4章 第6話
俺は唖然として、ジッと扉を見つめていた。
すると再び、
――ドンドンッ!!
大きなノック音が建物内に響いた。
そして、
「今、帰ったよ」
外から物静かな声が、微かに聞こえてきた……直後、扉がユックリと開いていく。
すると、ドルチェが突然に満面の笑みを浮かべて、
「この声はぁ! ボスだぁっ!!」
ニコニコとはしゃぎながら、扉前へと駆け向かって行く。
ボスって、マジかよ……。
六魔柱のボスというぐらいだ。相当厳つくて、悪に染まっている者なのだろう……?
勝手に色々な妄想を膨らませながら戸惑っていると、ユンバラが俺の顔を見つめて悪戯っぽく笑う。
「なに緊張してるんだっ? もしかして、ボスに恐怖でも感じているのか??」
口を堅く閉じて、コクンと首を縦に振ってみせる。
そんな額に汗を浮かべ緊張している俺に、「まぁ……肩の力を抜けよ。ボスは、めちゃくちゃ優しい人だから」とユンバラはニコリと笑みをつくり、飄々と扉前へ歩き向かっていく。
「――そういうことよ。緊張なんかしなくても良いわ」
不意に俺の背後から響いたそんな言葉。
その言葉を発する正体は、声質などから瞬時に特定できた。
「べ、別に……、そんな緊張してないけどなっ!」
俺は冗談交じりに声を荒げながら後方を振り返り、声の正体であるイリビィートへ笑みをつくって見せる。
俺の笑みを目にするなりイリビィートは、フフッと鼻で少し笑って、
「変顔をしてる様子を見る限り、緊張は解れたようね」
緊張で顔を強張らせていた所為か【笑顔】を【変顔】と、捉えられてしまった。
少しばかり自分の笑顔に自信を無くしていると、
「……おや? 君は誰かな??」
背後から、疑問に満ちている言葉を唐突に投げかけられた。
俺の背後には、建物の出入口の扉が存在している。
……もしや、俺に今質問をしてきているのは……お帰りになったボスなのでは??
俺は後方を確認すべく、恐る恐る振り返ってみることに決める。
ユックリと背後へ視線を移すなり……、痩せて高身長な身体に黒スーツと黒マントを纏う、血の気なく青ざめた若顔の黒髪男が確認できた。
口元をシッカリ確認してみると、鋭く尖った犬歯が、真っ赤な唇から小さく飛び出ているのが分かる。
そんな男の右脚には、ニコニコと微笑むドルチェがギュッと抱き締めるようにくっ付いている……。
一見微笑ましい様子なのだが……、男の身体から底知れぬ恐怖がオーラとして滲みでている所為で、全然微笑ましく見えない!!
俺は目前に立つこの男が六魔柱のボスなのだろうと、すぐに確信した。
しかし、男の背中から翼は生えていない。ドルチェは翼の羽ばたく音で、ボスが帰ってきたと判断していた筈なのだが……?
そこで俺は、
「も、もしかして……貴方は……。六魔柱の……ぼ、ボス??」
自分自身でも分かるぐらいに言葉をつっかえながら、目前の男へと尋ねる。
すると、黒尽くめな男はコクンと頷き……
「……そうだけど……君は誰かな??」
落ち着いていながらも、少しイラついた感じで、質問を返してこられた。




