1章 第20話
「ねぇ、私たちにキノコ探しをすれと言っているの!? あんた本当は獣人国に来たことないんじゃない?! なにより、勇者だったら自分から率先して探しに行きなさいよっ!!」
途端にセリカが少しイラついた様子で、刺々しい感情起伏をみせるフェンへ訴えた。
ちょっ、セリカさん? 急に何言っちゃってるの??
現状態のフェンにそんな厚かましい言葉はダメだよね?! もしも此処でフェンの機嫌を損ねてしまったら、獣人国へ入国する前に怒って一人町へ帰ってしまうかもしれない……そうなると、俺たちがペリシアを助けることの出来る確率が下がってしまう。
すかさず俺は、攻撃的感情をみせるフェンのご機嫌を取る為、
「なぁ、フェン……さっきのセリカの暴言はしょうがないんだ。 アレは暴言を吐いてしまう病気で……って、えぇ??」
「ゔぅっ……ゔぇぇえええええーん!! ひっぐっ、ゔぅ…………」
フェンが途端に大声を上げ、親に叱られた子供の様に泣き噦りはじめた。
「ゔぅっ……なんで、そんなこと言うノォォおおおおっ!! なんでそんなに怒るノォおおおおっ!!」
いや、急にどうしたフェン!? ガスマスクの中に涙溜まってるけど……。
そんなフェンの姿をみたアネータさんが震えた声で、
「も、もしかして……あの時のように、歯止めが効かなくなってしまったのでは……??」
「え? どういうことですか??」
すぐさま俺はアネータさんへ問う。
「じ、実は前に迷宮でフェンさんに助けてもらった時にも、この様に急に泣いてしまったりと喜怒哀楽の起伏が激しくなってしまったんです……。 彼曰く、早起きすると多重人格になるとか……」
と、アネータさんは弱々しく答えた。
めんどくさいやつだな。
そういえば……、馬車の上で急にネガティヴになったと思えば降車する時、途端に元気になったりと性格がコロコロと変化していた気がしないでもない……。
俺が泣き噦るフェンを見つめながら溜め息をついていると、セリカが眉を八の字にして困りつつ、
「ちょっ、ねぇ……なんで急に泣いているのよ。 そんなに泣かれると、私まで悲しくなるじゃない!! ねぇ、泣きやんでよ……!! ゔぅっ……」
おい、セリカ……なぜお前まで泣きだしちゃうんだよ!? 泣く要素どこにあった?!
「ごべんねぇ、ごべんねぇ、わだじがおごっじゃっだから……ひぐっ?!」
「べづに……ひぐっ?! ゼリカはワルグなぃ!! 泣いでいドゥ、オデが悪いのぉっ!!」
セリカとフェンはお互いに涙と鼻水を垂れ流し、会話を始めた。
なんだよ、この二人の会話。 全然聞き取れねぇ……。
「でぇ、良がっだらいっじょにギノコをさがじにいがない?」
セリカは目を潤んだ瞳でフェンをキノコ探しに誘うが……。
「は? なんでお前と二人っきりで探しに行かなきゃならねぇんだよ? なによりお前と行っても需要がねぇ」
フェンの性格が『泣き虫』から『怒り』に変わったらしい。
怒りを食らったセリカは『びぇぇえええええーーーーんっ!!』っと、更に涙の無駄遣いを開始した。
なんなんだよこの二人……。 もの凄くめんどくさいんだけど。
はぁ、キノコを探しに行くかぁ……。
「あの、アネータさん。 少しでも早くキノコを探しに行きましょ」
俺はアネータさんと二人でキノコを探しに行こうとするが、
「おい待て、お前ら。 何処へ行くんだ?」
フェンがそれをさせてくれなかった。
「いや、キノコを探しに行こうと……」
俺がそう答えると、
「おいおい、待て待て、お前ら……いったい何処へ行こうとしているんだ?」
いや、質問内容全く変わってないんだけど?!
もう答えるのめんどくさいからフェンも連れて行こう! ……ついでにセリカも!!
白霧漂う森の中でキノコ探しをして十分程度、フェンとセリカの性格はいつも通り平常に戻っていた。
「ねぇ、キノコの一本ぐらいサッサッと見つけちゃいましょう!」
セリカは張りきり、木いっぽん一本の根元を確認して列の先頭を歩き進める。
そんなことを言ってもなぁ……。 こんな大きな森の中で簡単にキノコがみつかるわけないよぉ……。
そんなことを思っていたら、
「あ、アレは!?」
アネータさんが、なにかに指をさしながら叫んだ。
え? キノコがあったのかっ!?
「なにか、少し先に大きめな物体がみえます!!」
俺はアネータさんが指差す方へと顔を向ける。
「なんだアレ?」
白霧に邪魔されて薄っすらとしか確認出来ないが、みえたのは少しばかり大きめなキノコのシルエットだった。
アレが、目的の『赤いキノコ』なのだろうか?
と、
セリカが、キノコらしき物の元へと駆けて行った。
俺たち三人もセリカに影響されて、キノコのシルエットへと駆け向かう。
そして、シルエットの前に辿り着き、正体を確信する。
「こ、コレは……」
目の前に、約三メートル程の高さで赤いキノコが立ちはだかった。
俺はフェンへ言う。
「なぁ、フェン。 なぜキノコがこんなに大きいと教えてくれなかったんだ?」
するとフェンは言い訳をするように、人差し指を胸元で交差させ、
「だて、前に此処に来た時は、知り合いの獣人族一人と一緒に居て……。 オレを入口に繋がる木の前で待たせて、キノコを抜いて来てくれたんだもん……」
なんか地味に『甘えん坊』になっている気がしないでもないが……キノコがこんなに大きいとは知らなかったんだな。
というか、獣人族はこんなに大きなキノコを一人で引っこ抜くことができるのか。
「まぁ、どっちみち大きさは変化しないんだ。 頑張ってこの大きなキノコを引っこ抜くぞっ!!」
俺のそんな掛け声と共に、皆で巨大キノコの周りを取り囲む。