4章 第25話
すぐに俺はポケットから、ヒノキ棒を取り――……。
……いや、待てよ。もしも今、ヒノキ棒を取り出した所為で、セリカたちに俺の正体がバレてしまったら……仮面を付けて顔を隠していることや、ローブを纏い服装や体格を誤魔化していることの意味が無くなってしまうな。
そんなことが頭に過った俺は、取り出そうとしたヒノキ棒を……何事も無かったかのように、再びポケットの奥へとしまい込んだ。
……ヒノキ棒は、セリカたちが見ていない場所で使うことにしよう。
と、
「ふぅ……取り戻せた」
青髪男は、謎の球を取り戻して安心しているのだろう……溜息を吐きながら微笑んでいる。
……何なんだろう、あの球の正体は? シュティレドも相当重要視しているあの球体は、一体どれ程の価値があるものだのだろう??
俺が青く光る球を見つめながら首を傾げていると……フェンが、青髪男の持つ球を見つめながら呟く。
「ん? あの球体……獣人国の国王に貰った宝とソックリだな。確かオレが持っているのは、赤く光っていたような気がするけど……??」
刹那……シュティレドと青髪男が、フェンの言葉に反応して言う。
「「おい、その球体……今は、何処にあるっ!?!?」」
「え……いや、壊れたりしたら困るから、とある町の金庫屋で、保管してもらっているが……??」
フェンは、二人の迫り来る威圧感に少しばかり怯えながら答えた。
質問の回答を聞き終えたシュティレドは、残念そうに、
「そうか……まぁ、良いか。とりあえず、目前の『オーブ』を確実に入手しないとね」
言い終えるなり……青髪男に、鱗翼で叩くという攻撃を不意に仕掛ける。
……『オーブ』という単語は、球体の呼び名のことだろう。
青髪男は、突然襲い掛かってきた大きな鱗翼を難なく交わし避けるなり、ニヤリと笑みを浮かべ唇を動かす。
「突然に攻撃なんて、酷いなぁ……。まぁ、世界一の遊び人であるプルイド様に、こんなノロマな攻撃は擦りもしないけど……」
プルイドは不敵な笑みを浮かべたまま、口をブツブツ細かく動かし続ける。
っと、次の瞬間……、
「いやははぁぁああああああっ!!!! どうだ、綺麗だろう……??」
突如……何も無かった上空高くの空間に、先端が鋭い巨大な氷塊が現れた。
透き通った氷塊は……月光と街の黄金の輝きに照らされていて、とても美しく輝いている。
そんな氷塊を瞳に映した街の女性たちからは、歓喜する声が次々と発せられる。
「きゃぁぁああああ!! あの氷塊は、プルイド様のぉぉ!!!!」
「プルイド様の『氷の魔術師』というアダ名は、やはり伊達じゃないわぁぁああああ!!!!」
……氷の魔術師? もしかして、あのデッカい氷塊……プルイドって奴が、作ったモノなのか!? いや、でも……あの青髪男の職業は【遊び人】なんだろ?? 胸元に、銀色のバッチが付いているし……。
俺が物凄い思考を働かせていると、近くで氷塊を見上げていたイリビィートが言う。
「ねぇ……【僧侶】という職業以外は『魔法』を使用できないと、勝手に決めつけていたりしていないわよね……??」
「……え? 俺の記憶が正しければ、前にギルドで、『【僧侶】以外は、魔力が乏しくて魔法があまり使えない』と教えられたが……??」
俺が過去の記憶を引き出して述べた後、イリビィートは再び唇を動かす。
「安心したわ……ちゃんと分かっていたのね。仰る通り、【僧侶】以外は……魔力が乏しくて魔法を使えないに等しいのよ。ただし……稀に【僧侶】じゃなくても、とてつもない魔力を宿している者がいたりするのよ」
……ということは、上空の氷塊は青髪男の魔法によって生み出されたモノなのだろうか? てか、なんか少しばかり……話が噛み合っていない気がするんだが? 気の所為か??
俺がイリビィートの話を上っ面で聞いていると、
「せやぁっ!!」
プルイドの掛け声に合わせ、上空の氷塊が何百個にも小さく分裂して、地へと注いできた。
「「「うわぁぁああああ!?!?」」」
この場にいる誰もが、叫びながら慌てふためく。
……ちくしょう、急になんなんだよ。
俺は降り注ぐ氷を避けながら、プルイドを睨み付ける……。
……って、えぇ!?!?
睨み付けた先の信じられない光景をみて、心中で驚いてしまった。
なんと、プルイド自身も降り注ぐ氷から逃げ回っているのだ。
と、
「ゔぐぅ……!?」
視界端からシュティレドの苦痛の篭った声が響いてきた。
すぐさま声が聞こえてきた方へ視線を向けると……其処では、顔面に氷塊が当たり、纏う仮面が剥がれ落ちてしまったシュティレドが、額から一筋の血を流している。
そんな仮面の外れたシュティレドを……瞳に映したフェンは、不意に大声を上げて驚く。
「お、お前は!? 六魔柱のボス……【吸血竜・シュティレド】!?!?」




