6章 第7話
「ここで、魔法の絵本を購入したんですね?」
露店に到着するなりソフラが、品鮮やかに並ぶ魔法道具とむきむき店主を睨みつけながら、俺たちに訊いてきた。
「そ、そうよ! そこのむきむき店主が、この私に呪いの禁書を押し付けてきたのよ!」
セリカは、腐り切った台詞を清々しいほどに吐き捨てながら、魔法具屋の店主を指差した。ソフラに抱きかかえられている赤ん坊も、バブー! と魔道具屋の店主を勢い良く指差す。
この行動を瞳に反射させながら店主は、一瞬ばかり呆気にとられつつも、すぐに、がははっ、と大きく口を開いて笑いだした。
「姉ちゃん。威勢が良いな! その性格、気に入った!! よし、次はこのブレスレットをサービスしてやる。価格は破格の値段!! 無料だっ!!」
「えっ……、良いの!?」
「良いぞ!! なんたって、呪いの――。ゴホッ、ゴホッン!! とにかく、無料だ!」
ムキムキ店主からセリカに差し出されたのは、錆びたシルバーブレスレット。酸化した金属に一定間隔で散りばめられている装飾の宝石は、どれもくすんだ紫色をしている。
「ちょ、セリカ! それ絶対受け取るな!」
「え、どうしたの。カナヤ? 急にそんなに慌てちゃって。なに? もしかして、これがそんなに欲しいの?」
既にブレスレットを受け取ってしまったセリカ。それを慌てて奪い取ろうとする俺に対して、「いやよ、これはもう私のモノよ! 絶対にあげないんだから!」と怒り口調ながらもニヤついて、その右腕に早速とブレスレットを装着しやがるセリカ。更にセリカは、にやにやとムカつく表情で、「もうこれは私のモノだし、唾でもつけとこうかしら? ぺっ、ぺっ!」とシルバーブレスレットを俺に見せつけて自慢してくる。
「……このやろぅ」
「野郎じゃないわよ! 私は、純粋無垢な乙女よ!」
セリカからの言い返しを受けているなか、ソフラが魔道屋の店主に「今のブレスレット。命削りのブレスレットですよね? いわゆる、呪いのブレスレット」と言っているのが聞こえてきた。
「命削り――?」
ソフラの言葉に反応したのは俺だけではなく、セリカも。
「ちょ、呪い? 命削り!? 聴き間違えしら? ちょっとそういう大事なことは早く――って、なにこれ、腕から外せないんですけど!」
焦るセリカを目の前に、店主の冷静な説明と分析がはじまる。
「それは装着した者の血液を一定量吸い込んだとき、寿命と引き換えに絶大な魔力を与える呪具。……実際には血液じゃなくても、装着者の体液であれば効果が発揮されるんだな」
「はぁ?! 私、このブレスレットに体液なんか染み込ませてない――って、あのときの唾! 過去の私、なんてことしちゃってくれてるのかしら! うぅ、なんだから、息が苦しくなってきた。あと私の寿命は何年? ねぇ、何年!?」
泣き喚いて俺に縋ってくるセリカ。ムカつきが収まっているわけじゃないけど、流石に可哀想にもなってくる。
「まぁ、落ち着けよ。……あの。すみません、店主さん。これ、どうにかして外してやれないですか?」
「そんな芸当。物を売ることだけの脳しかない俺には、到底出来っこないなぁ。すまん」
「ねぇ、カナヤ! たすけて! ねぇ、たすけて!」
遂に地面に転がって地団駄を踏み始めたセリカ。対して、ソフラに抱き抱えられている赤ん坊がキャキャッと笑顔で楽しそうに手を叩く。
「ちょっ、笑い事じゃないのよ!?」
突っ込むセリカに赤ん坊は更にキャキャッと楽しそうに手を叩く。そんな赤ん坊を冷静な表情一切崩さずに抱きかかえているソフラが、「とりあえず、お城に戻りましょうか。ブレスレットを外す手掛かりになる文献が、書庫にあるかもしれないですし」と言ってきた。ソフラは続けて、「もしよろしければ、店主さん。貴方もお城まで同行よろしいでしょうか?」と店主にも言った。




