3章 第5話
囚人たちの列が少しずつ乱れていく中……俺はアスモリの姿を探し見つけると、イリビィートを隣に近寄り、
「なぁ、アスモリ……。仕事って具体的に、どんな事をするんだ?」
背後からそっと肩を叩き、問い掛けた。
すると、アスモリは驚き小さな叫びを上げて、
「うっ!? お、お前か……」
挙動不審に此方へ顔を向けて立ち止まった。
「どうしたんだよ? そんなに驚いて……??」
すぐに質問を投げかけると、アスモリは軽く笑みを浮かべ、
「俺の手の中を見てみろよ……」
「え? 手の中??」
俺は疑問を抱きながらも……手錠で固定されてた、アスモリ両手の握りこぶしへと目線先を変える。
瞬間に手の中に、輝く小さな物を見つけ、
「お、お前……アスモリ……。そ、それって……もしかして……!?」
「あぁ……コレは、手錠を開ける為の鍵だ……」
理由は分からぬが、アスモリは手錠の鍵を一つ……手の中に隠し持っていた。
「なぁ……その鍵って、お前の手錠専用の鍵とかなのか??」
俺が目を丸くして首を斜めに曲げると、アスモリはニヤリと不敵な笑みを顔につくり、
「実は此処……監獄島の手錠は、全て同じ型の鍵で開ける事が出来るんだ……。毎年多くの囚人たちが入れ替わりで変化するから、鍵の見分けが大変で統一しているんだろう……」
「つまりソレって……」
「あぁ、言い方を変えれば……全囚人の手元を自由にすることが出来る鍵だ」
アスモリとコソコソ小話をしていると、俺の隣で棒立ちしていたイリビィートが不機嫌そうに、
「ねぇ……さっきから、あたしを省いて何を楽しそうに、話しているのかしらね……?」
瞬間、俺の背筋に寒気が走り抜ける。
「べ、別に……イリビィート、お前を省いているつもりは無いぞ」
それだけ伝えると、意外にもイリビィートはコクンと頷き、
「なら別に良いわ……」
軽く許してくれた。
それよりも、
「なぁ、アスモリ……! その鍵って、どうやって手に入れたんだ……?!」
周りに怪しまれないように、小声ながらも……声を張り上げ、身を乗り出して、質問をすると、
「約二ヶ月前、地下室で仕事をしていた時だ……!!」
アスモリは後退りしながら、小声でそう教えてくれた。
「そうか……。地面に落ちていたのを拾ったのか??」
俺は口を休めることなく、再び質問を切り出すと、
「いいや……」
アスモリは首を横へ揺らし、俺の言葉を否定した。
「え……? じゃあ、どうやって……??」
俺が熟考していると、思い掛けない発言が目前から飛んでくる。
「仕事監視の看守が昼寝している時に、腰から下がっていたのを盗んだ」
「え……? 盗んだ……??」
「まぁ……一応、俺って盗賊みたいな犯罪を犯して捕まったわけだし……。まぁ、そう褒めるな」
いや、一度でも褒めるような言葉を発していないのだが……。
まぁ……勇気ある行動は、褒める価値があるかもな……。
俺が呆然としながら、アスモリへ軽く微えんでいると突然、
「おい、お前ら三人!! 誰が其処で突っ立って居ろと指示したんだっ!! 皆はもう仕事に取り掛かっているぞっ!!!!」
看守の怒り狂った声が耳奥に響く。
「え……?」
周辺を見渡してみる。
さっきまで列になっていた囚人たちの姿は、もう何処にも見当たらない。
あぁ……もしかしたら……。
俺がソワソワ気持ちを不安定にさせる中、
「お前ら、怠けた罰として……お仕置きだっ!!」
怒る看守の口から、『お仕置き』という一言が発せられる。
あぁ……『もしかしたらお仕置きだな』という予想が、的中してしまった。




