2章 第2話
皆が揃い不穏な町の雰囲気を目に焼き尽くしている中、御者のお兄さんがおぼつかない口調で、
「あ……あの、この町に送るという使命を果たしたので……僕もう帰りますね……」
「え、ちょっ、まっ――……」
俺は慌てて口を動かすが、御者のお兄さんは言葉へ全く耳を貸さずに急ぎで馬車を操り、レクシムへ戻る準備を開始する。
レクシムから馬車を使用して此処まで来るのに約四時間も掛かっていたので、徒歩で戻るのは結構な体力消費をするだろう。瞬間にそんなことを思った俺は、
「え? ちょっと……俺たちを置いていかないで……」
虚しくも呟きが伝わる事はなく、御者はレクシムに続く道の中へと姿を眩ませ、完全に俺の視界から消えてしまった。
と、俺と同じ事を思い御者を見つめていたであろうセリカが、
「ちょっと、ねぇ!? なんで先に帰っちゃってるのっ!?」
届く筈もない文句を吐き散らす。
そんな混乱の中、不思議にもアネータさんは冷静だった。
「あの、アネータさん? 何故そんなにも冷静なんですか?」
現在の俺にはあまりにも不思議な光景だった為、興味本位で聞いてみると、
「え? 観光目的地へ着いたのですよ? 逆に何故そんなにも不安そうな表情なのですか??」
俺がおかしいのだろうか? 小さな笑みと共に言葉を返された。いや、俺は一切おかしくない……今度はペリシアへ質問してみよう。
「なぁ、ペリシア……。こんな幽霊が出そうな町前で冷静を保てる訳がないよな……?」
するとペリシアは、興奮のあまり頭がおかしくなってしまったのだろうか? 突然、満面の笑みを浮かべ、
「何言ってるの!? お爺様の大切な地図に記されていた町の前なのよっ!!?? 冷静を保てている筈がないじゃないっ!?」
うん。完全に質問をする相手を間違えたな……。だがアネータさん同様に、眼前の町で観光を楽しもうとしているのか。
まぁ、取り敢えず……町中へ入るとしよう。
此処とは違って賑やかな雰囲気かもしれないし、レクシムへ連れて行ってくれる御者も居るかもしれないしな。
こうして俺たちは不吉に構える門を潜り、薄気味悪い町へと脚を踏み入れた。
――時刻は正午過ぎだというのに、辺りは闇という程ではないが薄暗い印象だ。
建ち並ぶ家々は今にも倒壊しそうなぐらいオンボロで……町々を彩る筈であろう木々や花々は、生き絶えたかのように枯れ果てている。終いに住民などの姿が人っ子一人、何処にも見当たらない。
見渡す限りに続く亀裂の入る石畳の道路、時々肌に染み付いてくる生暖かい風……。
やはりこの町は、廃墟な『ゴーストタウン』だったのだ。最低でも、お化けが出没しないことを願おう。
と、
「ねぇ、」
「ぬわっ!?」
セリカのイキナリな呼び掛けに、俺は思わず驚きの声を上げてしまった。
「な、なんだよ急にっ!?」
俺は少しばかり怒りを覚えながら言うと、セリカは眉をひそめて口を動かす。
「な、なんで怒っているのよっ!? まぁ、そんな事は気にしないとして……今日の予定はどうするの??」
そうだ……今日の予定どうしよう。レクシムへ戻るとしても結構な時間が掛かるしなぁ……。よし、こうするか。
俺は即座に思い付いた案を伝える為、口を開く。
「今日は町の観光をしながら、泊まれそうな宿を探していく予定だ」
それを聞いてセリカはコクリと頷き、
「そうなのね。じゃあ、早速宿を探し行きましょう!!」
セリカはそんな返事をした後に、観光そっちのけで宿を探そうとキョロキョロ辺りを見渡し始める。
頑張って宿探しをしているなぁ……。
セリカを見習い、俺も宿を探そうと辺りを見渡す。
そんな時だった。背後のアネータさんが大声で驚きながら、
「な、なんですかあの人影はっ!? なんか浮いていますっ!!」
俺は直ぐさまアネータさんの方へと顔を向け、
「ど、どうしたんですかっ!?」
「あ、アレを見てください……」
「アレ……??」
俺は多少戸惑いながらも『アレ』が存在するという、アネータさんが指差す場所へと視界を移す。
そして、俺は見つけてしまった。宿より先に見つけてしまう……。
白い無地のワンピースと黒髪ロングな髪型が特徴的な、歳の頃は九歳から十歳程の色白い少女を一人見つけてしまった……。身体が透けていて、素足に対して足裏は汚れていない……何より宙に浮いている。絶対にアレは幽霊確定。
だが、まだこちらの存在には気付いていないようだ。
俺は今にも吹き出してしまいそうな叫びを堪え、皆と共に場を立ち去ろうとするが、
「んっぎゃャァァアアアアアアーーッ!?!? オ、オ、お、お、おばけぇェエエエエッ!!??」
少女の存在に気付いたセリカが、物凄い叫び声を上げてしまうと同時にその場で白目をむいて倒れる。
瞬間に俺たちの存在に気付いた少女は、身体を宙に浮かせながら此方へとユックリ近付いて来た。
コレは、ヤバイ!!
そう感じた俺は震える脚をなんとか動かすと、腰を抜かし気絶しているセリカを抱えて町道を全力で駆けだす。
道中を駆け抜ける中、背後を振り返ってみる。
視界に映ったのは、俺を追うように脚を動かすペリシアとアネータさん……。そして、俺たちを追ってくる少女の姿をした幽霊。
「ギャァァアアアアアアーーッ!!!!」
追いかけてくる少女の姿を目にした俺から、堪えていた恐怖による悲鳴が噴火した。
いや、いや、いや、なんで追ってくるのっ? 俺のなんかしたのっ!? なんでなんでっ!?
疑問が脳裏を飛び交う中でも、俺は全力で脚を動かす。
と、薄暗い町中に……明るい光が灯る一軒の建物を見つけた。
俺は走りながら建物へと目を凝らす。
なんだ……ってぇ、アレはっ!?
「皆んな!! あの建物の中へ入るぞっ!!」
俺は皆に、眼前の『宿屋』と記される看板が立て掛けられた建物へ入ることを指示した。




