5章 第67話
「なぁ……。標的とやらは、何処にいるんだよぉ……??」
標的を追って洞窟内を随分歩き続け、段々と疲れてきたミネルはガハラドに愚痴愚痴と言った。
それに対して、ガハラドは先頭をズンズンと進みながら答える。
「きっと、この先にいるはずなんです……」
自身有り気に言い切ると、イリビィートが前方へと指差しながら言う。
「……なんか、あそこ。明るいわね」
皆は指が差される方へと、目を凝らしてみる。
確かに、ほんわかとした灯りが確認できる。
「……なんだ、あそこ?」
行き止まりとも捉えられる其処は、今まで歩いてきた道と比較すると広い空間になっていそうだ。
好奇心が溢れ出てきたミネルは疲れを忘れて、灯りを目指して走りだす。
「ちょっ、待ってください……!!」
ミネルに追い抜かれたガハラドも、灯りを目指して駆け足になる。
同様に、シュティレド達も脚を素早く動かして移動する。
一足先に灯りの元へと到着したミネルが、周囲を見渡して口を開く。
「うわぁ……。なんだ此処??」
大きな広間だ。
一定の距離をとって壁に埋め込まれた松明。そんな灯りに照らされているテーブルの上には、生活感のある食器などが置かれている。極め付けに床には、人の形をした抜け殻のような物と石化した人々が、異様な雰囲気を放って散り散りに置かれているのが確認できた。
そんな空間でミネルが唖然と立ち尽くしていると、背後からガハラドが呟きながら歩み寄って来る。
「……多分。此処は、石化の元凶の住処ですかね?」
ガハラドは周囲を一通り見渡し終えると、再び口を動かす。
「……探索に行ったきり、街に戻って来なかった仲間たちが確認できます。それに、この抜け殻……。【石蛇族】のモノなのでしょう」
……そういえば街で、仲間が石化したとかガハラドに報告してた兵士がいたな。
ミネルはそんな事を思い出しながら、首を横に曲げて唇を開く。
「……石蛇族って、なんだ?」
「古い文献によれば、かつて世界を脅かしたという魔族ですね。まだ、この世に蔓延っていたとは……」
ガハラドは言い終えると、石蛇族とやらの住処であろう場所をキョロキョロと見回しながら歩きはじめた。
そして……。いつの間にか到着していたシュティレド達が一つのテーブルを囲み、地味に盛り上がっていることに気付く。
「どうしたんですか……?」
ガハラドが問い掛けると、アマーロはテーブルの上に置かれた一冊のノートを持ち上げて言う。
「なんかぁ、手記があるのよぉ……」
「えっ、どれどれ……?」
手記という言葉に反応したミネルが、ガハラドを追い越しテーブルへと向かう。
食べ残しが少しある食器の横に、数冊のノートが置かれている。
ミネルはテーブルの上に置かれているノートを一冊だけ手に取ると、興味本位に文字を読み上げる……。
「○月×日。今日も深夜に街へと遊びに行った。昼は騒がしいであろう街。でも深夜は誰一人として外を出歩いていない。そこで私は、全裸になってみた。……爽快感が半端ない。おかしな性癖が目覚めてしまった」
………………思わず皆の視線が、床に落ちている人型の抜け殻に集まった。
「○月×日。大変なことになった。どうすれば良い。いつもと同じように全裸になっていたら、一人の街人に見つかった。そいつは私の姿を発見するなり、大声で叫び声を上げる。結果として、寝ていた人達が家からゾロゾロと出てきた。……ついつい、皆んなを石化させてしまった」
…………。
周囲の空気が微妙になってきた中、ミネルは尚も手記を読み進める。
「○月×日。この前の晩、街人全てを石化させたかと思っていたのだが……。どうやら、どさくさに紛れて数人が街を抜け出していたらしい。なんか、王宮騎士団とかいう奴らが街を占拠してる。石を使って、皆んなを元に戻そうにも戻せない。もういいや。街と一緒に、皆んなの事を忘れることにしよう」
此処から先のページは、白紙になっている。
ミネルは無言でノートを閉じると、皆の顔色を落ち着いて確認する。
…………皆んな、青ざめている。全身に鳥肌を立てて、顔を青ざめさせている。
そんな最中。先程ミネル達が、通ってきた道から楽しげな会話が聴こえてくる。
「ねぇねぇ、ベジッサ! なんで暗闇に隠れてるのぉ? ウチ、ベジッサのお顔を見てみたぁーい!」
「こら、ドルチェ! 馬鹿言うなよ!! ベジッサは、皆んなに気を遣って隠れてるんだぞ? 皆んなが、石化しないようにな!! ……それよりも、この石のベタベタをどうにかしろよっ!!」
「まぁまぁ……。ユンバラさん、一旦落ち着きましょう。って、あ!! 女の子に暴力はダメですって!! ちょっ!? アフェーラ、一緒にユンバラさんを抑えて……!!」
「えっ!? わわ、分かった!!」
「…………皆んな、もうすぐ。私の住処に到着する」
そんな騒がしい会話と共に住処へと到着したユンバラ達は、ミネル達とパッチリ目が合う。
「「「「……………………あっ」」」」
「「「「……………………おっ?」」」」
バッタリと知り合いに再会した驚きの衝動で、お互いにその場で動きが停止する。
そんな中。
暗闇に隠れているベジッサの瞳が、ミネルの手に持たれるノートを捉えた。
刹那。
「うおわぁぁああああぁああああーっ!?!? そそ、それはぁ!! 私の絶対に見られたら、ダメなやつぅううっ!!!!」
ベジッサは顔を伏せながら暗闇から飛び出し、ミネルの方へと両手を伸ばして全力で駆け向う。
低く掠れた大きな声で威圧するように走り向かってくる者を目前に、ミネルは飛び上がりながら叫ぶ。
「うおぉおおぅぅ!?!? いきなりなんだっ!? もしかして手記の持ち主っ!? だだ、大丈夫だから心配するなっ!! 中身とか全然読んでないからっ!!」
変態に襲われると思い、咄嗟に嘘を付いてしまった。




