2章 第4話
「――はぁ……色々と災難が続くなぁ」
俺は二階の部屋前まで到着すると、ドアノブを握りしめ、小汚い木製扉の鍵を開く。
その後……皆が部屋へと入りきった事を確認すると、室内の灯りをつけ、更に扉内側から鍵を閉めた。
「あら、なかなか広くて良い部屋じゃないのっ!!」
セリカの言う通り内装は広々としていて、三人ほど横になれる大きさのベッドや、部屋全体を照らすランプなどが備え付けられている。
「こんな素晴らしい部屋を無料で貸してくれるなんて、有難いですねっ!」
アネータさんはニッコリ笑みを浮かべると、目を閉じて心からお婆さんに感謝する様子をみせた。
俺も見習い再び感謝をしようとした時……急にランプの炎の灯りが消え、部屋全体が闇に包まれた。
「えっ?! 真っ暗でなにも見えないんですけどっ!?」
突然な暗闇の中でセリカが騒ぎだす。
こんな状況下で暴れられたら部屋の家具などを破壊しかねないので、俺はセリカへ落ち着く様にと言い掛ける。
「大丈夫だ! 直ぐに灯りが付くと思うから、一旦落ち着けっ!!」
根拠ない事だが、言葉を聞いたセリカは深呼吸をして我を取り戻す。
その後、前言通り……直ぐに灯りが付き、部屋に再び光が満ちた。
瞬間、
前方に立つペリシアが声を震わせ、俺の後方へと指を向け、
「ねぇ……背後に……」
「え?」
そんな事を言われた俺は、疑問を抱きながら振り返る。
うおっ!?
「な、なんでお前が此処にいるんだっ!?」
目に映ったのは、外で見かけた幽霊少女だった。
「「「「うわぁぁああああああーっ!?!?」」」」
俺たちが揃って叫び部屋から出ようとしたら、幽霊少女が大声で、
「あの、待ってくださいっ! 別に呪ったりなどしませんから、私から逃げないで下さいっ!!」
いや、そう言われても……。幽霊が現れて逃げない奴の方がおかしいだろう。
まぁ……俺たちを引き止めたのは、なんらかの理由があるからなのだろうが……。
此処は勇気を持って質問をしてみるか。
俺は立ち止まり幽霊と目を合わせると、
「な、なぁ……俺たちになんか用があるのか?」
恐れながらも問い掛けてみる。
すると幽霊少女はコクリと首を縦に頷き、紫色の唇をゆっくり動かして、
「…………助けて欲しいんです……」
「いやいやいやいや、幽霊を助けるって何!?」
あまりに馬鹿げた事を言われたあまり、ツッコミを入れてしまった。
と、
ツッコミを入れられた幽霊少女の顔が急にキリッと引き締まり、反抗的な口調で、
「私を助けて欲しいんじゃないんですっ! 私のお婆ちゃんを助けて欲しいんですっ!!」
いや……お婆ちゃんって、誰のことだよ。
そんな事を内心感じながら、何気無く周辺を見渡してみると……セリカたちが少女に対して恐怖の視線を、もう向けていない事に気付いた。むしろ好意的な視線を向けている気がする。
さっきまで怖がっていたのに、少女が悪い霊では無いと分かると一気に態度変化したな。
だが、幽霊少女が悪霊や善霊どちらにしても、
「俺は、お前を助ける気は無いぞ!」
俺はそう言い切ると、近くにあった椅子へと腰をかける。
すると……その行動を目にした幽霊少女が、
「あ、それは……座ったら三日以内に死ぬ呪いの椅子……」
「おい、ウソだロォォおおおうゥッッ!?!?」
俺は瞬時に叫びながら椅子から飛び立ち上がった。
そんな俺の姿に幽霊少女はクスリと笑いながら、
「いや、嘘ですよ」
『……もう絶対助けてやらねぇ』と、俺は心に固く誓う。
しかし直ぐにセリカが、俺の誓った思いを打ち破る発言をする。
「良いわよ! そのさっき言ってた頼み事を聞いてあげないこともないわ!!」
「ほ、本当ですか!?」
「本当よっ!!」
いや……一時的なテンションで、勝手にとんでもない約束をしないでくれよ。
セリカの所為で、幽霊少女を助けることになってしまったじゃないか。
だが、幽霊少女がさっき言っていた、お婆ちゃんを助けると思えば……まぁ、良いか。
取り敢えず、そのお婆ちゃんが誰なのか知らなければ何も出来ないな。
そこで俺は幽霊少女へと問う。
「なぁ、助けて欲しいお婆ちゃんってどこに居るんだ?」
俺の問い掛けに幽霊少女は、小さく笑みを浮かべ、
「この宿建物内に居ますよ!」
「え? 何?? さっきのお前みたく、当然俺の背後に現れたりしないよな……??」
遠回しで、幽霊であるか無いかを聞いてみると、少女は再び小さな笑みを浮かべ、
「お婆ちゃんは、幽霊とかじゃないですよ! 此処の宿女将です!!」




