4章 第5話
先程まで、口元に感じていた柔らかな感触は……もしかして……??
とりあえず俺は周囲を確認しようと……視界を妨げているものを顔から剥がす為に、両手でギュッと掴みかかった。
ん……? 触った感じ……この触り心地は……??
両手で掴んだものは、柔らかく生暖かくて、小さく脈打っている。
触れた感覚で、なだらかな凹凸の有る細長い形状だとも分かる。
コレは……??
俺は一回ため息を吐くと、
「おりゃっ!!」
勢いよく目隠しするモノを引き剥がす。
刹那、視界に自由が戻った。
同時に……。右手だけを使い、仮面を付ける動作を行うベジッサが瞳に映る。
そんなベジッサの左手は、俺が両腕で掴んでいた。
これらの事から察するに……どうやら俺はベジッサの左掌で、目隠しをされていたらしい。
それよりも、
「えっと……一つ質問して良いですか?」
俺は少し頬を赤らめて、ベジッサへ落ち着いた口調で話し掛けると、
「良い……」
仮面を装着し終えた顔から、質問することを許可する言葉が発せられた。
許可が降りるなり、俺は喉に溜まった唾をゴクンと一飲みして……
「じゃ、じゃあ……言いますよ」
「うん……」
仮面で顔を隠しているベジッサは、コクンと首を縦に動かす。
俺は、そんな動作を見届けるなり……再び唇を静かに開閉する。
「……俺に、キスしましたか?」
比喩も何も使用せずに、直球で問い掛けてみた。
すると、ベジッサは……
「……キス? ……石化した者へと、私の魔力を注ぎ込む儀式のこと??」
首を傾げながら、ボンヤリと問い掛けてきた。
すぐさま俺は、その儀式とはどんなモノなのかを確認する為に……
「お互いの口を付け合ったりしました……??」
「うん……。お互いの口先を付け合った」
「あ……はい」
俺は、語彙力の欠けた返事をすると共に、思考を巡らせる。
……俺とベジッサは、キスをしたって事で良いのか?? いや、でも儀式だから……?? というか俺、石化してたの??
と、
「ねぇ! 外からボスの翼を羽ばたかせる音が聞こえるよっ!!」
唐突に、部屋の隅でユンバラと会話をしていたドルチェが叫ぶような大声で言った。
……ボス??
俺はベジッサとの会話を中断して、ドルチェの方へ視界を移すと、首を傾げる。
すると……次は静かに笑い声を零すイリビィートの声が、視界端から聞こえてきた。
「ふふっ……いつも思うけどドルチェは、ボスの事が大好きなのね」
微笑むイリビィートの言葉を耳にしたドルチェは……
「うん! ダイスキィ!!」
太陽のように明るい笑みを浮かべて言い切った。
続いてユンバラが明るい笑みを浮かべながら、割り込むようにドルチェへ言う。
「そういや、イリビィート達が此処へ来る少し前……。出入口扉を開け閉めしながら、ずっとボスの帰りを待っていたよなっ!」
ユンバラの言ったことを聞いたドルチェは、スゥッと耳先まで顔を真っ赤に染めて……
「い、言わないでよぉ!!」
恥ずかしそうに顔を皺くちゃにして、その場でしゃがみ込んだ。
そんな時、
――バサッ! バサッ!!
建物外から巨鳥が羽ばたくような羽音が聞こえてきた。
同時に、
――ドンドンッ!!
外側から出入口扉を強く叩く音が、鼓膜に響く。
今、扉をノックしていたのは……六魔柱たちが『ボス』と呼ぶ人物なのだろうか??




