3章 第4話
「――おい朝だぞ!! まだ寝ている奴は、直ちに目を覚ませっ!! 目を覚まさなければ、キツイお仕置きが待っているぞっ!!」
「な、なんだ……お、お仕置き……??」
朝っぱらから騒がしく鳴り響く、軍服を纏った看守数人のうるさい呼び声に、俺は頭や瞳を混乱させながらも身体を起こす。
と、
「おい、目が覚めたか?」
右壁の向こうから、アスモリの小声が聞こえてきた。
俺はすぐさま右壁に近づき、
「あぁ、起きてるぞ……」
俺はシッカリ眠りから覚めている。
しかし、背後を振り返ると……未だに目を覚ましていない、イリビィートが横になっている姿を確認できる。
硬く冷たい石畳床の上で、何故こんなにも気持ち良さそうに寝ることが出来るのだろう?
イリビィートの心地好さそうな寝顔を視界に映し、尊敬の意を少しばかり抱いてしまった。
そんな感情を抱きながらも、俺はイリビィートを夢の世界から連れ戻すことを決意する。
眠りの邪魔をするのは申し訳ないが、起こしてあげなければ、看守たちにイリビィートがお仕置きを受けてしまうからだ。
溜息を吐きながら足を動かし、イリビィートの真横へ移動すると、心地好さそうな寝顔へ顔を近づけ、
「おいっ! 起きろっ!!」
俺は綺麗な形をした色白な耳元で、ほんの少し喉に力を入れて声を発した。
すると、
「うひゃ!? どうしたのかしらっ!?!?」
眼前の閉じていた瞳がパッチリと開き、鼓膜に唐突な驚き声が大きく響く。
……そ、そんなに驚くことなのか??
俺は両手で耳穴を塞ぎながら、後退りすると、
「やっと目が覚めたか……」
呆れた表情で言ってやった。
対してイリビィートは、
「何かしら、急に??」
ゆで卵の様に白く汚れのない眉間に皺を寄せて、此方をキッと睨んでいる。
目覚め悪く起こされたことに、怒っているのだろう。
……こんな事ならば、起こさなければ良かった。
後悔の念に心が支配され、イリビィートへ睨みを返した瞬間だった。
「お前ら二人……何をそんなに睨み合っている。早く牢から出て、仕事をしろっ!」
鉄格子で作られた入口の鍵が開き、牢外側の怒る軍服看守から、突然そう命令された。
逆らえば、お仕置き……。
瞬間にそんな言葉が頭に過ぎった俺は、寝起き悪いイリビィートの右腕を無理矢理に引っ張り、牢の外へと急いで駆け出る。
その後、背筋をピシリと直線に伸ばし、
「遅れてしまい、申し訳ありませんッ!!!!」
ハッキリとした口調で、眼前の看守へと謝罪した。
だが、俺の行動とは真逆にイリビィートは……
「朝から、大声とは……下品ね」
まだ寝ぼけているのだろうか……看守に向かって言ってはならない言葉を口にした。
そんな愚痴言葉を発したイリビィートへ、看守は両目を見開き睨み付け、
「おい? なんだ、今のは反論か??」
「いいえ……そんな事ないわ」
イリビィートは堂々とタメ口を使い、一言で言葉を返す。
すると、看守は溜息を吐き、
「そうか……ならば良い。それよりも早く両腕を前へ出せ」
看守は黙り込み俺たちの腕を鉄手錠で固定すると……背中を向け、眼中から立ち去った。
俺が一安心していると、
「あの看守を口で負かすとは、凄いな!」
右側から、野太い声が褒めてきた。
この声は、
「アスモリ!!」
俺は興奮しながら、右側へ顔を向ける。
「声だけ聞いて、俺がアスモリだってよく分かったな!」
「お、おう……」
……なんか想像していた人物像と、違う!!
俺の目線先には、ゴリゴリマッチョで高身長な……黒眼、黒髪モヒカンの男が手錠を付け、笑顔を浮かべ立っていた。
王宮に入り込んだと語っていたから……盗賊に多くみられる、身軽な細身体型だと思っていたのだが……。
「ア、アスモリ……お前って、そんなに体格が良かったのか……」
「おう、褒めてくれてありがとな!」
別に褒めた気はないのだが……。
そんな他愛のない会話を二人で繰り広げていると、
「……あたしを仲間外れにして、何を話しているのかしら?」
背後から、少しばかり冷気を纏うイリビィートの声が聞こえてきた。
寝起きが悪く、まだ苛立っているのだろうか?
俺は恐る恐る後方へ目先を移す。
「何故そんなにビクビクした様子で、あたしを見るのかしら?」
イリビィートと目が合った瞬間に、予想外な質問を問い掛けられた。
「べ、別にビクビクなんてしてないぞっ!!」
「そう……。なら良いわ」
なんだ此奴……。看守よりもタチが悪い。
俺が内心、イリビィートへ嫌悪感を抱いていたら、
「おい、囚人たち!! 仕事の時間だ!!」
大きく叫ぶ看守の声が聞こえた。
辺りに見える囚人たち、そしてアスモリも……「はい!!」っと大きな返事を返して、看守の眼前に横一列で整列した。
やべ……俺とイリビィート以外の皆んな、整列してる……。
俺はイリビィートの腕を引っ張り、駆け足で最右端へ並ぶ。
すると……俺の行動を目にしていた看守が声を張り上げて、
「おい、確かお前は新人だったな! 今回は見逃してやるが、次の整列で遅れたら容赦はないと思え!!」
「はい!」
俺はピシリと姿勢を正し、大きく返事した。
対して、俺の隣に立つイリビィートは、
「はぁ……なんでこんな朝早くから、こんな事をしないといけないのかしら」
姿勢を正しながらも、溜息を吐きグチグチ文句を呟いている。
幸い、愚痴文句は看守の耳には届いていないようだ。
すぐさま俺はイリビィートの耳元で、
「おい、口を閉じろ。看守に聞こえたらどうする……!!」
「……耳元で騒がないでちょうだい」
この野郎……。俺が心配してやっているというのに……。
と、
「これから、お前たちには地下へ行って、いつも通り仕事をしてもらう!!」
看守が再び口を開いて叫ぶと、囚人たちは「はい!!」と返答した。
俺も辺りを見習い大声で返事を返すと、看守が一人先に歩き出し、
「俺に付いて来い……」
囚人たちは列を多少崩しながらも、指示通りに看守の背後を付いて歩く。




