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冒険という名のパラダイス!!  作者: めーる
第1章 ニート、魔王討伐の旅に出る!!
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1章 幕間

「――こっちです……」


 獣人男に導かれた場所は、二つの螺旋階段がある位置よりも更に奥所に存在する王座の間だった。


「え? 見る感じ地下に繋がる階段なんて無いけれど……」


 階段らしきものなんて何一つ見当たらなく、広い空間に床へ直結固定された一つの立派な石製椅子だけが目立つ。考えるに、あの椅子が王座なのだろう。


 俺が辺りを見渡していると、獣人男が立派に装飾された椅子へ近付き両手を添え……ユックリ重たそうに横へと押し移動させる。すると、先程まで椅子が鎮座していた下場所に地下へと繋がる階段が現れた。


「この階段の奥で、皆が待っている……」


 獣人男はどんよりとした表情で呟くと、一人先に階段を下って行く。追いかけるように俺たちも椅子近くへ移動し、階段を下り始める。





 ――薄暗い階段を三分程掛けて下り進むと……小さなランプ二つに淡く照らされる大きな鉄格子牢が立ち構える、一つの石畳空間が眼前に現れた。牢獄内には沢山の獣人達が収容されているのが確認できる。


 牢獄の大きさ的に千人程の者達が収容されているのだろう。王宮地下牢獄の広面積は、レクシムの町半分の大きさがありそうだ。


「うわぁ……すごい人数ね……」


 セリカが牢獄内の様子に若干後退りしていると……


「あぁ、兵士長様が助けに来てくれたぞ!!」


 牢獄内から、歓喜らしき言葉が一声響いてきた。


 この状況から従い考えて……兵士長とは、俺たちをこの場所まで案内してくれた赤毛の獣人男のことを指しているのだろう。


 その後も次々と兵士長を讃える発言が飛び交う中、聞き覚えのある声音が俺の耳に届く。


「ねぇ……なんで皆んなが此処にいるのっ!?」


 俺は急いで、その声が何処から発せられたのかをキョロキョロ探す。


 この声質はもしかして…………いや、絶対に彼奴だ……。


 そして鉄柵に囚われている、薄汚れたペリシアの姿を発見した。聞き覚えのある声の正体は、ペリシアの声だったのだ。


 瞬間に俺と目が合ったペリシアは、鉄格子から身を乗り出し、


「ねぇ! なんで此処にいるの!?」


 再び意味同じの質問を問いかけてきた。


 とりあえず「助けに来た」とだけ言うと、ペリシアはすんなり理解したのか首を縦に頷かせる仕草を見せ、


「お願いがあるんだけど……アタシたちをこの牢屋から出してくれない?」


 唐突に申し訳なさそうな表情で、救出してくれと頼んできた。


 元々ペリシアを助ける為に此処へ来た俺は「もちろん」と応えるが……


「そういえば……この牢屋の錠を開ける鍵は何処にあるんだ?」


 首を傾げペリシアへ聞いてみる。


 すると、俺の隣に立つフェンが……背負う大剣のグリップへと手を伸ばし、


「鍵など必要無いさ……。なんたってオレがこの場に居るんだからな!!」


 瞬間に、フェンは勢い良く鞘から刃を引き抜くと……眼前の丈夫な鉄檻を細切れに斬り裂いた。

 その後、瞳を閉じて剣を鞘に収めるフェンは小声で呟く。


「オレの剣は少し変わった品で、自刃の硬度より軟度な物は全て斬れるんだ……」


 その言葉を聞いてフェンの大剣を凄いと感じた。同時に、こんな事も思う。


「もしかしてお前って、その大剣のお陰で強いなどとチヤホヤ持て囃されているんじゃないのか?」


 声に出して発すると、それを聞いたフェンに「いや、そんな事ないから!? 俺の実力だからっ!!??」等、少し焦る様子で発言を否定をされた。


 まぁ、イリビィートを倒せたのはフェンの咄嗟な作戦のお陰だしな……。実力が有ると認めてあげても良いか。

 それに薄々考えてみれば、フェンの大剣ではイリビィートに擦り傷の一つも付けれてなかったしな……。大剣の力には限界があるのだろう…………って、うん? いや、待てよ?? そういや俺は、基礎的な魔法でイリビィートを気絶させたよな……??


