1章 第5話
「ご苦労様ですっ!」
俺たちは励ましの言葉と共に、カウンターで受付のおばさんから報酬の三十万ゼニーを受け取った。
「あわわわわぁぁああああーっ!! お、お金だぁぁああああっ!?」
所々焼き焦げみすぼらしい姿のセリカが、三十万ゼニーという大金を前に目を光らせ唾を飲み込む。
「おいおい……。いくら大金といっても、そんなオーバーリアクションを取ることはないだろう……」
俺が少し呆れ気味な態度を取ると、セリカは目を見開き威嚇する様に感情むき出しの言葉を解き放つ。
「なんでよっ! なんで、私のお金なのに喜んではいけないのっ!? これから、新しい服を買えると思うと喜びが込み上げてしょうがないのよっ!!」
「いや、いつからお前全ての手柄みたくなったの!? お前、貪欲すぎだろっ?!」
と、言いつつも……現在セリカの服装は、上着が焼き消えて少し焦げ目のついた下着が奇跡的にどうにか大事な部分を隠しているという状態だ。
それに、辺りの男冒険者からの視線がいかがわしい……という訳で俺はセリカに言う。
「しょうがないから、服ぐらいは買っても良いぞ……。その前に――」
俺が口を開くなり、セリカは……全身で喜びを表し、ギルドから飛び出して行ってしまった。
……え? まだ話の途中なんだけど、どこ行くの??
俺は唖然と、喜びに溢れる後ろ姿を目でしばらく追ったのち……フッと我にかえる。
「…………チョっ! チョッと待てよっ!?」
俺は、自らの限界ギリギリまで足を素早く動かし……『わーいわーい』っと能天気な笑みを浮かべるセリカの元へ追い付くと、肩をガッシリ掴み、ギルド内へと急いで引き戻した。
「お前一人でどこ行く気だよっ!?」
汗だくになった俺は、とりあえず叫んだ。
するとセリカは、眉間にしわを寄せて俺のことをガン見する。
「いや、普通に服屋へ行こうとしただけなんですけれど……。なんか問題でもあった?」
「滅茶苦茶あるわ! 話してる途中でどっか行くし、それにレクシムへ来たばかりで店の場所分からないだろ!! なにより、そんな格好で外出るなよ……。クエスト終えてここまで来る途中に、警察官から『次にそんな格好で町中を歩いているのを見かけたら、公然わいせつ罪で逮捕するからね』って言われただろう!?」
と、
「ゔっ、うわぁぁああああああぁんーっ!? なんで、私は公然わいせつで注意されているのに、大金を盗んだ盗賊のガキは、警察に何も言われなかったのぉぉおおおお!!」
セリカが大量の涙と鼻水を流して、とてつもない大きな声で急に泣き喚きはじめてしまった。
悲劇のヒロインのように……泣きはじめた。
……てか、何気に警察への愚痴も大声で発している。
と……俺は、辺りを逃げなく見渡して気付く。
ギルドで働く職員や冒険者が、泣き声に反応して視線が俺たち一点に集中しはじめている。
それだけならまだしも、変な発言まで聞こえてきた。
「あの男こんな所で、今泣いてる白銀髪な美女に、痴漢したらしいぜ」
「うぇええ……あの男、今泣いてる美女に暴力振るっているんだって……」
「そういや、あいつら外で警察官に職質されてたぞ……」
おい、俺の有りもしない悪口をやめろ。
それに、セリカを美女扱いするな。
何気に最後に聞こえた言葉……本当のことだな。
とまぁ、
泣いてしまったのは、俺がキツイ言い方をしたからだろう……。
申し訳ない感情を抱くと俺は素直に謝る決意を固める。
「すまなかった。その……言い方とかキツくて……」
そんな風に謝罪した結果、俺はとてつもなく後悔することになった。
「え? 今、なんつったの?? 聞こえなかったから、もーいちど繰り返してぇーっ」
さっきまでの大声はなんと嘘泣きで、もう一度謝罪の言葉を要求して来たからである。
要求してくる顔は皺くちゃで、見るに耐えなく憎たらしかった。
ムッ……なんだよ、こいつマジで。
よし、こんな奴には一発ぐらい殴っても良いよな?
――それから暫くして。
俺たちは今、ギルドから徒歩十分の洋服屋まで来た。
セリカはというと……ギルドから借りたローブで身を隠し、頭の上にできた一つの大きなタンコブを両手で抑えて、シクシクと静かに涙を流していた。
「おい、そんなに泣くなよぉ……。此処はさっきからお前が来たがっていた服屋だろう。せっかく受付のおばさんに場所を聞いて、わざわざ来たというのにさぁ」
「ゔ、うるせいっ!? というか、泣いてないしぃ……ゔっ、ヒクッ?!」
いや、何故ギルドであんなに大泣きしてた奴が、此処にきて変なプライドを見せ付けるんだ?
まぁ、何でも良いから早く服を選ばせるか……。
「そんな意地見せつけなくて良いから、サッサと欲しい服を選択してくれ……」
俺が呟いたら、セリカは右腕を目元の涙が消えるまでゴシゴシ顔に擦りつけ、その行動を終えると無言で洋服選びを開始した。
まず、最初にセリカが手に取ったのは多くのフリルが付いた黒のワンピースだ。
しかし気に入らなかったのか商品を元の場所戻すと、次に店の端っこに置かれてあるスカート付きの白い長袖を取る。
それは、薄ピンク色のシルクを基調とした、長い袖とスカートが付いたドレスの様な物で、此方もさっきと同様に沢山のフリルで装飾されていた。
これを目にした俺は心中で考察する。
パンツにもフリル付いてるけど、もしかしてセリカはチョッとしたロリィタファッション好きなのか? と……。
とまぁ、セリカは眉を顰め困惑の表情で何度も目を瞬かせたり睨めっこしたりを繰り返してやっと心に落ち着いたのだろう。
両手で吊り下げるように薄ピンクを基調とした洋服を此方にへと持ってきて、会計に行こうと合図してきた。
全ての報酬を懐に入れている俺は指示に従い、共に会計をする為にカウンターまで足を運び選択した洋服を店員へと手渡しする。
すると、
驚く価格が店員の口から告げられた。
「十八万ゼニーになります」
口が緩んだ俺は思わず、「は?」っと驚愕を表す言葉を吐いてしまう。
だって、十八万ゼニーだよ?
一ヶ月まともな料理を三食ふつうに口にしてても、10万ゼニーは超えないんだよ??
この服メッチャ高価すぎるだろう……。
しかし、買わなければセリカはまた泣き喚くフリをするのだろうか……。
未来を先読みした俺は、しょうがなくお金を払うことにした。
……また、クエストで稼げば良い話だしな。
その後に俺たちは、暖かく安全な部屋で一晩を越すべく、ギルドのおばさんから洋服屋の場所ついでにと教えて貰っていた宿屋へと向かった。