3章 第2話
――多くの囚人たちが監禁されている空間へ脚を踏み入れて、しばらく軍服男に腕を引っ張り歩かされていると、
「着いたぞ……」
軍服男が俺の腕袖から手を離し、歩くのを中断してポツリと言った。
俺は立ち止まり、眼前に存在する鉄格子がはめられた部屋へと視線を移す。
「え……? あの、此処が俺の部屋なんですか??」
「そうだ」
……マジかよ。
鉄格子がはめられた牢の中には、粗末なトイレと、小汚い服を纏って背中を向ける一人の白髪長髪な囚人が確認できる。
……得体の知れない犯罪者と、共同部屋とか勘弁してくれよ。
牢の前で表情を引きつらせていると、軍服男が俺の背中をポンっと一発軽く叩いてきて、
「共同部屋は、トイレは仲良く使えよ……」
それだけ言われると、鍵が開かれた牢へ投げ入れられた。
俺が牢へ入場すると同時に、カシャンッと錠がかけられる音が響く。
すぐさま俺は牢の格子を両手で握り、
「あの、少しでも良いから俺の話を聞いてくれっ!!」
「すまないが、仕事が溜まっているのでね……暇がないんだ」
無罪だと訴えかけようとしたが、軍服男は俺の言葉を聞き流して、何処かへと姿を消してしまう……。
俺が絶望を感じて俯いていると、
「あらあら……大声とは下品な人ね」
背後から、美しく透き通った声が語りかけてきた。
ん? この声、聴き覚えがある……!?
俺は急いで、声がした後方へ顔を向ける。
……其処に居たのは、
「い、イリビィートっ!?」
思いがけない存在に、目を見開き驚いていたら、
「此処に送った張本人が、そんなに驚くとはとても失礼ね……」
ポツリと皮肉を込められた言葉を浴びせられた。
瞬間に俺は、すまん、と頭を軽く下げて謝罪をする。
その後……瞳を挙動不審に動かしながらも、
「こ、これからよろしくな……」
一応、挨拶をしてみる。
すると、
「此方こそ、よろしく頼むわ」
薄っすら笑みを浮かべ、シッカリと挨拶を返してくれた。
一連の行動から、俺への敵意は感じないが……同じ部屋で一緒に過ごすとなると、いつか襲われたりして殺されそうだな……。
そんなことを考えて、不安な気持ちになった俺は、一つの質問を問い掛けてみようと決心する。
「あ、あのさ……急に巨大な狐の姿になったりして、俺のことを殺しちゃったりしないよな……??」
「そんなことしないわよ……」
即答だった。
安心して、安堵の一息をついていると、
「火傷した身体部分の再生に魔力を結構使ってしまったから、変身したくても出来ないのよ……」
再びイリビィートの口から、溜息と共に皮肉言葉が漏れる。
なんか、すんごい申し訳ないんだけれど……。
「す、すまん……」
不本意ながらも本日二度目の謝罪をすると、イリビィートが途端にニコッと薄笑みを浮かべ、
「どうしようかしら……?」
何か企んだ表情で、ジッと此方を見つめてきている。
なんだろう……なんかヤバイ頼み事をされそうな雰囲気なんだけれど……。
危険な空気を肌身で感じていると、イリビィートは小声で唇をユックリ動かし、
「だつごく……脱獄のお手伝いをしてくれるのなら許してあげないこともないわよ?」
「だ、脱獄のお手伝い……?」
聞き返すように呟くと、イリビィートが小さな声で、
「そう……脱獄よ……」
脱獄かぁ……。
――脱獄計画はもう決まっていたりするのだろうか??
そんな疑問が脳裏に過ぎた俺は、
「なぁ、どうやって脱獄しようとしているんだ??」
声に発して聞いてみると……イリビィートはフッと笑みを浮かべ、懐から隠し持っていた銀色の金属スプーンを取り出し、
「コレで、穴を掘って――……」
「本気で言ってるのかっ!?」
スプーン一本で脱獄しようとしているイリビィートへ、俺は思わずツッコミを入れてしまった。
少しばかり期待していた気持ちを返して欲しい……。
まぁ、
「脱獄には協力するぜ」
俺が一言告げると、イリビィートはニヤリと口を曲げて、
「良い答えね……」
その後……俺はイリビィートと右手右手で、ガッシリと握手を交わした。
よし、絶対に脱獄してやる……っと、その前に計画を立てないとな。




