1章 第3話
セリカを隣にして、俺は通りすがりのおじさんに尋ねる。
特に質問をする人を選ばないで、所狭しに聞いていくことにした。
「すみませーん、あの少しいいですか? ギルドを探しているんですが……」
「ギルド? あー、それならあそこに見えるでっかい教会の右隣にあるぞ」
そう言っておじさんは、少し向こうに見える大きな十字架を指差した。
十字架が何処から生えているのか、その場から目線だけで辿ってみると、紫色の三角屋根の天辺が見える。
「そうなんですね! ありがとうございました!!」
俺はそう言うと、セリカと一緒に頭を下げるお礼のポーズをして、その後に多少急ぎ足で教会の近くへと急いだ。
移動している時だった。
セリカが真剣な眼差しで俺に向かってポツリと呟く。
「ねぇ、カナヤ……さっきのおじさん、私の事をすっごいエロい目で見てなかった?」
「いや、自意識過剰か!? てか、教えてもらった人に対して、お前スゲェ失礼なことを言うなぁ!! っと、……あそこか」
信じてもらえなかったセリカがギャーギャーと文句を言っているが、それを無視し、大きな三角屋根が特徴的なギルドの建物内へと入る。
ーーギルド
よく分からないが村長の説明では、報奨金の一部を上納する代わりに仕事を斡旋してもらったり、何かあったときに情報を提供してくれるという組織らしい。
内装は薄暗く広々とし、高い木製天井には淡く火の灯る大きなシャンデリアが吊り下げられ、葉巻の煙や食べ物の匂いが漂っていた。
と、
「はーい、こんにちはー。みるからに冒険者って感じですけれど、胸にピンバッチをつけておられないってことはギルド連盟に所属していないのですねぇ?」
長髪青毛のえっちぃ身体つきをしたお姉さんが、愛想よく出迎えた。
ていうか、ギルド連盟ってなんだ?
そんな事を疑問に思った俺は目の前のお姉さんに聞く。
「すみません……ギルド連盟ってなんなのでしょうか?」
「あ、知らないんですね! それではお教えしましょう!!」
そう言って、お姉さんは両手を大きく広げた。
右手の先には、そこらかしこに並べたられたテーブルや椅子の上に座り、食事をする鎧を着た人や、とんがり帽子をかぶった連中がたむろをしている。
「あそこ右側に見えるのは、ギルド連盟に所属している冒険者さん達です! よーく、胸のあたりを見てみてください……ほら、ピンバッチを付けているのが分かるでしょう?」
そう言われ、目を凝らしてみると確かに皆んな胸にバッチを付けていた。
だが、赤・青・緑・黄などとバッチの色が其々違う。
しかし、そんな疑問もお姉さんの次の説明で消失した。
「ついでに説明しますけど、バッチの色は冒険者の職業で異なります。【赤】だと剣士。【青】だと僧侶。【緑】だと盾使い。【黄】だと弓使いですねぇ。ほんのごく稀に【銀】と【金】のバッチを持つ者もいるんですよー」
「それじゃあ、バッチを付けていない今の私は無職ってこと!? ……信じられない、 まるでニートじゃない!!」
セリカは、お姉さんに向かって吠えるが軽く頷かれるだけで終わった。
だから代わりに俺が、心の中で言ってやる。……お前はニートだ。
って、……ん?
というかさっきの説明だと、職業はランダムで、自分では選ぶことができないのか??
俺は、そんな疑問を心中で抱いたが……次の説明が開始した。
「ギルド連盟には、あそこのカウンターで登録できまーす。ギルド連盟に所属していると、なんと驚き! クエストっていう仕事をやっても良い許可が出るんですよー」
左手の先には、受付職員が五人居るカウンターが見えた。
あそこでギルド連盟とやらに登録が出来るらしい。
それと今知ったが、連盟に登録しなければクエストを受注することができないのか……。
そんな事を考えていたら、俺とセリカは背中を押され、お姉さんにカウンターの前まで連れて行かれた。
と、
受付担当の赤毛ショートカットで巨乳のお姉さんと目が合う。
「今日は、どうされましたかぁ?」
受付のお姉さんは、巨乳のうえに声もとても綺麗な美人だ。
「あ、えっと、ギルド連盟に登録をしたいんですけど……」
「そうですか。では、登録手数料が掛かりますけど宜しいでしょうか?」
え、マジで? お金取るの??
