2章 第7話
「な、何故お前がいるんだ!?」
俺が問い掛けると、幽霊少女はニッコリと笑みを浮かべて、
「実はズッと透明化して、貴方たちの背後を付いて来てたんですよ! 宿屋を外出する所から、怪物を倒しちゃう場面まで、シッカリと見てました!!」
なんだかストーカーっぽくて怖いな。
少女に不信感を抱いていると……少し遠くから、
「あぁ……私のスコップは、何処へ行ってしまったんだ……?」
冷たい風に運ばれ、掠れた小さな声が聞こえてきた。
誰かこのスコップを探しているのか? だとしたら、なんか悪い事をしたな……。
多少の罪悪感を感じながら、俺はスコップ本来の持ち主であろう人を探す。
そして、遠くに人影を発見した。
多分、あの人がスコップの持ち主だろうな。
「あの、すみませーん!」
俺は、大声で人影へ呼び掛ける。
すると、幽霊少女が唐突に焦った様子で、
「ダメ! あの人に話し掛けたら……」
「どうしたんだよ?」
すぐさま幽霊少女へ質問すると、ペリシアが急に会話に割り入ってきて、
「ねぇ……あの人って、宿女将じゃない?」
「宿女将? 本当か??」
ペリシアの言葉を疑いながら、人影へと目を凝らしてみる。
「ほ、本当だっ!!」
ペリシアの言う通り、人影は宿女将だった。しかし、様子が少しおかしい気がする。
狂ったように唸り、白目を向いて此方へと近付いてきている。
俺が宿女将の様子を見ながら首を傾げていると、幽霊少女が呟くように、
「逃げて下さい……。この町から出て行って下さい……」
「え? 急にどうした??」
「早く町から出て行って下さいっ!!」
疑問を浮かべながら問うと、幽霊少女に命令口調で叫ばれた。
「いや、急にそう言われても意味が分からねぇよっ!?」
「そうですよ、どうしたんですか急に??」
俺とアネータさんが順々に問い掛けると……少女は観念したのか、理由説明を始める。
「じ、実は……お婆ちゃんは、悪霊に取り憑かれているんです。夜が深くなるほど、悪霊の力は強くなってお婆ちゃんの身体を乗っ取ってしまうんです。取り憑いている悪霊はとても危険なんです!! 宿に宿泊した冒険者を何人も殺している所を私は何回も見ました!! だから……だから、逃げて下さいっ!!」
え? そうなのっ!? んじゃ、言葉に従って、町から逃げ――……
俺が逃げようと、走りの態勢を整えた瞬間だった。
アネータさんが、堂々とした口調で、
「約束したじゃないですか、お婆ちゃんを助けるって……」
ちょ、アネータさん!? 何を仰っておられるのですかっ?
アネータさんに続いてペリシアも堂々とした口調で、
「約束した事はちゃんと守らないとねっ!!」
二人が堂々と言い切ると、皆の目線が俺へと向いてきた。
……え? このカッコ良いこと言わなきゃいけない雰囲気は何なの??
くそっ……こうなったら言うしかないよなっ!!
「おい、幽霊少女っ!! お前、婆ちゃんを助けてくれると期待していたから、頼んで来たんだろうっ!? だから期待に応えるよ……その頼みごと、シッカリ俺たちが叶えてやるよっ!!!!」
ヤケになりながら、目上を浮遊する少女を指差しながら言い切ると、
「……ぅ、ゔぅ……ゔぅ、ぅ……す、すみません……死んでいるのに泣いてしまって……」
幽霊少女が突如、啜り泣いてしまう。
と、
「お前か……お前が、私のスコップを……」
真後ろで掠れた冷たい声が響いた。
な、いつの間に背後にっ!!??
恐る恐る振り向くと……眼前には取り憑かれた宿女将が、白目でブツブツ呟く姿があった。
俺は、急いで幽霊少女へ言う。
「なぁ! 婆ちゃんを助けるには、どうすれば良いんだっ?」
「あ、はいっ! 憑依している幽霊を、お婆ちゃんの身体から追い払えば良いんです!」
「そうなのか! っで、追い払うにはどうすれば良いんだ!?」
「あ、えーとですね、塩を大量にかければ良いですっ!!」
「そうかっ!!」
俺は幽霊少女と会話を終えると、ペリシアに一つの頼みごとをする。
「なぁ、ペリシア! 宿屋からでも何処でも良い!! とにかく大量に塩を持ってきてくれっ!!」
「了解!!」
こうしてペリシアはセリカを背負いながら、墓場を駆けて宿屋が建つ場所へと向かって行った。
次に俺はアネータさんへと、
「あの、すみません! ペリシアが戻って来るまで、一緒にお婆ちゃんの挙動を抑えててもらえますか??」
「はい、良いですよ!!」
と、俺たちのやり取りを目にしていた幽霊少女が、声を張って警告する。
「あの、気を付けて下さいっ! 二時になるまでに除霊か、お婆ちゃんの死角に逃げないと、絶対に魂持っていかれちゃいますからっ!!」
なにそれ超怖いっ!?




