5章 第72話
ミネルがギャーギャー騒いでいる中、シュティレドがあることに気付く。
「あれ? ベジッサと目が合ってるはずの蛇神が、石化してない……」
「自分より、何倍も大きいやつを石化させれない」
不意に耳に入ってきた疑問に、ベジッサは冷静な口調で答えた。同時に、蛇神が大きな口を開く。
「よく見てみれば、石蛇種がいるではないか……。街人が石化しているのは、お前のせいだな。もしや、我が目覚めることを予知していたか?」
ベジッサは、無言で首を縦に降る。それをみて、再び蛇神は口を動かす。
「石化を解いてくれないか? 我は肉食。肉以外は、食べない主義なんだ」
「なぜ、お前の命令に従わなきゃならない?」
ベジッサと蛇神は睨み合いながら、会話を進めている。そんな状況の中、ミネルは思う。
……えっ、街の人を石化させた理由がカッコよくなってる。
そんな時。
「うぉぉおおおおー!!!!」
石化状態が解けたユンバラが、暴れ出した。その隣で、アマーロが困り顔で言う。
「えぇ、何してるのぉ!?」
ユンバラは、アマーロの手から石を奪い取ると意味もなく走りはじめた。この所為で、石の光を浴びた街人たちの石化が解けていく。
その光景を見ていた蛇神は、興奮した口調で言う。
「おぉー! どんどん皆が、元の状態に戻っていくぞ!!」
期待に応えるように、どんどん皆の石化が解かれていく。と、ずっと直進していたユンバラの目前に大きな川が……。どうやら興奮しすぎているユンバラは、それに気づいていないようだ。
「これ以上進んだら……っ!!」
ミネルが声を張り上げて危険を知らせたが、もう遅かった。ユンバラは大きな水飛沫を上げて、川に落っこちる。川の流れは強いようで、物凄い勢いで大海へと不本意に向かっていく。そんな状況でユンバラが、いつもの調子を取り戻す。
「ぷはっ!? なな、なんだよ! なんか、川に流されてる」
冷たい水に刺激をされて、本来の自分を取り戻したのだろう。ユンバラは手に持っている石を固く握り締めながら、ミネルたちの視界から消え去っていく。
「……な、なんだったんだアイツは? きっと、危ないやつなんだな」
ユンバラの行動に、蛇神ですらドン引きしている。
川の流れに抗うような叫び声が遠くから微かに響いてくる中、石化から戻った街人たちが蛇神の姿に驚きの声を上げる。
「なな、なんだこのデカい蛇は!? もしかして、伝説の蛇神様なのか!?」
「そうだ、我は蛇神! お前らも、生贄として食してやる!!」
蛇神が黄金の眼球をギラつかせているのに対し、テップルは街人たちから注目を逸らさせようと口を大きく動かす。
「おい、蛇神! 街人たちをお前の生贄には、絶対にさせない!!」
この発言にミネルは、蛇神よりも早く反応する。
「ねぇ、それって俺も入ってるよね!? ねぇ、おい、なぁ!!」
「えっ、いや……。あー、はい。多分」
テップルがメンドくさそうに対応していると、蛇神が威嚇するように大きな牙を見せつけて言う。
「この我に、闘いを挑むということか……?」
「そ、そうだ!」
ミネルの言葉を無視しながら、テップルは言い切った。刹那、蛇神は高笑いをはじめる。
「シャッ、シャッ、シャッ、シャーッ!! この命知らずめが!!」
蛇神は馬鹿にした表情で、テップルにグイッと顔を近づけた。
瞬間。
突然、巨大な槍が物凄い勢いで飛んできて、蛇神の脳天深くにブッ刺さった。
「ウシャシャシャシャーッ!?!?」
蛇神は大きな叫び声を上げて、巨大な身体を激しく暴れさせながら、白目を向いてその場で倒れた。蛇神が勢いよく地面に接したおかげで、砂煙が舞って視界が悪くなってしまう。
そんな砂煙の中をズシズシと歩いて、ミネル達の方へと誰かが近づいてきた。巨大な槍の持ち主だろう。
「…………」
ミネル達がその存在に緊張を覚えていると、周囲の砂煙が晴れて正体が露わになる。その正体に、ミネルは思わず声を張り上げる。
「せっ、船長!?」
なんと蛇神を倒した者の正体は、この港まで船で運んでくれた船長だったのだ。驚く周囲に構わず船長は蛇神に近付いて行き、脳天に刺さる巨大槍をググっと引っこ抜く。
「なんだ……。鯨かと思ったが、蛇だったのか」
この光景に、ドルチェは目を大きく開きながら質問する。
「船長! その大きな槍なに!? なんかの伝説の武器!?」
「えっ、いや……。ただの捕鯨用の槍だよ。拾い物だけど、使いやすくてな。一応あの船は、捕鯨船でもあるんだ」
船長が冷静に応えていると、周囲の街人達が歓声を上げる。
「うぉぉおおおおーっ!! 伝説の蛇神が、倒されたぞー!!!!」
そんな中、テップルが拍子抜けした感じで呟く。
「えぇ……、なにこの展開?」