4章 第17話
「やっちまったなぁ……」
ユンバラが、周囲を囲む石像と化した人々を見ながら呟いた。
続いてシュティレドが、普段より低い声で言う。
「予想外のことが、起きちゃったね……」
イリビィートとドルチェの方も確認すると……ユンバラたち同様に、落ち込んだ感じで立ち止まっているのが分かる。
と、
「やっと、見つけたわ!! この私が駆けつけたからには、もう大丈夫っ!! ……って、なに!? なんか妙にリアルな石像が、彼方此方に有るんですけれどっ!?」
女性の声が唐突に、視界端の方から慌ただしく聞こえてきた。
多分……俺たちを不審に思っていた誰かが、警備傭兵などを呼んで来たのだろう。んでもって……誰かに呼ばれて駆けつけた傭兵が、調子に乗った発言していると感じ取れる。
……というか、この声……聞き覚えがあるような??
そんなことを思いながら、俺は声した方へ視線を傾けてみると……信じられない者が、両眼に映る。
「せ……セリカ……??」
思わず、瞬間的に呟いてしまった。
目前に現れた者の正体は、予想だにもしなかったセリカだったのだ。
セリカの容姿は、最後に見た時から変化なく……、初めてクエスト完了して得たお金で買った衣類に、腰には旅立つ時に得た黄金剣を掛けている。
……そういえば島に上陸したての時、なんとなく盗み聞きした二人組の男の会話内容で、『白銀髪のスゴイ奴が護衛兵で雇われた』とかなんか話されていたような……??
まぁ、そんな事はどうでも良いか!! 早く、セリカの元へ――……。
俺がセリカへ近付こうと一歩、脚を前へ踏み出すと、
「仲間に再会できて嬉しい気持ちは、理解できるわ。でも、今は我慢してちょうだい……」
イリビィートが、いきなり俺の右肩を片手でガッシリと掴み……前進する動きを止めてきた。
「な、なんだよ急にっ!?」
俺はすぐさま振り返り、肩上に置かれた手を羽避けようとしながら問う。
するとイリビィートは、淡々と口を動かし伝えてくる。
「この状況で駆け向かって行くと、周囲の石化しそびれた人たちは……、貴方の仲間がわたし達に加担しているかと思い込むに違いないわよ??」
冷静な一言を聞いた俺は、ピタリとその場で脚を止めて……密かに思う。
……今もしも、セリカの元へ向かったら、俺たち六魔柱の仲間だと思われてしまうのか……。
そんな風に思考を働かせていると、
「おい、セリカっ!! オレ達を置いてきぼりにして、先に行くなよっ!!」
再び、聞き覚えのある懐かしい声が聞こえてきた。
俺は直ぐに、声がした方へ顔を向ける。
すると其処には……フェンと、ペリシア、そしてアネータさんの姿があった。
……懐かしい、帰りたい。
そんなことを思い、今スグにセリカ達の元へと駆け向かいたい俺だが……足裏をピタリと地面に付けて、自身の気持ちに抵抗する。
……今あそこへ行ってしまったら、アイツらも俺たちの共犯者だと思われてしまう。
同じ言葉を何回も、自身へと言い聞かせて……興奮する気持ちに抵抗する。
しかし、溢れ出る思いには勝てなかった。
俺は、全速力でセリカ達の元へと駆け向う。
それに気付いたセリカは、目を見開き口を大きく開く。
「えっ!? なにっ!? なんか仮面を付けてる人が、急に私の方へ向かって来ているんですけどっ!?!?」
……仮面を付けてる人? あっ、俺のことか……。
セリカから発せられる慌ただしい言葉へ反応しながら、俺は走り続ける。
と、
「こんなにも空気が読めない人だったとは、思わなかったわ……」
不意に耳元で誰かが、残念そうに囁いてきた。
俺はすぐさま、その囁きの方へ視線を向ける。
瞬間……疾走中な右脚に、何かが引っ掛かった。
刹那、バランスを崩し……その場で勢いよく前転して、地面へと身体を叩きつけてしまう。
「な、なんだ!?」
俺は、地面から上半身だけをムクリと起こすと、すぐさま周囲を確認する。
すると、目前に佇むイリビィートの脚が瞳に映った。
「い、イリビィート? お前が、俺に脚を掛けて転ばせてきたんだなっ!?」




