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冒険という名のパラダイス!!  作者: めーる
第5章 いざ、魔王討伐!!
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5章 幕間


 ――魔王を封印してから、船に揺られること半日。俺たちは、世界最大と謳われる王都の港へと到着した。暗くなった空には、半月が綺麗に輝いている。


「ふうっ。やっと着いた。此処が、王都なのか……」


 俺はセリカ達と共に船を降りながら、周囲の街の風景を見渡してみた。


 夜だというのに、沢山の店が賑わいザワザワと活気立っている。美味しそうな食べ物の匂いや、行き交う人々の香水の匂いが、風に吹かれて鼻の奥を刺激してくる。同時に、楽しげな音楽も聴覚を優しく刺激してきた。


「さすが世界最大の王都。今まで訪れた街や村と格が違うな……」


 俺が目前の光景に感動を覚えている時だった。同じ船に乗って半日を過ごしていた王宮聖騎士の一人が、俺の耳元で唐突に呟く。


「一応、言っときますが……。貴方、監獄島から脱走した罪とかで、世界規模で指名手配されている身なんですからね」


「あぁ……。分かってるよ」


 俺は返答しながらも、見足りない街景色をキョロキョロ視界に収めていく。否や。建物の壁に、俺の似顔絵を描いている手配書が貼られていることに気付いた。


 急いで俺は、先ほど忠告してきた聖騎士に頼む。


「あの……。王宮に到着するまで、顔を隠せるものとか貸してくれませんか?」


「えっ、別に良いですけど……。でも今は、こんな物しか用意できませんよ?」


 穏やかな笑みを浮かべる聖騎士は、素直な返答と共に、身に纏っていた純白のマントを手に取り、バサリ音を立てて俺の頭へと被せてきた。大きなマントは、俺の上半身を全て覆い隠す。


「なぁ……。逆に、犯罪者感が増してないか? なんというか、これから牢獄へ連れてかれる風な格好というか……??」


 それに加えて、視界が非常に悪い。細かに編み込まれた繊維の隙間から、なんとか微かにぼんやりと周囲の様子を把握できるているが……。


「そんなことありませんよ!」


 聖騎士はニッコリと白い歯を輝かせながら、清々しく笑みを決めてきた。


 そんなこんな俺と聖騎士が会話をしていたら、先頭を行くセリカが背後をクルリと振り返り言ってくる。


「ねぇっ、なにをしているの!? 早く行くわよ!!」


 オーブを包んだ風呂敷を片手に足を動かすセリカの進行方向には、白色と金色を重宝した大きな王宮が確認できる。彼処に、この国を収めている大王とかが居るのだろう。


「おう。そうだな」


 俺は軽く返事をするなり、セリカ達の横に並んで王宮を目指して歩く。港から王宮までの道のりは、一直線の短い距離。沢山の賑わっている人混みを避けて進んで行くと、王宮の入り口が見えてきた。


「おっ、彼処から中に入れるんだな」


 豪華に宝石などで装飾された純白の扉前には、二人の聖騎士が分割して左右を守護している。


「お疲れさまー」


「「…………」」


 軽く手を振りながら唇を動かすセリカの挨拶に、二人の聖騎士は一切の余所見もせずに無言を貫いていた。


 ……なんか、すげぇな。それと聖騎士って、皆んな白い鎧で統一しててカッコいいな。


 俺が感心しながら、セリカ達の後に続いて純白の扉を潜ろうとした瞬間だった。


「「…………」」


「ひいっ!?」


 扉を守護する二人の聖騎士が、無言で鞘から剣を引き抜いて刃先を向けてきた。思わず俺の口から、情けなく弱そうな声が漏れ出てしまった。


 腰を抜かしそうになっている俺に、右側を守護する聖騎士が問いかけてくる。


「……お前、怪しいな。何者だ?」


「おお、俺が怪しい……?」


 ……ここでマントを取って姿を明かしたら、犯罪者として切り裂かれたりするかもしれない。一体、なんて答えれば……?!


 脇に汗を湿らせながら頭を悩ませていたら、隣のマントを貸してくれた聖騎士がニッコリと笑みを浮かべて口を開く。


「別に怪しい人じゃないよ? 僕の顔に免じて、コイツを城内に入れてくれないか?」


「……まっ、まぁ。貴方が、そこまで言うのなら」


「ありがとね!」


 爽やかな笑みと共に発せられる礼の言葉と共に、俺の首先に突き出された剣先はスッと引いていく。


「それじゃ、中に入ろうか!」


「そ、そうだな……」


 俺は自分自身を隠してくれている純白のマントをギュッと握りしめ、心中で何度も感謝を述べて純白の扉を潜った。


 王宮に一歩足を踏み入れるなり、俺は感動のあまりグッと息を飲んでしまう。


 先程の街景色も美しかったが、王宮の中には別次元の美しさがあった。例えるなら、ギャルと清楚系という感じだ。


 広々とした白い床に敷かれている真紅の絨毯。そんな空間を彩るように設置されている、黄金の彫刻や、緻密に描かれている油絵。メイド服やタキシードを身につけている召使いのような者達も、数人確認できる。


