4章 第1話
世界征服……? 意味がわからない……??
桃色髪の男が放った言葉の所為で、頭の中は【世界征服】という単語で埋め尽くされ、思考能力が段々と低下していく。
俺は呆然と突っ立ったまま、無茶苦茶な発言をした男の瞳をジッと見つめる。
男の瞳に、曇りは一切ない。
正気で、世界征服を実行しようと言っていたのだろう。
「せ、世界征服……?」
俺が呟くように語りかけると、男はコクンと頷き、
「あぁ。この世界を征服するんだ」
ハッキリとした口調で、光の灯る眼差しで言い切られた。
聞き間違いではないことは確かだ。
しかし……世界を征服することが、なぜ魔王から世界を守ることに繋がるのだろう?
思考回路が徐々に修復されつつある中、近くに立つイリビィートが悪戯めいた笑みを浮かべ、
「本当に貴方は説明が得意じゃないわよね……ユンバラ」
そう告げたイリビィートへ桃色髪の男……いや……【ユンバラ】という男は、顔を真っ赤にして、
「うるせぇなぁっ! そんなことを言うのなら、お前が説明しろよっ!!」
駄々をこねる子供のように、声を張り上げて言い返す。
そんな反論に対してイリビィートは、溜息を吐きながら、
「そうね。仕方がないから、説明役を代わってあげるわ……」
目前で繰り広げられる二人の会話は、呆れた口調を最後に、幕を閉じられた。
直後、二つの視線が、俺の顔一点に集中する。
……え?
俺は鋭く見つめる眼差しに、驚きと緊張を感じて……数歩ユックリと後退りしてしまった。
「とりあえず……皆が居る、小屋の中へ入りましょう」
イリビィートが提案するなり……ユンバラは急に笑みを浮かべ、俺の肩に手を回して何度も叩く。
「それじゃあ、小屋へ向かうとしよう!!」
いまひとつ乗り気がしなかったが、肩に回された腕の強い力で、小屋へと誘われる。
逆らったらどうなるか分からないので、従うことにしよう。
――しばらく歩くと、手を伸ばしたら小屋に触れることの出来る程の距離まで到着した。
近くで確認して気付いたが……建物は木扉が取り付けられているだけの、三角屋根に窓無しの小屋であった。
素人が作った雰囲気が溢れ出る小屋である。
「久しぶりに、この建物内に入るわ……」
イリビィートはニヤリ笑みを浮かべ呟くと、ドアへ向かった。その後、不恰好なドアノブを握り締めると、お淑やかに扉を開けていく。
そんな時、
「うん? イリビィートぉ……??」
イリビィートが開いた扉の陰から華奢な上半身を見せて、不思議そうに首を傾げる幼女がヒョッコリ現れた。
綿花のように柔らかなショートの灰色髪と、大きな青玉色の瞳が特徴的な、年の頃五、六歳くらいの幼い少女である。
外へ出ようとした瞬間に、イリビィートが扉を開いて鉢合わせになったのだろう。
無言で目前の光景を眺めていると、幼女は青眼の真ん丸な瞳を俺にも向けてきて、
「だぁれぇ……?」
覚えたてのような言葉を使い、上目で問い掛けてきた。