 俺がそんなこんな考え込んでいると、牢獄から解放されたペリシアが駆け寄って来て、


「ねぇ、ありがとう!! 国民に変わって私から、礼を述べさせて貰ったわ!!」


「え? ……国民??」


 無意識に俺が聞くと、


「おやおや……ワシの孫がお世話になっていたようじゃのう……」


 疑問に応えるように牢の奥から……王冠を白髪長髪の頭に被る、獣毛製ローブを身体へ羽織った老人が現れた。指先数本には、高価そうな輝き眩しい指輪をはめている。

 明らかに、獣人国の大王という風格だ。


 と、先まで俺の隣にいた赤毛の兵士長が今見えた老人へ焦り気味で駆け付け、弱っていそうな背中へと手を回し、


「お身体に怪我など御座いませんか? 大王??」


「大丈夫じゃよ……それよりも、」


 老人は兵士長から、俺たちへと眼先を変えて、


「お主らが此処に居るという事は、国を救ってくれたんじゃな……? 本当にありがとう……。どんなに感謝しても仕切れないほどじゃ……」


 俺らに深く頭を下げ、感謝の意を示された。


 そんな行動を目にしたセリカは胸を張って、


「なんもよ! 当たり前のことをしただけよ!!」


 自信ありげな言葉を前に、国王は下げていた頭を上げ、


「『当たり前』とは、なんと寛大なお言葉を……。もしや貴女様は、我が王国の(いにしえ)に伝わる伝説の救済女神様なのでは……??」


 何を勘違いしたのだろうか、セリカを自国伝説の女神様だと勘違いしてしまった。


 俺が「そんな訳ないでしょう」等の一言を国王ヘ言おうと思った矢先、


「え…………? あー、うん……そうよ、私は伝説の女神よっ!!」


 セリカは最初は勘違いに困りつつも、最終的に軽い調子で嘘をついたのである。


 嘘を信じてしまった国王は、


「あぁ、やはり…………。貴女様を一目見た時からそうだと勘付いておりました。伝説通り、髪が白銀とお美しい……」


 再び国王の勘違いに困りつつも、セリカは堂々と対応する。


「そう、私は女神っ! この美しく煌めいた白銀の滑らかな髪の毛が、何よりの証拠よっ!!」


 偶然にも伝説の女神様の容姿と重なった白銀髪を証拠に、セリカは断言した。


 ……コレは、嘘が判明した時が見ものだな。


 俺はそう思いながら、目先をペリシアへと移す。


 そして、


「なぁ、急だけど……お前に一つ質問があるんだか良いか?」


 ペリシアは少し動揺しつつも、


「え? うん……良いけど、どうしたの?」


 質問する許可がおりた直後に、俺は眉を少し歪め優しい口調で、


「聞きたいことは、レクシムでお前に盗まれ筈の大金の行方だ……」


「え?」


 瞬間にペリシアは眼を見開き行動を停止させた。額を確認すると一筋の汗が流れている事が把握できる。


 そんな時、国王に付きっきりな筈の兵士長が途端に血相を変えて、俺へと目線を移し、


「あのっ! 命を救われた身でこんなことを申すのは大変失礼なことだと思いますが……姫様は悪くありません!!」


 断言すると、地に赤毛頭を強く下げ付け土下座を始めた。性格からして、土下座など簡単にするようなタイプでは無いと感じていたのだが……。


 そんな兵士長の顔面には大量の汗粒が湧くように垂れている。つまりは、相当な覚悟で土下座をしているということなのだろうか?


