5章 第65話
石を探しているうちに、一つの疑問が確信へと変わったユンバラは、掠れた声が発せられている方へと言ってみることにした。
「……あの、もしかしたら。もう此処ら周辺に、石は無いかもしれない」
ここら周辺、全て隈なく探し尽くした。地面に這い蹲り、暗闇の中で手先をジッと吟味して探っていた。地面や壁にできている亀裂の中だって、舐めるように探った。
それでも何処にも無かったから、確信して言えるのだ。
掠れた声が闇の中から、ユンバラへと静かに言葉を返す。
「……実は私も、そんな気がしてた。でも、貴方が懸命に探すから。無いだろうとは、決して言えなかった」
……なんだよコイツ。俺のこと、ナメてるのか?
そんなことを思いつつも表に出さないで、ユンバラは和かな笑みを浮かべる。機嫌を損ねて石に変えられるなんて、堪ったもんじゃない。
「それじゃあ、移動しながら石を探しにいくかぁ……。歩いてたら、そのうち見つかるだろ」
「…………まぁ、それでもよい。見つけれくれるなら」
「お、おう……」
最後にプレッシャーを掛けられた気がするが、ユンバラは心奥深くでグッと拳を握り締め歓喜した。
……よしっ。歩いてるうちにミネル達を見つけて、みんなに助けを求めよう!!
力に自信があるユンバラだが、相手の姿が見えなければ、攻撃もなにもあったもんじゃない。
ということで……。皆の中に混じり姿を隠して、洞窟を大人しく抜け出そうという作戦だ。
そんな野望を考えつつユンバラは、何気なく闇の中へと問い掛けてみる。
「……そういえば。お前の名前、なんていうんだ?」
「…………ベジッサ」
「そうか」
そんなやり取りが密かにされている中、ミネル達は大声でギャーギャーと騒いでいた。
「おいおいっ、ガハラド!! ネバネバしたやつ、俺の身体に飛んできたぞ!!」
「貴方がそこに居るのが悪いんですよ!! それでは気を取り直し、進むとしましょう。標的は、あっち側に逃げて行きました」
床に落ちた松明を拾い上げてガハラドは、粘液から解放された身体を堂々を動かして進む。
その行動を見ながら、アマーロが呟く。
「凄いわねぇ……。自分一人で脱出するなんてぇ」
ガハラドは手に持っていた聖剣を巧みに使い、身体を不自由にする物質を切り裂いて自ら脱出してきた。
そんな行為のおかげで物質は、ミネルの身体に少々だが飛び散った。
「くそぉ……。早く、洞窟から出たい」
ミネルは半べそをかきながらも、ガハラドを追って洞窟の奥へと進んでいく。
そんなミネルに向かってシュティレドが、微笑を浮かべる。
「船に戻ったら、お風呂に入って服を変えるといいよ」
街の港に停めてあるミネル達の船の中には、お風呂や沢山の服が完備されている。
シュティレドからの提案に、ミネルは元気を取り戻していく。
「……単純ね」
イリビィートは鼻で笑いながら、ミネル達と共に足を進める。
同様にユンバラとベジッサの二人も、洞窟の奥へと足を進めていた。
二人で歩いているとはいっても、ユンバラからベジッサの姿は全くに見えない。石を探しながら下向きで歩いているとはいえ、ベジッサの姿は暗闇に溶け込んでいる。松明などで照らさない限り、シッカリとした姿を確認するのは無理に近いだろう。
「なぁ……。この洞窟に、どれくらい住んでるんだ?」
ユンバラは、石を探し歩きながら質問した。
「……数百年。たまに、夜遅くに街へと遊びに行ったりもする」
数百年と聞いても、ユンバラは別に驚かなかった。
数十年の人生を送ってきたユンバラ自身、数百年生きるという魔族だからだ。
そんなことよりもユンバラは、ベジッサの返答で気になったことがある。
「夜遅くに、街へ遊びに行くのか……?」
「……うん。この前も遊びに行った。でも、その夜。一人の街人に見つかって……、ついつい」
……ついついで、多くの街人を石化させちゃうのはマズイだろう。
そう思いながらもユンバラは、街人を石化させたベジッサに悪意がなかったことを感じ取った。
と。
「なぁ、出口はどこにあるんだ……?」
「あれっ? さっきも此処を通らなかったか??」
「早く出口を見つけて、ガハラド様に報告しにいくぞ……!」
そんな会話と共にガチャガチャと鎧を纏い歩く大勢の足音が、前方から聴こえてきた。