表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冒険という名のパラダイス!!  作者: めーる
第5章 いざ、魔王討伐!!
181/190

5章 第79話

「ゔぅ……。さっきから、泣き喚きおって。喧しいわっ!!」


 魔王は口を大きく開いて唾を数滴飛ばしながら、泣き喚くセリカを怒鳴りつけた。


 否や。セリカは泣くのをやめて、ケロっとした表情で魔王を見つめながら言う。


「じゃあ、取ってよ! 早く、天井に挟まってる靴を取って欲しいの!! アンタが造った変な仕掛けの所為で、こうなってるんだからねっ!!」


 この発言に対して背筋が凍り付いた俺は、すぐさまセリカの耳元で囁く。


「ちょ、セリカさん……? 相手は魔王ですよ? しかも、今めちゃくちゃ機嫌悪い。だから、八つ当たりするなよ!? この所為で、もっと怒り状態になったりして、攻撃力とか跳ね上がったらどうする気だ!」


「そんなこと知らないわよ!? でも、そうなったら私は逃げるわ! 敵わないっていう時は、逃げるのが一番の有効手段なのよ!」


「お、おう……。確かにそうだな。そうなったら、この場はフェン一人にでも任せて逃げるとするか。やっと勇者らしいことが出来て、本人も本望だろうし」


「そうよ」


 俺とセリカがコソコソと話している中、魔王の声が会話に割り込んでくるように鼓膜へと響いてくる。


「く……っ、しょうがない。そこまで言うのなら、この我が直々に取ってやろう。貴様の靴とやらは、一体どこにあるんだ?」


「あそこよ。早く取ってちょうだい」


 シレッとした表情でセリカは、天井に挟まっている靴を指差した。


「うむ。そうか……。少し待ってろ」


 魔王は眉を少々しかめながら王の間から出てくると、靴が挟まっている天井目掛けて勢い良くジャンプする。魔王の手は見事に、セリカの靴をとらえた。


「ほれ……。取ってやったぞ」


「うん。ありがとう……」


 セリカは軽く礼を言いながら受け取ると、ゆっくり靴を履いて呟く。


「アンタ、脚力スゴいわね……。仲間にしてあげても良いわよ?」


「そりゃ、魔族や魔物の頂点に位置する我だ。普通のことって――。ん? 今、我を仲間にするとか言っ――」


 嫌な予感がした俺は、魔王が喋り終える前に、空気をかき乱すように口を開く。


「うぉーっ! そそ、そんなこと言ってないよな、セリカ!? おいっ!?」


「えっ、魔王がパーティにいたら、結構便利――」


「な訳あるか!? 街とか出禁になるわ!! お、お前……。元々おかしい頭が、更におかしくなったのか?」


 ……魔王だぞ? 何をやらかすか分からない。それと、こんな見た目の奴がパーティにいて、普通に街を出入りできるわけがないだろう。なにより、仲間になっちまうと、俺たちは魔王軍になっちまうんじゃないか?


 色々と俺が頭を悩ませていると、魔王が冷静な表情で皆に伝える。


「そろそろ……。先ほどの続きをしようじゃないか。皆も、武器を構えていることだしな」


 言いながら魔王は背後を振り返り、自分の部屋へと戻って行った。

 俺たちも追って、魔王の間へと足を踏み入れる。


 そんな時。


 俺の隣でアネータさんが、ゴソゴソと矢先にお札のような紙切れを結びはじめた。


「な、何してるんです……?」


「あっ、これは……。封印術式が刻まれた御札を矢先に結んでいるんですよ。こうやって加工された矢が身体に刺さった者は、異空間に封印されるんです。私の産まれた国では、かつてコレで最強のドラゴンを封印したとかいう物語もあるんですよ。試しに、矢先に触ってみますか?」


「ぼ、僕に何か恨みでもあるんです……?」


「いえいえ、冗談ですよ……」


 アネータさんは「うふふ」と少しの間だけ微笑を浮かべると、背中を見せて歩く魔王へと弓矢を構える。弓に力を込めていく音が、ギリギリと小さく響く。


「では、いきますね……」


 ピンっという一瞬の激しい音と共に、一本の矢が解き放たれた。矢先は空を切り裂いて、一直線に魔王の背中へと向かっていく。


 ……なんか、呆気なかったな。


 俺が達成感のようなものを薄く感じるなり、魔王は振り返って手に持つ黒刀で矢を跳ね返した。


「あの国の封印術式か……。コレが刺さっていたら、危なかったな」


 魔王は、床に儚く転がる一本の矢を拾い上げると、片手で握りしめてバキっと真っ二つに割った。


 眉間にしわをグイッと寄せる魔王は、俺たちに更に続けて言う。


「我には、他人が脳内で考えていることが少し予想出来るんだ。例えば、そこのお前。今、ヒノキ棒の先から炎玉を生み出そうとしているよな? やめておけ……」


 ……くそっ、なんでバレたんだ!? 魔王の能力、ズルい!!