「すごいな……」


 マントを被りながら俺が周囲を見渡して感動していると、セリカ達と目前の大階段を上りはじめているペリシアが言ってくる。


「スゴいよね……! でも、王様の居るところはもっとスゴいんだよ! この階段を上った先にあるから、早く来な!!」


「おう……!」


 俺はペリシアの言葉に期待を膨らませて、大階段を一歩ずつ駆け上がって行く。そして……。階段を上り切るなり、立派な大部屋が視界に飛び込んできた。


「うおぉぉおおおおっ! なんだ此処、スゴいな!!」


 目前の光景にキョロキョロしながら驚いていたら、隣からセリカの声が届いてくる。


「ここは、王の間よ! ほらっ。彼処の椅子に、大王が腰をかけているでしょ?」


 得意げに言いながらピシッと向けたセリカの指先には……、赤いふわふわなクッションが特徴的な椅子に座っている、偉そうな肥満男が確認できた。


 モジャモジャとした黒髪天パな頭の上には、黄金の王冠が神々しく輝いている。


 ……こ、コイツが。大王なんだな。


 そんな男が鎮座する隣には、全く同じ形状の赤い椅子が確認できる。パッと見るからに、空席だと認識できた。


 ……多分。あの空席の椅子は、嬢王様とかのなんだろうな。


 俺がそんなことを考えていたら、大王が不意に口を開きはじめた。


「ゴホんっ。ご苦労であった、セリカ殿。そして、その御一行。今回の旅の成果は、如何であったのじゃ?」


「魔王を封印して、オーブを四つ持ってきたわ! ついでに、魔王が封印されてる矢も……。ほらっ、有り難く目に焼き付けなさい!!」


 敬語も知らないのだろうか? セリカはタメ口で話しながら風呂敷の結び目を解いて、包んであった四つのオーブを見せつけた。


 瞬間に、オーブを瞳に映した大王の喉から声が漏れる。


「おぉー! まさか、この国にオーブが四つ揃う日が来るとは!! って、待てよ? なんか、亀裂入ってないか??」


「きき、気の所為よ……!」


「そ、そうか……? まぁ、良い。報酬の話に移るとするか」


「やっと報酬が貰えるのね……!」


 ……誤魔化したり、喜んだり。セリカを見てると、なんか疲れるな。


 俺がため息を吐きながら感じていると、大王とチラリと目が合ってしまった。


 否や、大王は眉をひそめながら質問してくる。


「むっ? そういえば、お主は何者なんじゃ??」


「えっと、俺……。俺は――」


「カナヤです! 大王様、コイツは無罪なのっ!!」


 俺が、困り果てながらも答えを述べようとしていた瞬間。セリカが、勢いよく言葉を解き放った。


 この発言に大王は、「むっ?」っと呟きながら首を傾げる。


「一体、どういうことじゃ? 意味が分からないぞ??」


 この問いかけに、セリカは再び口を開いて一生懸命に答える。


「えっと、カナヤは……。無罪の罪で、監獄島に連れていかれてたの。それで、そこから脱走して……。とにかく、罪をなすりつけられたカナヤは、無罪なの!」


「うむ……。よく分からないが、そこにいるカナヤとかいう奴は、無罪なのだな? 監獄島から脱走したということなら、世界規模に手配書などが貼られており、外を歩くのは大変だろうな……。よしっ、その話を信じよう」


 大王は俺とセリカにニッコリ笑みを見せると、大きな声を部屋中に響かせる。


「我ら王宮に使える騎士の者たちよ! 心して聞け!! 世界中に貼られているカナヤという男の手配書を全て回収し、無罪だと伝え回れ!!」


 王が静かに口を閉じるなり、聖騎士たちはザッと音を同時に立てて頭を深く下げると、次々に急いで王宮の外へと向かって行く。

 だが、大王の真横に立っている騎士だけは一切に動こうとしていない。きっと、大王の護衛という役目を務めているのだろう。


「それじゃあね。あっ、もうこのマントは必要ないね!」


 隣に立っていた聖騎士も、ニコリと爽やかな笑顔で俺からマントを取り上げると、王宮の外へと走り去って行った。


 ……えっ? 俺の罪、消えたの??


