1章 第4話
掲示板へと来たのは良いが、思っていたよりクエストの掲示されている数が多いな……。何を基準に選んだら良いのかさっぱり分からない。
俺がそんなことを思っていたら、難しい顔で請け負うクエストを吟味しているセリカが突然大声を上げて、俺の名を呼んだ。
「ねぇ、カナヤ!! コレなんかどう!??」
セリカの人差し指の先には、一枚の依頼書が張り出されていた。
『――レクシム町の周辺にて、【ムーブオイル】の討伐―― 最近、周辺の村や街にへと旅行に行きたいと思っているのですが、【ムーブオイル】という油が粘土のように固体化しているかに見える魔物が大量発生していて、恐ろしさのあまりに中々町の郊外へと足を踏み出す事がままなりません。なので、村周辺の【ムーブオイル】を全て討伐してください。報酬は三十万ゼニー』
「ムーブオイルって確か、町に来る途中にちらほら見かけた気色悪い色をした魔物のことだよな……?」
俺はセリカに訊ねると、コクンと頷かれた。
確かムーブオイルは、最弱モンスターだったし、町に来る途中に見かけた感じではそこまで数は多くなかった……。そいつらを倒すだけで三十万ゼニーは美味しい話だな。
「よし、セリカ! このクエストを請け負うことにしよう!!」
俺は、クエストの内容が記された一枚の依頼書を掲示板から剥がし手に取ると……セリカを引き連れて、カウンター場所に居る受付のおばさんの所まで向かい、
「あの、すみません。このクエストを受注したいんですけれども……」
俺はそう言って、受付のおばさんに紙を手渡す。
その紙を受け取ったおばさんは唐突に驚く仕草を顔に表し、小さく呟く。
「あ、コレって…………」
最後の部分の言葉がよく聞こえなく気になった俺は首を傾げて、おばさんへと質問する。
「え、このクエストがどうかしたんですか??」
すると、おばさんは急に冷や汗をかきはじめ、何か不都合なことを隠しているかのように顔を赤面させながら笑みを浮かべ、
「いやぁーっ、なんでもないですよーっ!! あ、このクエスト頑張って下さいねっ!! それでは、気を付けていってらっしゃいませーっ!!!!」
精一杯に笑みを浮かべているつもりなんだろうが、顔が全く笑っているように見えないのは何故だろう……。
とまぁ、こんな所でジッと立ち止まっていても何にも起きないので、クエストを実行するべく町の外へと出ることにしようとした……その時だった。
「よぉ、そこの若いお二人さんよぉ……」
とんがり帽子を頭にかぶった三十代くらいのおじさんが前方から、こちらにへと寄ってくる。
見るからに、悪役といった感じの人相だ。
俺はそんな彼に、ほんの少しの恐怖心を実感しながら対応する。
「なな、な、なっ! なんですぅか?!!」
ごめん、嘘……メッチャ怖がってるわ、俺。
てかセリカ、気配消そうとするなよぉ……。
しかし……怖がる必要はなかったようだ。
「お前ら、その軽装備からして駆け出し冒険者だろ?」
「え……? あ、はい……そうですけど??」
俺が先の読めぬ質問に戸惑い首を傾げていると、セリカがおじさんに根拠のないことを言いはじめた。
「あっ! もしかして、あんた駆け出し冒険者からカツアゲをしたりするのが趣味な雑魚狩りとか言う奴!? それならコッチ来るなっ! シッ、シッ!!」
セリカは、右手首の関節を素早い速さでクネクネと動かし、おじさんを追い払う仕草を取り始める。
それを目にしたおじさんは、首を横に振るなど全身を使い、俺たちに向かって否定した。
「いや、違うっ! 違うから!? 俺はただ、同じギルド連盟に所属する同志として君たちに冒険に役立つ情報を教えてやろうと思っただけなんだっ!?」
おじさんの胸元を見てみると、確かに青色のピンバッチが付けられている……が、セリカの行動と同様におじさんの発言にも根拠がみられない。
だが、
驚きぶりと否定する眼差しの真剣度合いから信じることにしよう。
そこで、俺は聞いてみる。
「胸元のバッチの色からして、貴方の冒険者職業は【僧侶】ですよねぇ?」
