3章 第8話
強面看守を前に、ご飯を貰おうとする囚人達が、長蛇の列を作って並んでいる。
俺とアスモリが最後尾に並ぶこと、およそ五分……。
「ほら、感謝を込めて食べろよ」
看守から、成人握りこぶし程度の大きさはある、白米握り飯を一つ貰った。
出来立てなのだろう……おにぎりの温かさが、ジンワリと手に伝わってくる。
「ありがとうございます……」
俺は感謝の言葉を述べると、アスモリと共に、先ほど仕事をしていた場所へ戻り、白米を口にする。
味は、塩が少し振りかけられただけの質素なモノだった。
アスモリと談笑をしながら、モグモグ口を動かしていると突然に、
「なぁ……お前。さっき看守に連れてこられた時、手に何か隠し持っていたよな??」
声の発生地は、アスモリの耳元だ。
俺は直ぐさま、アスモリ後方へ視界を移す。
「お、お前は……」
俺は多少動揺しながら、相手の目を見つめる。
瞳に映っているのは……『脚の動きが凄い』と、仕事中に俺が感じていた細身の男。
そんな細身の男は、俺と目が合うなり人差し指を口前に添えて、
「おっと、何も喋らずに……おいらの話を聞いてもらおう」
「お、おう……」
指示通りに、俺とアスモリは黙って話を聞くことにした。
「実はおいら、脱獄がしたいんだ……」
「……」
『黙っていろ』と命令されたので、俺は無言を貫く。
「んで、思いついた訳だ……」
「……」
「お前らの持っている鍵を奪おうと……」
「……!? それは無理なこと――……」
「おっと、口を慎め……。看守に鍵の存在をバラすぞ?」
「…………くっ」
俺は指示通り、悔しみを抱きながら開いた口を塞いだ。
そんな中、再び細身な男の話は開始する。
「んで、どうする? おいらに渡すか、おいらに渡さない選択を選んで……看守へチクられるか?」
俺は無言の表情で、アスモリの顔を見る。
アスモリは、目を瞑って頷いていた。
『渡せ』という事なのだろう。
と、
「ご飯の時間は終わりだ! 仕事に戻れ!!」
強面看守の声が鼓膜に響くなり、細身の男は舌打ちをして、
「……良い答えを待っているぜ」
先ほど仕事をしていた、自身の定位置へと戻って行く。
その後……俺とアスモリも、再び仕事に戻った時だった。
再び強面看守が、仕事場全体に伝わる大きな声で、
「おい、新しい仲間が来たぞっ!!」
強面看守の居る後方を振り向くなり、ボロボロな姿のイリビィートが目に映った。
俺は思わず大声で、
「い、イリビィート!!」
表情を緩め叫んでしまい、強面看守や周りの囚人達に睨まれてしまう。
「あ、すみません……」
周囲の人々へ頭を下げるなり、とりあえずイリビィートを隣へ、手招きする。
イリビィートは俺の招きを受け入れると、隣へ駆けてきて一言、
「ねぇ、鍵……ちゃんと守れたのかしら??」




