4章 第3話
建物に入るや否や、スッカリと普通の人な姿へと戻ったイリビィートと目が合ってしまい……
「遅いわよ……」
「す、すまん」
俺は不機嫌そうに文句を呟くイリビィートへ軽く頭を下げると、周囲を見渡して部屋の内装を確認する。
狭いと思っていた室内は、想像以上に広々としていて……木目が目立つ天井の中心には、炎が淡く灯るランプが吊るされていた。
家具は、部屋の真ん中に置かれている長方形な木製テーブル以外に、なんにも見当たらない。
ユンバラとドルチェは、何やら楽しそうに会話をしている。
そんなこんな思いながら、絶えず右左を確認していると、部屋隅で正座をしている見知らぬ者の姿が目に止まった。
「な、なんだ……あの人は?」
視界に映った者は、腰まで伸びる縮れた長い緑色の髪毛と、歪な模様が描かれている真っ白な丸い仮面で顔を隠している。
質素な布服を纏う色白でスレンダーな身体と、ふっくらとした胸部を見る限り、女性なのだろう。
そんな女性であろう者は、背筋をピシリと伸ばして正座したまま、微動だにしていない。橙色のランプの灯りに、髪の分かれ目から微かに確認できる、白いうなじを照らされている。
俺は……滲み出る彼女の不思議な雰囲気に、少し恐怖を感じた。
と、
仮面で顔を覆う者の顔向きが、唐突に此方へと向いてきて……
「……あら、君はだれ?」
力の抜けている声質で、問い掛けられた。
「え……?」
話しかけられないと思っていた者に突然話しかけられたので、俺は困惑気味に声を詰まらせてしまう。
そんな時だ。
「ベジッサ、やっと目が覚めたのかっ!」
ユンバラが、ドルチェとの会話を中断して、仮面を付ける者へと元気よく言った。
そんな言葉へ対して、ベジッサという名の仮面をつけた者は、
「おはよう……。いいえ、こんばんわ……ユンバラ」
仮面越しからユックリとした穏やかな声が、俺の鼓膜に漏れ響いてきた。
瞬間に、ドルチェの元気な声も聞こえてくる。
「ねぇ、ベジッサっ!! 新しい仲間が来たんだよぉ!!」
新しい仲間……? それって、俺のことだよな??
威勢の良い発言に答えようとするベジッサは、首を傾げ俺の方へと指を差してきながら……
「もしかして……この人のこと??」
「そうだよっ!」
ベジッサへ向かって、元気よく口を動かすドルチェの姿が瞳に映る。
続いて、納得したように首を縦に振るベジッサの姿が視界に入った。
……やっぱり、俺のことだったのか。
というか……なんでベジッサっていう者は、仮面をつけているんだ??
そんな事を思っていると、ユンバラが耳元に近づいてきて、小声で……
「大事な事を伝えるから、覚えておけよ……」
「え? あ、おう……」
戸惑いながらも頷くと、ユンバラの口が再び小さく開く。
「仮面を付けている者が居るだろ?」
「あぁ……」
俺は頷く。
ユンバラは、休まず口を動かす。
「死にたくなければ、あいつの仮面の下を絶対に見るなよ……」
「え? な、なんで……?」
多少驚愕しながら理由を尋ねると、ユンバラは悪戯めいた笑みを浮かべ、
「それは……石化してしまうからだ……」
「石化……?」
「石像になっちまうってことだよ……」
ユンバラは俺の質問に答え終えると、ニヤリと口を閉じる。




