6章 第4話
――王宮の扉を勢いよく開くなり、数人の兵士が叫び声を上げて向かってきた。
「うわぁああぁぁああああっ!? たた、助けてくれ!! あんた達、魔王を倒したんだろ? だったら、この状況をどうにかしてくれよっ!?」
「おい、落ち着け! 一体、どうしたんだ?」
腰を抜かして立てなくなった兵士を起き上がらせながら、フェンが冷静に質問した。
「ゆ、幽霊が……! 骸骨とか火の玉、動く人形が、廊下のあちこちで暴れまわってるんだ!!」
……すまん。絶対、セリカの所為だな。
目前の兵士のように、俺が若干に顔を青ざめさせていたら、多量の脂汗を垂らした国王が階段を勢い良く降りてくる。
「おぉ……、良いところに来たな!! お前たち、あの霊体らをどうにかしてくれ!?」
国王はビシッと勢い良く、人差し指を立てて腕を伸ばす。その先では、数体の骸骨が壁から摺り抜けて姿を現している。
「……うん。とりあえずセリカを探してくる。ここは頼んだぞ!!」
俺はフェンとペリシアに早口で言うなり、セリカの姿を探すことに決めた。とりあえず、二階へと続く階段を駆け上がる。目指す先は、俺たちが宿泊している部屋。
「くそっ、この状況……。どうすれば」
頭を悩ませながら脚を動かしているうちに、目的地の扉が見えてきた。同時に、落ち着いた様子で歩いているソフランスキーさんの姿も視界端に捉えた。
俺は脚の動きを緩め、少し遠くに居るソフランスキーさんに話しかけてみることにする。
「えっ……、どうしたんですか? こんなところで?」
話し掛けたことで、ソフランスキーさんは俺の存在に気付いて顔を向けてくる。
「私がここに居ては駄目なのですか? まぁ、そんなことより。この部屋から、赤ん坊の笑い声が……」
言いながらソフランスキーさんは扉に近付いていき、平然とした表情でドアノブを勢い良く回した。
瞬間。
「うわっ、次は何かしら!? ポルターガイストってやつ? 扉が急に開いたわ――って、ソフランスキーじゃない! 脅かさないでよ!!」
驚いたりプンスカ怒ったりしているセリカの声が、慌ただしく廊下を駆けるように響いてきた。
「いや……。部屋から、赤ん坊の泣き声がしてきたので」
ソフランスキーさんがボーとした表情で言葉を返している中、俺は急いで部屋の前へと向かう。
部屋内の様子を確認するなり、涙目で呪いの絵本を持って座り込んでいるセリカの姿が、視界に映った。そんな隣では赤ん坊が、キャッキャ、っと声を出して嬉々と笑っている。
「や、やっぱり……。お前が、原因だったんだな」
「ゔぅ……。ぐすん。カナヤ、お化けが。なんか、壁から骸骨とか火の玉が!? ぐすん……。たすけてぇ」
鼻水を垂らしながらセリカは、床を張って近付いてきた。そして、俺のズボンを力強く引っ張りはじめる。
「ちょっ、やめろよ!? そんな引っ張るな。ま、マジでやめてくれ! ちょっ、脱げる」
「じゃあ、この状況をどうにかして!? 骸骨とか人形とか、全部倒してよ!! 怖いのっ! なんか、謎言語で囁いてきたりするの!!」
「なんで俺に頼んでくるんだ!? くそっ。まぁ、しょうがない。やってやるよ……!!」
俺とセリカが切迫した表情で会話をしていたら、ソフランスキーさんが隣から話かけてくる。
「あの赤ん坊は、誰なんですかね? ツノとか生えてますけど、魔族ですか??」
「私の子供よ。名前はまだ無いわ! さっき、遺跡から拾ってきたの。信用してる貴女だから、教えたのよ。国王には、内緒よ!!」
セリカが、謎にメリハリ良く堂々とした口調で言い切った。これを目前にソフランスキーさんは、呆然とした様子で呟く。
「セリカさん。貴女、子供とか育てられるんですか……? たぶん、無理ですよね?」
「そんなことないわよ!? なんで皆んな揃って、そんなことばかり言ってくるのかしら!?」
セリカが頬を膨らませて顔を赤くしている中、俺はソフランスキーさんに質問してみる。
「そういえば、子供とか育てたことあったりしますか?」
「では、カナヤさん。貴方はこの世に生を受けてから、何回歯磨きしましたか? ゼロ回ですよね?」
「な、な訳ないだろ!? 当たり前みたいな顔して、そんなこと言うなよ!!」
「でも、少し口が臭いです……!」
「ゔぅ……。子供は育てたこと無いって、解釈で良いんだな」
「当たり前です。私はまだ、二十歳。子供など、産み育てる歳ではありません」
「意外と、若い……。しっかりしてるから、もう少し歳上かと」
「私をババァと言いたいんですね。まぁ、そんなこと今は聞き流します。それよりも、先程のセリカさんの発言は、本気なんですかね?」
「……多分、本気だと」
俺がボソリと呟くと、ソフランスキーさんは変わらぬ表情で言う。
「そうですか。では、出来る限り。色々とお手伝いをしてあげましょう。実は最近、母と子供が楽しく生きていく物語を読みましてね。その影響で、子供を育てたいと思っていたんですよ」
「そ、そうなんですか……」
「はい。そうなんです。それと、ソフランスキーさんと呼ばれるの苦手なんですよ。ソフラとでも、呼んでくださると嬉しいです」
「あっ、はい……」
俺が頷いて了承している時。セリカの大きな声が、鼓膜に強く響いてきた。
「ねぇ、カナヤ! 壁から、また骸骨が出てきたわっ!? 早く、早く倒してちょうだい!!」