4章 第13話
「うわぁぁああああーっ!?!?」
俺は勇気を振り絞って、なんとか言葉を発しようとしたが……叫び声以外に声を発する事はできなかった。
……ちくしょう、ドルチェに赤外線のことなど、色々なことを質問したいのに。
全身に風圧を打ち当てながら……黄金に輝く島との距離が段々と縮まっていくのを実感する。
叫び声を発するのをやめて、眉を八の字にした時だった……。
ユンバラが、風圧をものともせずに口を開いて言葉を発する。
「なぁ、ドルチェ? 赤外線とかって、大丈夫なのか??」
刹那、問い掛けに気づいたドルチェが口を動かす。
「えっとねぇ、赤外線があるところはねぇ? なんか、空間がモヤモヤしているのっ! だから、そこを避けていけば大丈夫なのっ!!」
……モヤモヤ? なんだそれ??
俺がそんなことを思っていると、ドルチェは再び小さな唇を開いて言う。
「ほら、あそこっ!! なんかモヤモヤしているでしょっ!?」
ドルチェは口を閉じると、顎先をクイッと落下進行先へ向けた。
指された空間あたりを確認すると……確かに、モヤモヤとした線のようなものが数本、薄っすら見える気がする……ような??
まぁ、赤外線の在り処を知れていることは良いに越したことはないが……現在の落下速度で、避けることは可能なのだろうか??
俺が良からぬ想像をしていると、ドルチェが俺たちに向かって呟く。
「それじゃ、ギュッと掴まってねっ!!」
……え? ギュッと……??
少しばかり戸惑った瞬間……いきなり身体が、左右上下に大きく揺さぶられた。
……ゔっ、ゔぉっ!?
俺は一瞬失いかけた気を確かに持つと、あたりを見渡す。
……視界が、グルグルと回転している。
進行先に視点を集中させてみる。
……左右上下と進行先がスグに変化してしまうため、位置感覚がより一層わからなくなった。
そこで、俺はなんとか……叫び声ではない言葉を掠れながらも腹から出して、ドルチェへ問う。
「い、今……こ、この状況は……、どういう……じょ、状況なんだ……??」
口を動かすだけで苦しかったが、なんとか言葉を発し終えると……ドルチェの声が鼓膜へ届いてきた。
「グルグルと飛んで、赤外線を避けてるのっ!!」
……グルグルと飛んで? つまり、蛇行飛びをして……いや、蛇行落下をして、赤外線を避けているのか??
というか、赤外線が存在する場所まで来ているってことは……、もうペフニーズィの領域圏内ということだよな!? だとしたら、島にいる人々に……空中で飛ぶ俺たちの姿が、見られているんじゃ!?
そんなことが脳裏を過ぎった俺は、苦しいと感じながらも、再び口を動かして問い掛ける。
「ど、ドルチェ……。こ、こんなに島の近くで……暴れ飛びをしてしまったら、多くの人たちに……、俺たちの姿を……確認されてしまわないか……??」
用件を伝え終えた俺は、口とスグに閉じると耳を澄ませて、返答が来るのをじっと待つ。
すると、
「おーいっ!! もう少しで、到着だっ!! 頑張れっ!!」
明らかにドルチェやユンバラの声質ではない、男の声が聞こえてきた。
……もう少しで到着??
俺は不意に聞こえてきた応援の声先を探してみる。
と、
人気のない場所で離陸を終えて、両手を此方へと振ってきているシュティレドの姿が、瞳に映った。
そんな景色をジッと見つめていると、
「よし、あと少しっ!! 気を付けてね!!」
シュティレドが口を大きく開いて、そう言ってきた。
……先程の応援は、シュティレドが発してきていたんだな。
心奥でチョッとした謎が解明されるなり、俺たちの離陸も無事に完了する。
それにしても……、
「此処って、本当にペフニーズィなのか……?? 噂と違って、人の気配が全然ないんだけれど……」
思っていたことを言葉にするなり、ドルチェの左腕を掴み茫然していたユンバラが言ってくる。
「今日この島では、世界一の遊び人と名高い男の舞台が開催されている……。皆は、その公演を観るために一つの場所に集まっているから……こんな何もない通り道に、居ないんだと思うぞ……」
……世界一の遊び人?
思うことは多々あったが、一つに絞り込み質問をする。
「もしや、この日を作戦決行日にした理由って……??」
「そう……街から人影が消えてしまうであろう、今日ある予定と時間帯を重ねさせていたんだよ。とりあえず、作戦成功だねっ!」
シュティレドは、俺の質問に優しく答えてくれるなり……続けて唇を開く。
「まぁ、そんなことは良しとして……皆んな、今からコレを配るから、ちゃんと付けてね!」
そう言うとシュティレドは、纏う黒スーツの内側から、『無地で木製な丸い仮面』と『黒いローブ』を……場の人数と同じ数だけ取り出した。
と、その時。
最寄りの建物の陰から、二人組の男の話し声が聞こえてくる。
「なぁ……そういえば、今日来ている護衛兵って、なんかすごい奴らなんだよな??」
「そういやなんか……上のお方たちが、今日の公演のために、ギルドへ護衛兵の募集を依頼していたな」
「そう、その依頼を受けた四人組が凄い奴らって、噂があるんだよ!」
「ふーん、どんな風に凄いの?」
「聞いた話だと……たった四人で、古代から町々を荒らし続けたドラゴンを倒したとか……。なかでも、白銀髪の奴が凄いらしいとか」
……白銀髪の奴??
誰の会話かも分からぬものを聞きながら、いろいろ想像していたら……突然に背後から首根を引っ張られて言われる。
「人が来たっていうのに、何故そんなに呑気にしているのかしら? 仮面を付けて、早くこの場を離れるわよ……」
後方を振り向くなり視界に、仮面で顔を隠しているイリビィートが映った。
「す、すまん……」
俺は軽く頭を下げるなり、シュティレドから仮面とローブを受け取り、皆でこの場を後にする。