「え? あ、あぁ……そうだが、それがどうかしたか?? 若き者よ……」
なんだこいつ、質問を切り出した途端に冷静になってカッコつけやがって……。
俺は内心で語る中、次の質問を切りだす。
「それじゃあ、魔法とかって使えるんですか??」
「あぁ、もちろん使えるとも……方法は、使いたい呪文を脳裏に浮かべるんだ! まぁ、魔力の少ない頃は炎を杖から砲弾の様に飛ばしたりする感じかなぁ……魔力が増えていけば、凄い魔法も使える様になっていくよ!! ちなみに、【僧侶】以外は魔法をあんまり使えない代わり、職業にあった身体の部位が強化されるって感じかなぁ」
おじさんは言い切ると、にこやかな笑顔と共にパチクリッとウインクをきめた。
魔力とはなんなのだろうか? とりあえず、お礼でも言っておくか……。
俺とセリカは「ありがとうございました」と頭を下げて、この場を後にした。
数分後……町の外へと出て来た俺たちは、騒然とした。
「な、なんだよコレ……」
昼間になったからだろうか……? ほんの少し前に町へと到着した時よりも、明らかに【ムーブオイル】の数が増えていた。
目に見える限り三百匹は居る……。おそらくだが、受付のおばさんはこの事に対して何らかの気持ちを抱いていたので愛想笑いをしていたのだろう……。
そんな光景に、俺が唖然と口を開いて固まり尽くしていた時だった。
「私は最強の【遊び人】になるわぁぁあああああっ!!!!!!」
セリカは腰に下げている黄金の剣を鞘から抜くと、雄叫びを上げながら、すぐ近くに見えたムーブオイルの群れにへと特攻して行った。
てか、最強の遊び人って何だよ……絶対にニートかそれに近いものだろ……。
「うぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!」
叫びながら適当に剣を振るセリカだが、次々とムーブオイルを切り裂いている。
そんな姿を視界にしていたら不思議と俺もやる気が出て来た。
「よし、俺もやるとするか……」
ポツリと小さく呟き、ズボンのポケットにしまっておいた俺の相棒・【ヒノキ棒】を取り出した。
「少し短くて太めだが、杖の代用としては十分だろう……」
俺はとんがり帽子のおじさんに教えて貰った通りに、頭に魔法を使うイメージを浮かべた。
「……ゔっ、なんかイケる感じがするっ」
っと、次の瞬間、
俺の相棒から、赤ちゃんの握り拳一つ分の炎の玉が『ボワッ!』と音と共に噴き出てきた。
「うわっ!? マジで炎出てきた!?」
途端に、身体の芯から生命エネルギーをゴッソリと誰かに持っていかれる感覚を身で感じる。
この感覚が……今消費しているものが魔力なのだろう。
あまり魔法を使い過ぎると、魔力が切れて気絶してしまいそうだ。
だが、なんとなく感覚が掴めた俺は調子に乗ってもう一度挑戦してみる。
すると、再び相棒から赤ちゃんの握り拳一つ分の揺らめく炎の玉が生まれてきた……が、炎の玉は俺の意思に関係なく、物凄い速さでセリカと戦闘をしているムーブオイルの群の方へと飛んでいった。
「うお! 俺の生み出した炎の玉がムーブオイルの群れにへと当たるけど、どうなるんだ!?」
俺が、瞬間をワクワクと楽しみにしていたら……何処からともなく、魔物の群れを庇うようにセリカが視界の端から飛び出して来た。
その後、
炎の玉はセリカの身体へと直撃した。
「あちゃちゃちゃちゃちゃちゃーっ!?」
結果、セリカの着ていた上着に点火して辺りにいたムーブオイルの群れ共々盛大に燃えていった。
ん?
そういえば、セリカになんか貸していたような……。
「って、あぁーっ!? 俺の上着ガァアアアアーッ!?」
相当大きな叫び声だったので、炎の中まで響き渡ったのだろう……。
「いや、優先順位的に私のことを心配してよっ!?!?」
そんな声が燃え盛る火の海の中から、微かに聞こえた……。
――とまぁ、色々あったがなんとかクエストのクリア条件を達成して、俺とセリカは町の中にあるギルドへと戻った。