卑怯な……」
ペリシアは冷や汗を掻くと共に、背後へ数歩後退りした。
「どうだ? 少しは、仲間になる気になったか??」
俺は、ニタニタしながら訊ねる。
「ち、ちくしょう……」
そう言ってペリシアは、ガクリと両肩を落とし溜息を吐く。
――こうして、ペリシアという獣耳少女が仲間へと加わった。