 俺は圧倒的な強者に敗北感を覚えながらも、先程から行動しようと決意していた通りに、ヒノキ棒から多量の炎を放出させる。


 部屋内が多量の炎で包み込まれるや否や、魔王の高笑いと大きな声が空間全体に響く。


「ハハハハッ! やめておけと忠告しただろう……? 我は、暑さに弱いんだ。くそっ、もう鼻血でてきた」


「いや、お前がダメージ受けるんかいっ!?」


 あまりに衝撃的な状況に、俺は思わずツッコミを入れてしまった。そんなツッコミに、魔王は構おうという素振りは一切見せず、フラフラと脚を泳がせている。暑さに逆上せてしまっているのだろう。


 と。


 俺の隣で靴を履き終えたセリカが、自信満々な表情で黄金の剣を引き抜き呟く。


「今が、チャンスね……。討伐してやるわ」


「おい……、一応言うけど。さっきまで、お前。魔王のこと仲間にしようとかしてたよな?」


「なによ。どうでも良いでしょ。とりあえず、アイツは倒さないといけない存在よ」


 ……流石、村一番の箱入り娘といったところか? すげぇ、自分勝手だな。


 そう思いながらも、俺はセリカに向かって叫ぶ。


「行けぇぇええええっ!! セリカぁああああ!!!!」


「なによ、うるさいわね。そんな大声出すと、魔王に攻撃しようとしてるのがバレちゃうでしょ? それになんで、私一人で突っ込まなきゃ行けないのよ?」


 セリカが、真顔で冷静に言ってきた。


「えっ? 今、討伐しにいくとか言ってなかった?? それに、行動予想されてるから不意打ちとか無駄だぞ!!」


「うるさいわ! なによ!? 私に文句あるわけっ?」


 俺とセリカの口喧嘩が、激しく開幕しようとした瞬間。視界端で大きな魔剣を構えているフェンが、フラつく魔王に突っ込んで行くのが確認できた。


「おりゃややややっ!! 打倒、魔王っ!!」


 ギラリと禍々しく輝く魔剣の剣先が、魔王の胸元に向かって素早く振り下ろされる。


 と。


 身体をフラフラさせながらも魔王は、真紅の瞳を鋭くギラつかせて声を荒げる。


「無駄だぞっ! 我に触れることは、一切不可能だ!! お前の攻撃は、見抜いていた!!」


 スラリと身体を曲げて、魔王はフェンの攻撃をあっさりと交わし避けた。


「くそっ。攻撃を先読みされるなんて……。どうすれば」


 フェンは絶望のあまり、その場でガクンと膝をつく。この光景を見て、ペリシアが呟く。


「わ、私には無理だ……。魔王に、攻撃を与えるなんて不可能」


 弱気になってしまったペリシアを目にした俺はすぐに、セリカの方に顔を向けて言う。


「よし、セリカ。次はお前が行け!」


「なんでよっ!? 今の流れで、どうして私が行くことになるのよっ!!」


「いや、だって……。ペリシアは怖がってるし。アネータさんは、封印する係だし。俺は、そこら中で燃えてる炎を生み出したし。消極法で、後はお前しかいない!」


「なによそれ!? おかしいじゃない!! ねぇ、嘘よねっ? 冗談って、言ってよぉ!! 魔王、怖いよぉ。なんか、こっち見てるよぉ」


 セリカが手に持つ黄金の剣を振り回し、涙を流しながら俺に抱きついてきた。


「やめろっ、服に鼻水が付く! もう、とりあえず行ってこい。すぐに戻ってきて良いから、行ってこい! 今だ! 行けぇええええ、セリカぁああああっ!!!!」


「うわぁああああーんっ! なによ。なんで、そんなこと言うの? もう良いわ。行ってやるわよっ!」


 文句を言いながらもセリカは、泣きながら黄金の剣を振り回して、魔王の方へ突っ走って行った。


 そんなセリカを目にして勇気付けられたのか、自信を失いかけていたフェンが起き上がり魔王の脛を思いっきり蹴り上げた。


 油断して攻撃を食らってしまった魔王は、嘆き声を上げて鼻血を撒き散らす。


 セリカは叫び声を上げる魔王へと、一直線に駆け向う。


「周りの炎の所為で、そこら中の空気が熱いよぉ。ぐすん」


 涙目という視界が悪い中で、走っていたからだろう。魔王まであと少しという距離で、セリカは足を引っ掛けて、盛大に前方へと飛び付くように転んでしまう。


 このセリカの動きを前に、魔王が両目を見開いて呟く。


「むっ!? 行動が、予想できん!」


 途端に慌てふためきだした魔王に、セリカの持っている黄金の剣先がギラリと近づいていく。


