3章 第3話
――監獄島に監禁されて、初めて迎えた夜。
看守などの見回りは無く、辺りは静寂と微かな灯りで包まれ……イリビィートが硬い床上で寝静まる中、俺は石壁に背を凭れさせて頭を悩ませていた。
「はぁ……脱獄の計画を立てるとしても、建物内構造を知らないしなぁ……」
俺が小声でブツブツと呟いていると、
「おい、今ブツブツ喋っている奴……脱獄をしようとしているのか?」
「え?」
右隣牢獄の方から、野太い声が微かに響いてきた。
俺は唐突な呼びかけに若干困惑しながらも、声した方へ身体を移動させ近づき、
「なぁ、もしかして今俺に話しかけて来たのか?」
壁越しに問い掛けてみると、
「あぁ、話しかけたぞ……」
再び野太い小声が聞こえた。
続けて野太い小声は、
「なぁ……実は俺も脱獄しようとしているんだ。協力してくれないか??」
「協力?」
野太い声からして男であろう者が協力を求めてきたので、頭を悩ませていると、
「お願いだ……! 確かお前は今日入獄した新人だろっ!! 俺は此処に居座ってもう三年になる……。建物内の構造はなんとなくだが、頭に刻まれている。必ず役に立つと思うのだが……」
もう一押しといった感じの熱量がこもった声が、俺の鼓膜に伝わる。
建物内の地図を記憶していることは確かに役に立つ……のだが、イリビィートは協力を許してくれるだろうか??
まぁ、仲間が増えることは悪いことではないだろう。
「俺からも協力を申し込む……」
小声でそんな言葉を返すと、
「感謝する!」
喜びで溢れた小声が耳に伝わった。
瞬間に、
「そういえば、まだ自己紹介をまだしていなかったな」
「そういえば、そうだな」
ポツリ一言で同意すると、
「俺の名は、『アスモリ』だ」
自己紹介されたので、同様に「俺の名前はカナヤだ」っと、名乗る。
その後にアスモリは小声で、
「なぁ、何故お前は此処で囚われる羽目になったんだ?」
「捕まった理由か……」
逮捕理由をどう説明するか、脳内で内容を速攻に纏め、
「捕まった理由は、村の納税を全て独り占めしたとかいう罪だ……。実際はそんなこと、行なっていないんだがな」
俺がユックリ口を動かし終えると、アスモリは声を笑わせながら、
「ハハハハッ……誤解で逮捕されてしまったのか」
「まぁ、そういうことだ。そんなお前はどういう訳で捕まったんだ?」
次に俺が質問すると、壁の向こう側に居るアスモリは冗談を話すかのような軽い口調で、
「俺は出身自国の王家に伝わる、伝説の秘宝を盗もうと、王宮に忍び込んで失敗した結果、こうなっている訳だ」
「そうなのか。王宮に忍び込む勇気が凄いな」
「まぁ、そう褒めるな」
……別に褒めている訳では無いのだが。
内心そんなことを感じていると、
「まぁ、今夜はもう寝た方が良いぜ。お前は知らないと思うが、毎朝此処では肉体労働が待っているからな」
「え? 肉体労働……??」
「まぁ、詳しいことは明日になったら分かるさ。んじゃ、俺はもう寝るな」
アスモリの歩く足音が徐々に小さくなって、遂には消える。
明日は早いってことだし、寝るとするか……。
俺は横になるイリビィートの近くへ移動すると、地へ背を付けて瞳を静かに閉じた。




