1章 第6話
宿屋の前に到着した俺たちは、建物の歪さに唖然とした。
「お、おいセリカ……此処って本当に宿屋なのか……?」
「多分……。受付のおばさんから教えて貰った道順の限り場所は此処だし……何より、宿屋って記されている看板が視界に映ってることから……」
確かに看板が立て掛けられている。
しかし、
一般に宿屋から連想される外観のイメージとはかけ離れてるし、ここが宿泊施設のようには見えない……。
コンクリート製の灰色な建築物に真四角く繰り抜かれた小さな窓が数個……。そんな建築物を包み込むように鉄製の安全柵が覆っているのだ。
うん……コレは宿屋というよりは監獄だな。
だが、一応はギルドのおばさんのオススメだ。
見た目はこんな感じでも、接客サービスなどがとても良いのだろう。
「よし……! セリカとりあえず中に入るか」
「……うん!」
二人は唾をゴクリと飲み込むと同時に、重量感がある鋼鉄製の冷たい扉をユックリと開く。
と、
視界に無愛想な表情の婆さんがカウンター越しで、札束のお金を数えている姿が映った。
見る限り、店番をしているのだろう……。
そんな彼女を不思議そうにガン見しているセリカが隣に居る。
この行動が原因であろう……婆さんに舌打ちをされて不機嫌そうにものを言われた。
「何よ、あんた達……? 泊まる気がないのなら今すぐ私の目の前から消え失せなっ!」
「「はひっ!?」」
婆さんの顔圧と張り上げた声で、俺たちは小さな叫び声をハモらせて身を竦めた。
直後、
俺は誤解を解く為に見苦しい言い訳のような言葉を発言する。
「ありますぅっ! 泊まる気ありますから、そんな怖い顔しないでくださいっ!?」
「そうかい……それじゃあ、サッサと宿泊料の百三十ゼニー払って部屋へと行きな……因みに今は二階にある右から二番目の部屋しか空いないからね」
「はい、分かりましたっ!」
俺達は急いで代金を払うと共に鍵を手渡され、指定された部屋がある二階へと繋がる階段を上った。
そして、駆け足で先頭を歩いていたセリカが部屋の扉を開ける。
アレ?
なんで鍵は俺が持っているのに扉が開いたんだ??
次の瞬間、
解放された室内から幼い女の子が叫んだような大声が聞こえた。
「キャァァアアアアアアアアアアアアっ!?!?」
部屋の位置をよく確認してみると、左から二番目と間違えていたのだ。
俺はそのことに気づいた瞬間に、すぐさま部屋の主へと謝罪に行く。
「すすす、スミマせぇんっ!! って、うおっ!?」
部屋の主は声からして女の子だとは思っていたが……なんと少女は全裸だったのだ!!
所々に水滴が付着している事からシャワーを浴びていたのだろうと判断できる。
そんな中、部屋の鍵を閉め忘れているのは無用心にも程ある……。
って、……ん?
少女の頭部をよく見てみてると黄色ショートカットで多少天然パーマな髪型の天辺に二つの子犬のような垂れた耳が……。
「って、こりゃあ【獣人種】じゃねぇかっ!? 」
驚愕のあまり、思わず俺の口から大声が吹き出た。
世界の種族人口数は八割、俺たち【人類種】で占められている。
【獣人種】とは世界でも少ない種族の一つで、地下に鎖国国家を創り他種族との交流を避けて暮らしている。
――――何故そんな種族がこんな所に……? というか、何処かで会ったことがあるような顔つきだなぁ……??
心中そんなことを感じていると、セリカが少女の姿を指差して叫んだ。
「あ、貴方っ!? 私たちのお金を盗んだ盗賊のガキじゃないっ!!??」
思い出した、盗賊の子供に似ているんだっ!!
いや……背の高さと身体付きからして同人物だなコレは……。
そこで俺は問いただそうと思ったが、彼女は全裸だ。何か身体を隠すものが要るな。
そこで、俺はセリカが服を入手した事で必要性の無くなったローブを投げ渡す。
それを受け取った少女はすぐさま裸体を隠した……見届けると俺は口を開く。
「なぁ、お前……俺たちの大金を盗んだよな?」
瞬間、少女は『ギクッ!?』と肩をビクつかせ冷や汗をかきはじめた。
「ど、どどっどうしてアタシの居場所が分かったっ!?」
少女は俺たちが大金を取りかえす為に、追跡して乗り込んで来たかと勘違いしているらしい。
まぁ、マグレで来たとしても大金を取り返す以外の行動はないがな……。