 そして、数秒も経たないうちに。剣先は、魔王の鉄板が入っていそうな分厚い胸板を斬り裂いた。


「ぐっ、ぐわぁああああっ!? なんだこの剣の斬れ味!? 我が、こんなにもダメージを受けるとは……! 痛い、痛い、痛い、痛いっ!?」


 魔王は、苦痛の篭った叫び声と血しぶきを上げ、赤い長絨毯が敷かれる大理石の床へと仰向けに倒れこむ。


「――はぁはぁ……。小僧たちめ。我をここまで追い込むとは、褒めてやろう…………」


 魔王は弱々しく呼吸しながら、とても高い天井に目線を向けて言った。そんな側でセリカは急いで立ち上がり、俺たちの方へと走って戻ってくる。


 俺は魔王の一言を聞き終えるなり、手に持つヒノキ棒を胸元まで構えて心中思う。


 ……魔王を討伐したら、長かった冒険生活が終わるのか。


 沢山の思い出を振り返りながらヒノキ棒に魔力を込める中、隣でアネータさんが弓矢を構えながら言う。


「あとは……。私に任せてください」


「はい……」


 俺が一言返答すると同時に、御札が結ばれた一本の矢が勢いよく放たれた。


 向かってくる矢に、魔王は一切の抵抗をみせない。今まで自分の能力で攻撃を避けていたであろう魔王は、痛みに対する耐性が皆無だったのだろう。かなり弱り切っている。


 そんな魔王の腕に、プスリと矢が刺さった瞬間。


「部屋が燃えてる!? 早く消化をしないといけませんね!!」


 背後からアフェーラの声が聴こえてくると同時に、多量の粘液が雨のように部屋中に降り注いで炎を消した。


「おい、待てっ! アフェーラ、逃げる気か!?」


 急いで俺が後方を振り向くと、懸命に走り向かってくるユンバラの姿が見えた。そんな俺の真横をアフェーラが、全力で駆け抜けていく。


「ま、魔王様! 大丈夫ですかっ? って、これは封印術式が……。ゔぅ……、魔王様。何処までも、お伴します」


「あ、アフェーラか。ありがとうな」


「いいえ。大丈夫ですよ」


 魔王とアフェーラはそんな会話をしながら、矢から発せられる多量の白い光に飲み込まれていく。


 俺がその光景を呆然と眺めていると、アフェーラと目が合ってしまう。


「……私たちは、絶対にこの封印から目覚める。覚えておいてくださいね」


 物凄い形相で俺を睨み付けながら言ってくると、アフェーラは魔王と共に光の中へと姿を消した。


 そして、姿を消した二人が存在していた場所には、御札が結ばれている一本の矢だけが残っている。


 ……なんか。後味が悪すぎるな。


 俺の身体の中心辺りで罪悪感が湧き始めている中、セリカが唐突に大声で叫ぶ。


「あっ、そういえば!? 今回のクエストの達成条件って、魔王討伐とオーブの回収なのよ! どうするの!? オーブ、割れちゃっているわよ!?」


「まぁ、そう焦んないの。船内に接着剤が有ったし。それでなんとかなるんじゃない?」


 疲れているのだろう。ドサっと地に座り込むペリシアが、微笑を浮かべて言った。


 そんな俺たちの後方から、シュティレドやイリビィートが遠くで話している声が届いてきた。


 振り返ってみると、気絶するアマーロを担ぎながらこちらに向かってくる六魔柱たちの姿が見えた。


 すぐに俺は駆け寄って、問い掛ける。


「なぁ、お前たち。これからどうするんだ?」


 この質問に、シュティレドが代表して答える。


「僕たちは、しばらく此処に残るとするよ。やり残していることが、沢山あるからね」


「そうか……」


 俺が納得していると、セリカの声が鼓膜に響いてくる。


「ねぇ、カナヤ! そんな魔王軍とじゃなくて、私たちと一緒に来るわよね!? 来るなら、早く船に戻るわよ! 船には、王宮聖騎士とかが待っているの。だから、早く戻らないと!!」


 俺はセリカの方を急いで振り返って、大きな声で言う。


「あぁ、そうだな。早く船に行こう!」


「そうよね! って、ことで。早く、割れたオーブを集めちゃいなさい!!」


 元気よく返答した俺に対して、セリカはポケットから大きな風呂敷を取り出して渡してきた。


 ……やっぱり、六魔柱の皆んなと一緒に此処に残ろうかな?

次話の5章幕間の後にはじまる第6章のタイトルは、 「ダンジョンで、魔族の赤ちゃん拾いました!!」という感じです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