 唐突な状況に呆気に取られていたら、大王が微笑みながら再び口を開く。


「それじゃあ、報酬は何が良いかな?」


「えっと……。お金はもちろんだけど、お屋敷とか欲しいわね」


「そうか。では、報酬に……。大量の金銭と、立派な屋敷を与えよう!」


「えっ、良いの!?」


 セリカが瞳を輝かせながらピョンピョン跳ねて喜んでいると、大王が付け足すように言ってくる。


「あっ……。そういえば、最近。ここら近辺で、新たな遺跡が発見されたんじゃ。もし良ければ、数日を掛けて探索して来てくれないか? 屋敷が完成するまでの宿代などは心配しなくても良い。この王宮で、寝泊まりをすれば良いだけじゃ」


 このお願いに、俺を加えてペリシアやフェンが頭を悩ませていたら、セリカが迷うことなく言い切る。


「別に良いわよ! その遺跡は、何処にあるのかしらっ?」


「本当か!? これは、次の報酬も弾むしかないな。それで……、えっと。場所は、この街より少し南に位置しておるぞ」


「そうなのね!」


「そうなのじゃ。まぁ、今日はもう遅い。部屋を用意してあるから、そこで休むと良い。もちろん、食事も用意してあるぞ」


 大王が微笑んで言うなり、ペリシアが俺の袖先を不意に引っ張ってくる。


「急にどうしたんだ? 俺に甘えたいのか??」


「違う! この城を探検してみたいの!!」


 ペリシアは頰を真っ赤にして言い切ると、俺の袖先を無理矢理に引っ張りながら、背後の大階段をズカズカと降りはじめた。


「ちょっ、服が伸びる! ちゃんと一緒に行くから、服を引っ張るな!?」


 そんなこんなで俺は、ペリシアと二人で王宮を探検することになった。




「――なぁ。此処って、勝手に立ち入って良い場所なのか……?」


「なに不安になってるの? そんな心配は無用よ!」


 現在俺たちは、全く人気がない地下室へと来ていた。空間は全体的にカビ臭く、黒光りしている小さな虫が視界端を通り過ぎる。


 ……早く戻りたい。


 俺が深くため息を吐いていたら、ペリシアが瞳を輝かせてピンとある場所に指を向けた。


「ねぇ! あそこに、更に地下へと通じてる階段があるよ!!」


「そういや、確かお前の国も地下にあったよな? 獣人って、地下が好きなのか?」


「そんなことない! でも、なんかドキドキするでしょ!?」


 ペリシアは言いながら、一人先に階段を降りて行った。俺も急いで、それを追いかける。


 階段を降り切ると、ヒンヤリとした埃臭い空気が、身体中を襲って来た。視界は真っ暗で、松明などの灯りがないと何も存在を捉えることができない。


「ゴホッ、ゴホッ……! うわっ、なんだ此処!? 早くセリカ達のところに戻ろうぜ」


 俺が咳き込みながら言うと、ペリシアが「しっ!」っと人差し指を唇に当ててきた。


「ど、どうしたんだよ……?」


「誰か来る……。とりあえず、見つからないように隠れよ!」


 言われるがままにペリシアに腕を引っ張られ、俺たちは近くに存在を確認できた物の裏に、身を隠すこととなった。


「な、なんなんだこれ……?」


 暗闇の所為で、自分たちがどんな物の裏に隠れているか把握できていない。


 そんな中。白い鎧を纏う三人の聖騎士が、松明を掲げながら階段を降りてきた。


「なぁ……。この前、ペフニーズィで起こった石化事件。そんな事件に巻き込まれた妻を救うべく、財団を経営する夫が、多額の資金を使いまくって、石化を解く石を発見したとかいう噂知ってるか……?」


「あぁ……。知ってるよ。それが手に入れば、この部屋にいるガハラド様も目覚めるかもな」


「目覚めてほしいなぁ。だって、剣を一振りしただけで天を二つに切り裂いたっていう伝説を持つお方だよ? 幼い頃。歴史書で読んで、何回の興奮を覚えたことか……!」


 そんな会話を楽しげにしながら三人の聖騎士は、ゆっくりと俺たちの方へと向かってくる。


 と。


 三人の持つ松明の灯りが、俺たちが身を隠している正体不明なモノの形を闇に浮かび上がらせる。


 鎧を纏った年若く勇ましい姿の石像。腰には、大きく立派な剣が確認できる。


 ……えぇっ、俺たち石像の裏に隠れてたの!? なんか、怖っ!?


 そんな石像を見ながら、三人組の聖騎士はペチャクチャと楽しそうに会話をしている。どうやら、俺たちの存在には気付いていないようだ。


 ……此処まできたら絶対に見つからないように、息を止める勢いで身を隠してやる。


 俺がそんな決意を固めてから、数分が経過した。


 聖騎士達は、楽しげに会話を弾ませながら階段を上り立ち去っていく。


 完全に気配が立ち去ったことを身を潜めながらそっと確かめるなり、俺はペリシアに呟く。


「はぁ……。なんか疲れたな。今日はもう、部屋に戻って寝るとするか」


「うん……。そうしよ」

次話から、第6章が開始します。

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