2章 第5話
「お前、宿女将の孫だったのかっ!?」
「はいっ! そうですよっ!!」
幽霊少女は俺の目をしっかりと見つめ、元気良く笑顔で答えた。
ほう……あの優しいお婆さんを助ければ良いのか。しかし、具台的にどう救えば良いのだろうか??
そこで俺は、幽霊少女に問い掛けてみる。
「ところでだが、お婆ちゃんを助けるとしても、何から救えば良いか分からなければ、行動に移す事が出来ないんだが……」
「えっとですね……お化けから助けて欲しいのです!」
「えっ??」
幽霊がお化けから助けて欲しいと願ってくるとは、考えてもいなかった。というか、そのお化けは絶対に悪霊だろうな……。
俺は約束を誓った身だから、悪霊をなんとかしなければ……。
…………。
そういや、俺の口からは約束を誓っていなかったな。
よし、此処は『俺は手助けなんかしない』と断っておこう。
俺が幽霊少女へ喋り掛けようとしたら、
「それでは、今夜……午前二時に町の真ん中に有る大きな噴水の前で、また会いましょう」
「え、ちょっ……話があるんだけど……」
幽霊少女は俺たちに告げると、半透明の身体を景色に溶け込ませる様に消してしまった。
必要のない時に現れる癖に、大事な場面ではどうして姿を消してしまうのだろう……。
半ば絶望しながらも、俺は少女が告げた時刻まで残りどのくらい時間が余っているのかを、部屋に備え付けの壁時計で確認してみる。
「えっと……待ち合わせまで、あと六時間もあるのか……」
時計の針は丁度、午後八時を指していた。
と、
俺に続いて時計を確認し終えたセリカが、明るい笑みを浮かべ、
「ねぇ、時間まで結構な暇があるから町観光でも行きましょうよっ!!」
セリカの威勢良き声を聞いたアネータさんはニッコリと、
「良い提案ですねっ!!」
続いてペリシアも笑みを浮かべて、
「うんうんっ!! とても良い考えだと思うっ!!」
いや、みんな頭おかしいだろ!?
俺は皆とは反対に不機嫌な表情で、
「宿に入る前に、町内で起きた出来事を思い返してみろよっ!?」
そう言うと……皆は俺一点に視線を集中させ、「え??」っと首を傾げた。
……この人たち、ヤバイ。
更なる絶望を感じていたら、セリカが突然俺の右腕に掴み掛かり、
「ねぇ、早く行きましょっ!!」
「え!? 本当に行くのっ!?!?」
こうして俺は腕を引っ張られ、宿建物内から町外へと連行された。
「――おい、とりあえず手を離せっ!」
俺はガッチリと握るセリカの手を振りほどき、続け口を動かす。
「なんで、俺まで連れて来られなきゃいけないんだっ!?」
町の様子は先程と比べ、薄暗さを増すと共に奇妙感も増している。
そんな町景色の中、セリカは当たり前といった顔で、
「せっかく観光に来たんだし、皆んなで楽しまなきゃ損でしょう?」
……正論だが、なんか腹立つ発言だな。
俺がセリカへ多少の苛立ちを感じていると、楽しそうに微笑むアネータさんが皆に向けて、
「あの、とりあえず何処に行きますか?」
う、うーん……まぁ、観光目的で来たわけだし、楽しむとするか。
だが、何処に行くかと問われても……町の名所が分からなきゃどう答えれば良い困るな。
と、ペリシアが元気良く大声で、
「ねぇねぇっ! 幽霊が言っていた『町の真ん中にある噴水』が気になるっ!!」
確かに気になる……。それに、噴水の場所を把握していなければ待ち合わせも出来ないから、
「それじゃあ、待ち合わせ場所の下調べ程度に……噴水まで行ってみるか??」
「うんっ!!」
俺の言葉にペリシアが反応すると、噴水場所を目指すことにした。
のだが……、
「ねぇ、噴水って何処にあるの??」
皆が噴水の在処を探し始めた時、セリカがポツリと言う。
俺は項垂れるセリカへ眉を八の字にして、
「そんなこと言っている暇があるなら探せよ……」
「なによ、その言い方っ!」
「え、ごめん……」
急にセリカが涙目で怒ってきたから、俺は軽くだが直ぐさま謝罪した。泣かれるのは、困るからな。
と、視界端のペリシアが叫び声を上げるように、
「ねぇ、アレ何者っ!?」
「なんだ? 幽霊でも見たのか??」
冗談まじりで揶揄うと、ペリシアは真剣な声質で、
「分からない……でもアレが普通な者では無いのは確か……だと思う」
「いや、普通じゃないって――……」
半信半疑でペリシアの目線先と同場所へ、視線を向けると、
「うおっ!? 何アレ、キモっ!?」
思わず、後ずさりをしてしまう。
全長三メートルは有るだろう、紫色の腐肉片が一つの塊になった、血が滴るゾンビの様な怪物が其処に居た。
目を凝らす……一個体に『手が九本』・『頭が三つ』・『脚が五つ』、大小バラバラなモノが至る所から生えているのを確認出来る。
幸いな事に、俺たちの存在には気づいていないようだ。
「アレも、幽霊なのか……??」
「わ、分からない……」
圧倒されながらも、俺とペリシアは会話を続ける。
「そういや、前にもこんな事あったよな……?」
「うん……。前はセリカが叫んじゃった所為で、幽霊にアタシたちの存在を気付かれたっけ?」
「うん……」
――ってぇ、アレの存在をセリカが知ってしまったらっ!!
俺は全力で、セリカの視界を両手で塞ごうとするが…………もう遅かったらしい。
「んっぎゃャァァアアアアアアーーッ!?!? でっかいゾンビぃィイイイイーーっッ!!??」
ゾンビの様な怪物の存在に気付いたセリカは、物凄い形相で叫び声を上げると同時に、その場で白目をむいて倒れる。
瞬間に、紫色怪物に俺たちの存在が気付かれた。
く、くそ……今日でこの展開二回目だっ!!
俺は気絶しているセリカを背負うと、皆と共に町道を駆け出す。