 というか、ペリシアはマジメに一王国の姫様だったのかよ……。


 土下座姿を瞳に移したペリシアも続くように地へと頭を張り付けて、


「いいえっ! アタシが勝手にやったことよ!! アタシ一人の責任だから、お前は頭を直ちに上げなさい!!」


 足元二人の土下座を眼前にする俺を差し置き……ペリシアは横目で、地へと頭を張る兵士長へと強く命令した。


 え……ちょ、俺を置いてきぼりにしないで……。


 「しかし…………王国をあの女から買い戻す為に……」と兵士長が横目で返答する。


 気を張った遣り取りをズッと見せられている俺は表情を通常の倍以上に和らげ、


「いや、別に怒ってもないし、叱る気も全然ないよ。だって、盗まれた大金はもう戻って来ないと思ってるし……」


 笑顔で口を閉じると、ペリシアは首の角度を上に向けて……


「本当にごめん……色々とすまないことをした……もうアタシはお前達に迷惑を掛けないよう、仲間を抜けようと思う」


 悲しげな顔で言葉を終わらせると、再び完全な土下座姿へ戻った。


 頭を地に貼り付ける二人を前に俺は、


「別に良いよ……さっきから言っているけど、大金なら返さなくても良い。なにより、お前らが無事で良かった」


 少しばかり強がりな発言を前に、ペリシアと兵士長の頰には一筋の小川がつくられる。


 そういえば、フェンの友人らしき獣人の姿が見当たらないな……。



 ――暫く時間が経過し……牢獄に囚われていた獣人達は住み暮らしていた住宅街へと身の移動が完了した。


 そんな中、国王・兵士長・暗く俯くペリシアなどの俺たちは王宮にて、


「なぁ、コイツどうする?」


 俺は、まだ気絶中のイリビィートを前に首を斜めに傾ける。


「ギルドへ戻って懸賞金と交換に引き渡そう……」


 フェンがそんな提案をしてきた。

 そういえば、六魔柱には物凄い懸賞金が付けられていたな……。


「え? お金が貰えるの!?」


 セリカが『懸賞金』という単語に目を光らせて話に食いつく。


「あぁ……でも、その懸賞金半分の額は獣人国へ寄付する気だ」


 淡々と告げるフェンにセリカは「えー」と顔を顰める。

 逆に国王は「えー」と嬉しそうに顔にシワや寄せた。


 まぁ、そうと決まれば……


「よし、んじゃイリビィートを連れてギルドまで戻るか!」


 俺は叫ぶように言うと、拘束される全裸なイリビィートを肩に抱えた。


 そんな姿を見かねた兵士長が、


「あの、ギルドまで護衛しますよ? 存じていると思いますが、六魔柱は大変危険です。再び目覚めてしまったら……」


 不安げな声に、俺は少しばかり元気よく、


「大丈夫っ!」


「しかし……其奴は俺の砂埃を巻き起こす程の攻撃ですら通用しない相手で……」


 ……王宮へ向かっている時に砂ぼこりが舞い上がっていた理由を把握すると共に、俺は横へと首を振る。


 兵士長の付き添いを断る俺だが、


「ペリシア……獣人国の代表責任者として、もう一度……俺たちと一緒に来い」


「え? 本当に良いの……? アタシこんなに迷惑かけちゃったのに……」


「勿論だ……ちゃんと責任を取ってもらうぞ?」


 ペリシアを再び旅へと勧誘する。


 こうでも言わなきゃ、ペリシアはついて来ないと感じたので、言葉を多少変化させて無理矢理にでも連れて行く事にした。


 現在のペリシアは、暗く俯き……見るからに俺たちへ罪悪感を抱えていたからな。 とてもじゃないが「アタシも一緒に連れて行って」とは言い出せる状態ではないだろう。


 だから俺は、『自分はもう一緒に旅をしてはいけない』と考え込んでいたであろうペリシアを誘ったのだ。


 まぁ、どんな理由が有ろうとも、ペリシア本人が嫌がろうとも……無理矢理にでも連れて行くつもりだったがな。


「よし、出発するか!」


 フェンが大きな声で、合図した時だった。


「少しお待ち下さい……」


 国王が旅立とうとする俺たちを引き止め、


「あの……国を救ってくれたお礼に、お渡ししたい物があります……。それと、お疲れの身体を休めるオススメの町紹介などもしたいのですが……」


「それはありがたいな……」


 フェンは笑顔で国王の元へ向かって行く。


 そんな行動を前に俺は、


「フェン、俺たちは先に地上へと出てるぞ……」


「あぁ……了解した」


 俺たちは再びガスマスクを装着すると地上へと向かう事にした。


「そういえば、ペリシア……お前ガスマスクを装着しなくても森の中で狂ったりしないのか?」


 質問を耳にしたペリシアは若干笑顔で、「獣人族は幻覚作用に強い耐性を持っているから大丈夫」だと言った。





 霧が漂う森の中へ到着すると……突然にセリカが、イリビィートを背負う俺へ話を始める。


「ねぇ、今回もっと私を助けてくれても良かったんじゃないの?」


「はぁ? 俺、結構活躍してなかったか?」


 俺が首を傾げると、セリカは溜息をついて、


「あなたは全然、私を家の外で助けてくれた『あの人』の魅力には、敵わないわね……」


 家の外で、助けてくれたあの人……?


「知るかっ! てか……お前家から出たことがないって、言っていただろっ!?」


 そう苛立ち小さく叫ぶと、再びセリカは溜息を吐き、


「お爺様に隠れて一回ぐらい家から出た事ぐらいあるわよ……。あんな口実を信用するなんて、お人好しなのね」


「お人好しで悪いか? それよりも、『あの人』って誰だよ……」


 俺が聞くと、


「まぁ、三年前に村の井戸で私の命を救ってくれた王子様とでも言っておくわ。残念ながら顔はハッキリ覚えていないの……」


「なんだよそれ。顔姿記憶があやふやな奴と俺の魅力を比べないでくれ……」


 俺とセリカが他愛のない会話を繰り広げていたら、


「おい、お前ら……ギルドへ戻るぞ」


 フェンが、獣人国から地上へと到着したらしい。顔には俺たちと同じくガスマスクをしている。


 そういえば、


「なぁフェン……お前多重人格だって……」


 俺が疑問気に問うと、


「あー、そんなの眠気が完全に覚めたら治るぞ」


「あ、そうなんだ……」


 そう呟く俺の姿を何処か嬉しそうに見つめるペリシアが隣に居た。


 少しばかり気色悪いと感じるが、何故笑顔で見つめているのかと問い掛けてみる。


「どうしたんだ?」


「なんでもないよ……ありがとっ!」


「え?」


 ペリシアの唐突な感謝に戸惑っていると、アネータさんが明るめな声質で、


「あの、皆さん今回はお疲れ様です。では、レクシムへと戻りましょうかっ!」


 そんな一言をスタート合図に、俺たちはレクシムへ向けて歩き始める事にした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 1章拝読しました! ポンコツメンバーのドタバタ道中、面白いですね! ずっと笑いながら読んでしまいました。 [一言] イリビィートの倒し方が酷すぎる……(褒め言葉)。
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