6章 第3話
「――なんだかんだで、街に戻ってきたが……。その赤ん坊どうするんだよ?」
「何回も言うけど、育てるに決まってるじゃない! でも、国王とかに存在がバレたら。研究材料として解剖されちゃうかもしれないわ……!!」
街へと足を踏み入れて早々に、俺が口を開くと、腹を膨らませているセリカは顔を真っ青にして言った。
確かに……。遺跡で見つかった赤ん坊のことを国王に報告したら、没収されて解剖とかされるかもな。遺跡の秘密を探るためとかいう理由を付けて。
そんなこんな考えながら王宮を目指していると、何処からともなく声が響いてくる。
「魔道具屋、出張店! 本日限り、魔道具を安く売っているよ!! 魔法の絵本や、動くロープ。聖なる結晶、光の腕輪! どれも、今なら安くしてるぞ!!」
お祭り騒ぎな街中で一際目立つ野太い声が、鼓膜を強く刺激してきた。俺が人混みの中で声主を探していると、ペリシアがピシッと指差して言う。
「あそこの屋台。凄い……! 沢山、魔道具が売ってる!! ねぇっ、見に行ってみよ!!」
「魔道具屋とは、興味深いな。よし、見に行くか!」
フェンは答えると、ペリシアと共に魔道具が販売されている屋台へと向かった。残された俺は、セリカと少しばかり顔を見合わせる。
「……俺たちも行ってみるか?」
「そうしましょ! なんか、魔法の絵本が有るとか言ってたわ!!」
話を終えるなりセリカは、ペリシア達の方へと走って行った。俺も軽く走り、そこに向かう。
屋台の目前に到着するなり、副業で冒険者をやっていそうなぐらいにガタイ良い店主のオッさんが、日焼けした顔を向けて言ってくる。
「おっ、らっしゃい! なんか、買うのか?」
「その、魔法の絵本が欲しいわ!!」
セリカはニカッと笑みを浮かべ、棚に沢山並べられてる魔道具の中から、一冊の薄い本を手に取って言い切った。
この行動をみた店主は、がははっ、と大きく口を開いて笑いだす。
「姉ちゃん。威勢が良いな! その性格、気に入った!! 更に値下げしてやる。価格は破格の値段!! 無料だっ!!」
「えっ……、良いの!?」
「良いぞ!! なんたって、呪いの――。ゴホッ、ゴホッン!! とにかく、無料だ!」
「うん! 早速、あの子に読み聞かせしてあげたいわ! ねぇ、カナヤ。私、先に王宮に戻ってるわね!!」
言いながらセリカは、嬉々とした笑顔を浮かべて王宮へと走り向かって行った。
そんな中。俺は真顔で、店主に恐る恐る質問する。
「あのぉ。さっき、呪いとかなんか言いかけてませんでした……?」
「そんなこと言ってないぞ。あの絵本が、呪いの絵本なわけないだろう!!」
「いや、待て。まだ俺はあの本が、呪いの絵本とか言ってないぞ!? やっぱり、そうなんだな! あの本は、やっぱり呪いの絵本なんだなっ!?」
俺がドンッと屋台の棚に両手を叩きつけて、身を乗り出しながら更に問いかけたら、店主は目を逸らして呟く。
「い、いや……。あー、うん。そうだよ。あの本の物語は、現実になるんだ。物語を読み進める度に、同じようなことが現実で起きる。良く言えば、物語の主人公と同じ気分が味わえるものだ!!」
「おいおい、マジかよ!? ちなみに、あの本はどんな物語なんだっ!?」
「すまんが、俺は読んだことない。でも……。聞いた噂では、お化けとか幽霊とか、そういう怪奇系だとか……」
「よし、そうか。ペリシア、フェン!! 早く、セリカを追いかけるぞ!!」
俺たちは急いで、王宮へと先に戻ったセリカを追いかけることにした。多分、今頃は王宮の扉前に到着しているのだろう。