3章 第7話
――看守に引っ張られ、地下室へ脚を踏み入れる。
「な、なんだよこれ……」
思わず驚愕……いや、拒絶とも言える一言を口から発してしまう程、仕事場は荒れていた。
薄汚れた囚人たちが汗水垂らして……誰一人、俺たちの存在を気にせずに、暗い表情で体を動かし続けている。
壁から飛び出た、大きく丸い鉄製ハンドルを右回りに、休まず手動で回している人……。
手枷をしながら斧を振り作った薪で、巨大な暖炉の炎が消えないように、身体を火照らせながら激しく燃やし続けている人……。
多くの囚人が看守たちに見張られ、それぞれの仕事を辛い表情でこなしている。
「し、仕事って……。い、一体、何をしているんだ……??」
俺が疑問を独り言として呟くと、隣のアスモリが小さな声で、
「発電……。出入口の扉が自動開閉する時などに使う、エネルギーを作っているんだ」
「そうなのか……」
俺が細々した言葉を返すと、看守が大きく口を開けて、
「よし、お前ら二人!! 彼処で働いてもらうとしよう!!」
看守が指差す先には……数十の囚人共が、激しく足踏みする姿が見える。
「え……? アレは何をしているんですか……??」
俺が頭に『?』を浮かべながら、看守へ問い掛けると、
「床を踏み付ける事によって発生する微小な圧力や振動で、発電をしているんだ」
「そ、そうなんですか……」
「そうだ。それでは、働きに行け」
「あ、はい……」
看守の命令に従い、俺はアスモリと一緒に、任された担当場所へ急ぎ足で移動した。
仕事場へ到着するなり、現場を仕切る強面な看守が、
「お前ら、遅れて来て挨拶も無しかっ!!」
「「ひやぁ!? お、遅れてスミマセンッ!!」」
俺とアスモリの声が綺麗に重なったのを耳にした強面看守は、眉間に皺を寄せ頷き、
「まぁ……今回はコレで良しとしよう。では、早速……働いて貰おうじゃないか」
「「了解しましたっ!!」」
アスモリと共に了解すると、看守が一点の場所を指差して、
「では、彼処で周りと同じように脚を動かして貰う!!」
「「はい!!」」
直ぐに返事をして、強面看守に指定された位置に移動を終えるなり、足踏みを開始する。
「よいしょ!! よいしょ!! よいしょ!!」
掛け声を喉から吐き出しながら、俺はとにかく脚を上下させるのを繰り返す。
「よいしょ!! よいしょ!! よいしょ!!」
始めはとても楽だったのだが、脚を動かすに連れて、段々と一連の動きがキツくなっていく。
それでも俺は、
「よいしょ!! よいしょ!! よいしょ!!」
掛け声と共に脚を動かし続ける。
「よいしょ!! よいしょ! よいしょ……」
少し疲れて来たので、脚を動かしながらも、気休め程度に周りの様子を確認してみると、
「はっ!! よいしょッよいしょッよいしょッよいしょッよいしょッよいしょッ!!!!!!」
物凄い脚の動きをしている細身な男を一人、少し遠くに確認した。
なんだ彼奴……脚の動き、どうなってるんだ?? 俺が一回の足踏みを終える時には、十回ぐらい足踏みしているんだが……。
俺が注目する限り、男の脚を動かす速度に変化はみられない。
……脚の動きと体力、半端ないな。
次に足踏みしながら視点を変えると、隣でユックリ脚を動かすアスモリの姿が、視界に止まる。
「おい……ちゃんと働かないと、お仕置きを喰らうぞ?」
「あぁ……分かってる」
アスモリは会話を終えると、脚を動かす速度を少しばかり早めた。
と、
「おい、朝ごはんの時間だ!! 仕事は一旦中止だっ!!」
現場を仕切る強面看守の大きな呼び声が、地下の薄暗い部屋全体に木霊する。
思えば、朝ごはんを未だ食べてなかったな……。
色々な事がありすぎて、朝ごはんの存在なんてスッカリと忘れていたのだが、
「……なんか急激に腹が減ってきたな」
朝ごはんの存在を思い出すに連れ、不思議と腹ペコになっていく。
……そういや、イリビィート。今頃どうなってるんだろう?? 大丈夫かなぁ??
そんな心配を心中で抱いていると、
「おい、ごはんを貰ってこようぜ」
隣からアスモリの声が聞こえたので、
「おう」
軽く返事を返すと、アスモリはニッコリ笑みを浮かべて、
「んじゃ、行こうぜ」
どうやら朝ご飯は、自分たちで貰いに行かなければ、得られないらしい。
なので俺は、朝ごはんを配る強面看守の所へ向かうことにする。




