1章 第21話
「よし行くわよっ!」
セリカは皆より一足早く、キノコの円筒状な太く白い柄へと飛び掛かり、勢い良く抱きついた。
「えっ!? ビクともしないんですけどっ!?」
そう言いながらも、しばらく一人でキノコを一生懸命に横へ揺らし引っこ抜こうとするセリカをみて、俺は努力というものをしみじみと感じる。
……そろそろ俺もキノコを引っこ抜きに行かなきゃな。
俺はフェンとアネータさんと共にキノコへ近づき両手で抱きつく。 そして、力を入れて地面から引っこ抜こうとした時だった。
キノコ頭部の円錐型な傘裏面に放射状で形成される刃状の数知れないヒダヒダから、超微細な粉がパラパラと俺たちへ降り注いだ。
「なんだコレッ!? ……っと、は、ハ、ハァクションッッッ!!!?」
上から降り注ぐ粉がガスマスクを超え鼻中へと入った俺は、思わずクシャミをしてしまう。 そんな行動を真似するように、皆んなも大きなクシャミを数回連発し、
「クシュンッ! ゔぅ…………なんなのですか、この謎の粉は……?」
アネータさんが涙目にしながら呟くと、フェンは口を開き、
「コレは多分、胞子というものだよ……ハァ、ハァクションッ!!」
胞子とかいう超微細な粉は降り止むことを知らずに、次々とガスマスクを超え鼻膣を刺激してくる。
……なぜ霧は防げているのに、キノコの胞子が防げないんだよ……ガスマスク。
と、
フェンが露骨に嫌そうな顔をして背中の大剣を途端に引き抜き、
「クソ……鼻がムズムズする……、こんなキノコこうしてやる……ハァ、ハックションッ!!」
――ズバッ!!
そんな音を立てフェンが大剣を一振りすると、胞子出現元であるキノコ上部の真っ赤な傘が地面へ砂ぼこりを立てて落ちる様子が見えた。
………………。
そんな光景を吟味するのにたっぷり二十秒ほどかかった。
分かったことは、キノコが傘を無くしたことで地面に刺さる太い棒へと変化した……ということだ。
俺が柄から手を離して唖然と口を開けていると、
「…………よし、」
フェンは大剣を背にかける鞘に収め、右手で堂々とガッツポーズを決めた。
「いや、『よし、』じゃないよ!!」
俺は思わず、ツッコミを入れてしまう。
するとフェンは「?」と首を傾げ、
「胞子の脅威がなくなったんだぞ? 何か不満でもあるのか??」
「不満はないが、イキナリ切り込む奴がいるか!?」
俺が言うとフェンは頷き、
「そうだな……とりあえずキノコを引っこ抜くか」
そしてフェンは、再びキノコの柄に抱きつくように張り付いた。
しれっと俺の話が聞き流すな……。
そう思いながら俺も再びキノコへ両手を付けると、
「じゃあいくぞ!」
フェンの合図と共に、キノコを皆んなで精一杯上へ上へと引っ張る。
傘部分が無くなったことで、先ほどよりも軽い力で地面から引き抜けそうだ。
「ゔぅ、うぉおお……」
ふと、顔を真っ赤にして頑張っているセリカの姿が目に入った。
そんな頑張りのおかげだろうか、キノコはもう少しで抜けそうなところまで来ていた。
そして遂に……
――ズボッ!!
地面に大きな穴を開けてキノコが抜けた。
瞬間に皆の口から歓声が上がる。
「ヤッタわぁああーッ!!」
セリカは人一倍笑みを浮かべて喜んでいる。
そんな中、地面が音を立てて軽く揺れはじめた。
――ゴゴゴゴゴ……
「じ、地震ですか……?」
アネータさんが不安そうな表情で呟くと、フェンが落ち着いた口調で、
「この揺れは、獣人国の入国許可が出たということだろう……」
つまり、獣人国を護る木が入口を開いたということだな。
俺たちが地下へ繋がる獣人国の入口場所へと戻ると、巨大な大樹は跡形もなく消え去っていて、変わりに地下深くへ続く先の見えぬ石造り階段が地面にみえた。
「この階段を下っていけば、【獣人国『グシタ』】があるのか……」
「そうだ……」
俺とフェンの一言会話が終わると、セリカは一人先に階段の一段目へと足裏を付け、
「よし……いくわ」
無駄に強張った表情でポツリとそう言った。
俺たちもセリカに順々と階段を下りはじめる。
地下なので暗いと勝手に感じていた階段道は意外にも薄っすらだが明るかった。 それと空間は縦に広々としていて、下から吹き付ける風が髪の毛を時々逆立てる。
「こんな地下だから外からの光が全く入って来ていない筈なのに、なぜ少しばかり明るいんだ?」
俺が俯きながら首を傾げていると、背後のアネータさんが天井や壁に視線を向けて、
「もしかして、このおかげじゃないですか?」
「? このおかげ……?」
足元ばかり見ていた俺も、アネータさんの様に壁や天井を見上げてみる。
すると、あることに気づいた。
「な、なんだコレ!?」
なんと、壁と天井には発光する小指サイズのキノコが無数に生えていたのだ。 特に天井には寒気がするほど生えている。
うわ……色々と凄いな。 思わずドン引きしてしまうほど生え揃っているのだ。
と、下先から更に明るい光を感じた。
「この光は、もしかして……」
そんなことを呟きセリカが瞳を輝かせていると、
「もうそろ到着するな……」
フェンが下に輝く光を見ながら、獣人国へ到着するという内容の言葉を告げる。
そんな時、階段最後の下段が目に映った。 獣人国はもう目の前にあるということだ。
瞬間に、俺たちはゴールである獣人国へと向かって階段を駈け下る……そして、
「やっと着いたぁぁあああー!!」
セリカを先頭に俺たち四人は最後の階段を飛下り、【獣人国『グシタ』】へと到着した。




