5章 第62話
「……ほほ、本物!?」
ユンバラは恐怖を感じ、足先から頭へと毛穴を震え上がらせながら肩をビクつかせた。
と。
暗闇の中に、黄玉色の二つの点とした光が浮かんでいることに気付く。ユンバラはそんな光を、闇に強く抵抗して光る太陽のように感じ取れた。
「なんだ……。あの綺麗な光は――」
心を落ち着かせ呟きながらユンバラは、それに近付こうとする。
この行為がきっかけで、自分自身の身体の異変に気付くこととなった。
「アレっ!? 脚が動かない!!」
急いで下に視線を向けてみると、足先から頭部に向かってグングンと自分が石化していっていることが理解できた。
「マジかよ!? 俺、石化してるじゃん!! えっ、このまま死ぬのか!? ちょっ、たす……」
全て喋り切ることも出来ずに、ユンバラは足元を見て焦っている格好で石化してしまう。
刹那。暗闇からユンバラに向けて、優しく柔らかな唇がソッと触れる。
瞬間に……、石化したユンバラの硬い身体が、柔らかな肌へと戻っていく。
「……下を向いて。顔を上げないで」
元の状態に戻るや否や、そんな注文が鼓膜に響く。
ユンバラは命令通りに、下を向いたままの体勢で口を動かす。
「えっ、なんで……?」
「……私と目が合わないように。石化したくないなら、言う通りにして」
「…………お、おう」
もう石化が懲り懲りなユンバラは、大人しく言葉に従うことに決めた。
ユンバラが俯いたまま固まっていると、再び闇の中から問い掛けられる。
「…………石、どこやった?」
「えっ、石!? 壁に刺さってた石のことか?」
「そう……。綺麗に輝く石。大切な物なの」
返答を聞いて、ユンバラの額から多量の汗が垂れ流れる。
地面に叩きつけて、どっかに消えたなんてとても言えない。
「…………さっきも言ったけど、地面に叩きつけたことは把握してる。それから、どこに転がった?」
分からないなんて、とても言えない。
ユンバラの額から、熱い汗が更に滴り落ちる。
しかし……。正直な事を言わなければ、これから先に話が進まない。ここは正直に、『失くした』と打ち明けるべきだろう。
打ち明ける覚悟を決めて、ユンバラは勢い良く口を開く。
「すみません!! 失くしてしまっ――」
「……失くしたなんて、言わせない」
「…………は、はい」
低く掠れた一言によって、ユンバラの覚悟はアッサリ砕け散った。
……畜生!! ドルチェが、石を引っこ抜いた所為だ!!
ユンバラの心が憎しみの感情で染まりつつある中、低く掠れた声がユックリとした口調で言う。
「…………まぁ。失くしてしまったのなら、探すほかない。この洞窟のどこかにあると思うし」
救いの言葉がユンバラを優しく包み込んだ。
「失くしたこと……。ゆ、許してくれるのか!?」
急に気持ちが軽くなった所為で、思わずそんな事を聞いてしまう。
瞬間。闇の中から、掠れた声が響く。
「…………いいや。見つけるまで、許さない。早く探せ」
「あっ。……はい」
ユンバラは一言返すと、石を探す事を決意した。
……許してもらう為には、しょうがないかぁ。
そんな事を思いつつ、ユンバラは薄暗い地面に両膝を付けながら手探りで石の行方を捜索する。
「なぁ、あの石。なんなんだ? 宝石とかなのか……?」
ユンバラが質問するなり、闇から掠れた声が鼓膜に優しく届く。
「…………黙って探せ。まぁ、強いて言うなら。アレは、石化を解く物だ」
「そうなのか! じゃあ、それで街の皆んなが!! ……って、あ」
ユンバラは、返答された声に反応している最中に思い出す。
「あ……っ、そういえば。街の皆を石化させたのって……」
「…………そうだ。なんか文句あるか?」
「…………ゔぅ、何にもありましぇんっ!!」
街の皆を石化させるほどの力を持つ者だ。逆らって良いことは、何一つないだろう。
ユンバラは、黙って石を探すことを決意した。
こんなことが起こっているとは知らず、ミネル達はどんどん深く洞窟の奥へと進む。
「――あれっ? ユンバラとドルチェ、どこ行った??」
ユンバラと数十メートル離れたところで、ようやくミネルが二人の存在が近くに無いことに気付いた。
ミネルが心配する一方、シュティレドは軽く笑みを浮かべる。
「まぁ……。ユンバラとドルチェのことだ。楽しくやっているんじゃない?」
「あー。まぁ、そうだな」
言葉に納得できたお陰でミネルが抱いた心配は、風に吹き飛ばされるように遠くへと消えていった。
能天気な雰囲気で会話をしながらミネル達は、王宮騎士団の後ろを付いて歩き、更に更に洞窟の奥深くへと潜っていく。