「あの、チョッとばかしのお時間を下さい」
そう言った隙に、俺はすぐさまポケットの中にある小銭を数え始めた。
そんな様子に苛立ちを感じたのか、さっきまで愛想よく説明をしてくれていたお姉さんが舌打ちをしだす。
「あの、すいませーん……登録手数料っていくらなんですか?」
「おひとり百ゼニーになります……」
受付のお姉さんにそう訊くと、再びお金を数える。
そして、
なんとかふたり分の登録手数料があることに安堵の一息を吐いた。
ところで『ゼニー』とは、世界共通通貨単位のことである。
俺がふたり分の登録手数料を受付のお姉さんに渡すと、説明が始まった。
「では、登録にあたっての簡単な説明を。……初めに、ギルド連盟とは世界各国至る所に存在します。この先にある職業選択後、お渡しするバッチを付けていればどこのギルド施設でもクエストを受注することができ、クリアすると報酬が貰える仕組みになっております。簡単にいうと、何でも屋みたいなものですね。それでは早速、職業選択に移ります……。すみませんが、どちらでも良いので手の平を出してくれませんか?」
困惑しながらもとりあえず指示通りに、俺とセリカが手の平を差し出すと、真ん中に白いピンバッチが置かれた。
「それでは、そのピンバッチを数秒強く握りしめて下さい……その後にユックリと手を開きます」
再び、受付のお姉さんの指示に従い行動をする。
握りしめた後に手を開くと、なんとピンバッチの色が変わっていた。
俺は青色だから、職業は【僧侶】か……。
イメージ的には、魔法とかを駆使して戦う職業だな。 てか、職業ってランダム式だったのかよ……。
ところで、セリカは……って、銀色!?
受付のお姉さんがセリカのバッチの色を確認して騒ぎ始めた。
「え、銀色ですね!? 珍しい!!」
そんな反応を見て、セリカが期待の気持ちと共に、はしゃぎ始める。
「え、あ、なになに、私なんか凄いの!? 生まれた時から分かりきっていたことだけれど、私ってやっぱり凄かったの!?」
「いや、銀色なんて私三十年間この仕事を続けていますけど、今日初めてお目にかかりました!!」
そんなに凄いのかよ、なんか少し悔しい……いや、調子に乗っている姿が憎たらしい。
てか、『受付のお姉さん』じゃなくて、『受付のおばさん』だったのかよ……人って見た目だけじゃ判断できないんだな。
「んで、んで、銀色の職業ってなんなの!? 勇者とか!?」
セリカがにこやかな笑顔で受付のおばさんにそう訊くと、思い掛けない言葉が飛んで来た。
「え、あ……喜んでいるところ大変言い難いんですけれど、銀色は【遊び人】という最弱職なんですよ……」
「え……嘘でしょ?」
一気に、セリカの顔から笑顔が消えた。
この瞬間、俺は心の奥深くで「ざまぁ、セリカ」と盛大に大喜びした。
まあ、何にせよ。
これでようやくクエストを受注できるようになったので、泣き喚くセリカを引きずりながらクエストが張り出されている掲示板へと行こうとした時だった……受付のおばさんが俺たちに向かって一言。
「伝え忘れましたけど、実践を多く積むと稀に素質が変化し、職業を変えることが出来る事ができますからー!」
そう伝え終わると、おばさんはにこやかな笑みを浮かべた。
それを耳にしたセリカは、元気を取り戻しクエストボードの元へと、素早く駆け出して行った。
「カナヤ、どのクエストを受注するかすぐに決めるわよー!!」
セリカは大声で、俺のことを一生懸命に呼ぶ。
……ちくしょう、受付のおばさんめ。
貴方が余計なことを言った所為で、セリカがなんかヤバそうなクエスト内容の記された紙を片手に持っているじゃねぇかよ……。
今のセリカ一人だと無茶なクエストしか選ばなさそうなので、俺も急いで掲示板の元へと駆け出し、二人でよく相談して選ぶことにした。