3章 第12話
俺たちは看守たちに、少し距離を置かれながら、円を描くように隙間なく包囲された。
その後、場の中心に居る俺たちに近付き向かって来て、円の大きさはドンドンと小さくなっていく。
「どう切り抜けようか……この状況……」
アスモリが額に一筋の汗を垂らしながら、四方八方見渡して呟いた。
……大変なことになった。
捕まれば、再び監獄入りだろう……脱獄の罪で拷問付きで。
なぜ勢いだけで飛び出して来てしまったのだろう……。もう少し、ちゃんと計画を立てていれば良かった……。
俺が手に汗握っていると、すぐ隣で不思議と冷静さを保っているイリビィートが、俺とアスモリの顔近くで密かに唇を動かす。
「貴方たち……あたしが一言大きく叫んだら、前方の看守に体当たりで突破するわよ」
「え、いや……この状況を切り抜けれたとしても、この島には看守たち沢山いる。すぐに捕まって……」
最悪な状況下を前に、諦めの心を抱いた俺にイリビィートは早口で言う。
「諦めるのが、早いわよ。突破口なんていくらでも有るわ」
「……この島から脱出する方法があるというのか??」
「行くわよっ!!」
唐突なイリビィートの掛け声に、ワケの分からない中、俺は地面を力強く踏みしめてスタートを切った。
「うおおおおおおっ!!」
アスモリは雄叫びを上げ、先頭を切って看守たちにガタイの良い身体を全力で打つける。
刹那、看守数人がふらりと蹌踉めき、隙間無かった円陣に大きな出口が開いた。
走りながら辺りを見渡すと、看守たちの唖然とした表情が瞳に映る。
俺たちが突然に捨て身な突進をしてきたので、驚いているのだろう。
そんな中……スタートダッシュからちょうど三十歩目ぐらいで、目を丸くしている看守たちの間を通り、俺は窮屈な空間から脱出した。
足を止めることなく、俺たちは走り続ける。
「なぁ、……さっき言っていた突破口って一体……?」
脚を動かしながら、隣で走るイリビィートへ質問してみた。
すると、彼女は視線を前方に据えたまま早口で囁く。
「この島へ、どうのように来たのかしら? この島から看守たちはどのように、他の島へ移動するのかしら?」
瞬間、閃くように思考回路が回転した。
「……巨大な鳥に乗って、此処まで来た」
すぐに、うんという答えが返ってくる。そういう事だったのか……巨大な鳥に乗って、この島を脱出するのか。
巨鳥を探す手間は無用だった。
崖っぷちへジックリ視線を向けると、そこら彼処に羽休めをしている巨鳥が確認出来る。距離が離れている所為で、豆粒のような大きさでだが……。
と、
「おいお前らっ! どこへ行く気だっ!!」
後方から看守の怒り狂った叫びが届いた。
「くっ、急がないと追いつかれるぞ……」
アスモリが焦った様子で囁く。
前方を見る限り、もう少し進んだら巨鳥がいる目的地へ到着する。
……こんな所で捕まってたまるか。
俺たちは両足に力をグッと込め、走る勢いを加速した。
そして遂に、
「はぁはぁ……よし、この鳥に乗れば」
俺は脚を止めると、息を切らしながら眼前の羽毛に触れる。
みた様子、巨鳥の背中に三人は余裕で乗れそうだ。
俺たちは急いで、巨鳥の背へと跨がる。
しかし、
「ちょ、おい動けよっ!!」
跨がれた巨鳥は飛び立つどころか、全く微動だに動こうとしなかった。
背を振り返って見ると、多くの看守が此方へと駆け向かって来ている。
……やばい、ヤバイ、ヤバイヤバイっ!!
焦りの感情が、身体全身から噴き出るように湧いてくる。
看守たちの足音が段々と大きさを増していく。近づいてきている証拠だ。
……あぁ、もうダメ。
半ば俺が諦めかけた時だった。
「……しょうがないわ。せっかく魔力回復してきたというのに……」
俺の前方位置で、巨鳥の背に跨がるイリビィートが呟いた。
「え? どうしたんだ??」
頭を斜めに傾け問い掛けると、イリビィートは途端に呻き声を喉元から少し発して、
「……少しばかり、容姿を変化させるのよ」
そんな事を言う彼女の頭部から、白毛な狐耳が二つ生えてきて……遂にお尻辺りからは、九つの白尾が確認できるようになった。
「こ、この姿……」
イリビィートは、目を丸くしている俺と目が合うなり、悪戯めいた笑みを浮かべ、
「安心してほしいわ。別に最終形態にまで容姿を変えるつもりはないから……」
最終形態は、獣人国で俺が肛門にヒノキ棒をぶっ刺した時の姿なのだろう。巨大な白狐の容姿……あの姿は恐ろしかった。
そういえば、アスモリってイリビィートが変身する事を知っていたっけ……?
そんな事を思いながらアスモリの顔を視界に入れてみる。
「お、おい……。な、なんだ、その姿は……?」
アスモリは目前の狐耳を見つめながら、口をパクパクと開閉させていた。凄く動揺をしているようだ……。




